第32話 再会
帰りの電車の中では誰からも声をかけられる事もなく、平穏に家に帰宅する事が出来た。高校に入学したらバイトをする予定だが、学生生活に慣れるまではバイトはしてはいけないと母親から言われているので、5月になったらバイトをする事にしている。
次の日
俺は昨日よりも30分早く家を出た。昨日は見知らぬ女子高生に声を掛けられあたふたして注目を浴びたし、チカン騒動で俺の顔を覚えられたかもしれないからである。朝の電車はある程度は同じ顔ぶれになる。みんな通勤通学で電車を利用しているので同じ時間の同じ電車に乗る。30分早く乗ると昨日とは違う顔ぶれになり、昨日の出来事を知っている人は居ないので、気持ちが楽なので早めに家を出たのであった。
電車が駅に着くとドアが開く、この時間帯は人が少ないので急がなくても席に座る事ができる。昨日声を掛けてきた女子高生の姿はないし、俺の後ろに並んだ女子高生もいない。俺はドア側の角の席に座ってスマホを取り出しネットニュースを見て四条畷駅まで時間を潰すことにした。そして、電車が河内磐船駅に到着した時。
「すみません。昨日はありがとうございました」
俺はスマホから目線を外して声の聞こえた方向へ目をやると、ヘッドフォンをクビにかけ、小さなクマのぬいぐるみ抱いている女の子が居た。
「あ!昨日の・・・」
俺はすぐに口を閉じた。「昨日チカンをされていた方ですね」なんて言えるわけがない。
「大丈夫でしたか・・・」
慌てて言い直した言葉も的が外れている。チカンをされて大丈夫なわけがない。しかし、陰キャの俺が気の利いた言葉がポンポンと出るはずもない。
「ごめん。なんか違うよね」
俺は慌てて言い直した。
「クスクス・クスクス」
女子高生は口を抑えて笑い出す。
「ごめんなさい。つい可笑しくて笑ってしまいました」
「いえ、俺が変な事を言ったからしかたないよ。それに元気そうでよかったです」
俺はチカンに遭遇して気が落ち込んでいないか心配していたので、少し気持ちが晴れやかな気分になった。
「いつまでも気にしても仕方ないですからね」
「そうだね。って返答もおかしいかもしれないけど笑顔が見れてよかったです」
俺がそう答えると女子高生は顔を真っ赤にして照れていた。
「あ!その制服は磯川高校ですか?」
昨日は女子高生の制服をきちんと見ていなかったので、同じ高校の学生だと気づいていなかった。
「そうですよ。私のせいで入学式に出れなくてごめんね」
「気にしないで下さい。別に入学式なんてどうでもよかったからね」
母親に入学式の姿を見せてやりたいという気持ちはあったが、それよりも大事な事があったので後悔なんて微塵もしていない。
「そう言ってもらえると嬉しいです」
女子高生は俺の気遣いの言葉に気付いているので笑顔で感謝の意を示す。
「あ!名前を言ってなかったね。私、茜雲 極(あかねぐも きわみ)。同じ高校みたいなのでよろしくお願いします」
「茜雲・・・さん。もしかして俺と同じクラスかも?」
「え!そうなんですか?昨日母親が学校へ連絡したら1年5組って言われたよ」
「俺も5組。来週にバーベキューあるけど班も一緒やった」
「本当に!私友達を作るの苦手だから六道君が居る班でよかった」
「俺も苦手やから助かったかも」
それから俺は茜雲さんと四条畷駅に着くまでぎこちない会話をした。
「一緒に登校すると目立つから私1人で行くね」
四条畷駅に到着すると、茜雲さんは持っていたクマのぬいぐるみをカバンにしまいヘッドフォンを耳につけて先に駅に降りる。俺はなぜクマのぬいぐるみを持っているのか聞くことはしなかった。
茜雲さんが電車から降りると俺は少し合間を開けてから降りた。朝早い時間の電車だったので俺と茜雲さん以外の高校生はいなかったが、四条畷駅から磯川高校へ向かう道のりには自転車通学や徒歩で通学している磯川高校の学生がいるのだが、今は時間が早いのでほとんどいない。しかし、女子と2人で仲良く歩いていると彼女だと思われる可能性があるので、変な詮索をされないように茜雲さんは1人で登校することにしたようだ。
俺は改札口を抜けて3年間通い続けた通学路を歩いていく。昨日は大遅刻だったので、駆け足で通学路を駆け抜けたから、風景を懐かしむ余裕はなかった。しかし、今日は30分早めに家を出たので、のんびりと通学路を歩く事ができる。駅を降りると商店街の中を通って学校に向かう。今も商店街は残っているが店は様変わりしている。商店街を抜けると田んぼがあったのだが今は住宅が立ち並んでいる。俺は昨日楽しむことが出来なかった懐かしい風景と新しい風景を楽しみながら学校へ向かった。
人物紹介 茜雲 極(あかねぐも きわみ) 15歳 身長148㎝ 黒髪ロングの瞳の大きな女の子。常にヘッドフォンを付けクマのぬいぐるみを持っている。しかし、クマのぬいぐるみは通学中(電車の中以外)のみで、授業中はちゃんとカバンの中にしまっている。
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