第29話 班長
「班長は俺か六道だな」
上園はリーダー気質のある仕切るのが好きなタイプであった。他の3人はおとなしくて上園の言いなりで自分の意見を言わない。上園は身長は176㎝、体重98㎏でクラスの中では一番ガタイが良い。俺は175㎝なので身長ほぼ変わらないが、体重は58㎏と細身なので上園のが一回り大きく見える。そんな上園でもイケメンである俺に気を使って、どちらが班長になるか提案したようだ。
「上園君、勝手に話を進めないで!女子の意見も聞くべきよ」
「丸川、お前も班長をしたいのか?」
丸川さんは小柄の女性で身長は150㎝はなさそうである。ベリーショートで眼鏡をかけた自分の意見をしっかりと持つ女性のようだ。
「別にやりたいわけじゃないけど勝手に話を進めるのもどうかな?と思ったのよ」
「女子で班長をしたい奴はいるのか!」
横暴な口調で上園が言うので丸川さん以外の女子は俯いて何も言わない。
「そんな言い方をすれば何も言えないわよ」
「いちいちうるさいぞ!」
「私はきちんと話し合って決めましょうと言っているの。上園君が主導で決めるのはおかしいわ」
「だから話し合っているじゃないか!なぁ、六道」
こんなところで同意を求められても困ってしまう。丸川さんの言っていることはもっともだが、上園のように強引に話をまとめてくれるタイプがいると俺も楽である。上園の味方をしたいところだが、このままでは班の空気が悪くなるので丸川さんの味方をする事にした。
「俺は同意できない。丸川さんの言っている方が正しいと思う。班長はこのグループをまとめ上げるリーダーなので、上園ように強引に班長を決定するやり方は間違っている。まずは班長になりたい人に立候補してもらって、立候補者が複数でたならば、多数決で決めるのが良いと思う」
本音を言うと俺は班長などしたくない。立候補制にすれば班長をする必要もないので名案だと我ながら褒めてあげたいところである。
「それがいいわ!」
丸川さんが同意した。
「私も」
「私も」
丸川さんに続いて女子たちは俺の意見に賛同した。
「僕も」
「僕も」
「僕も」
「俺もだ」
全員が同意して班長は立候補制になる。
「じゃあ、班長になりたい奴は手を上げろ」
仕切りたがりの上園が声を上げる。そして、すぐに挙手をする。上園以外は誰も手を上げない。そもそも班長なんて誰もやりたくない。俺はこのような結果になるのはわかっていた。
「上園できまりだね」
俺は安堵の笑みを浮かべながら言う。
「ちょっと待ってよ。なんで、六道君は立候補しないのよ」
丸川さんが俺に詰め寄って来た。
「あの流れなら上園君と六道君が立候補して多数決になるはずよ」
上園以外はみんな頷いた。
「丸川!俺が班長だと不服なのか」
「もちろんよ。あなたみたいな横暴な人は班長に向いていないわ」
「丸川さん、立候補で決めることにしたんだから、結果を素直に受け入れるべきだよ」
俺は班長をしたくないので、今回は上園の味方をする。
「でも・・・」
丸川さんは悔しそうに俯いた。
「六道、やっぱりお前が班長をやれ」
「え!」
「こんな空気で班長なんてできるわけないだろ」
周りをみると丸川さんだけでなく他の7人も上園に班長をして欲しくないような顔をしていた・・・というよりも、上園以外は俺に班長をして欲しかったのである。上園は態度は横暴だったが空気はきちんと読めるヤツだった。
「六道君、班長をやってよ」
「僕も班長は六道君がいいと思う」
「僕も」
「僕も」
「私も」
「私も」
「な!こんな雰囲気で班長なんてできるわけないだろ!」
「・・・わかった」
俺はしぶしぶ班長になる事にした。班長が決まったら次は役割分担をしないといけない。役割は火を起こす係が2名、食材を作るをする係が4名、タープを設置する係が3名である。班長は全部の役割を手助けする役目である。
「班長は六道だから、仕切ってくれよ」
「あぁ」
人を仕切るなんて今までしたことはない。俺はたかが10人の班を仕切らなければいけないと思うと重圧で言葉が出てこない。
「・・・」
「六道君?どうしたの」
なかなか言葉を発せない俺を心配して丸川さんが声をかける。
「六道?緊張しているのか」
「あ・・・あぁ」
俺は素直にぎこちない返事をする。
「六道君みたいな人でも緊張するんだぁ~」
丸川さんがほくそ笑む。はたから見ればイケメンで高身長は、自分に自信があって積極的な性格だと思うのが一般的である
「僕、正直に言うと六道君は苦手なタイプだと思っていたけど、少し親近感がもてたよ」
恥ずかしそうに塩野が言う。塩野は身長155㎝体重75㎏と背が低くふとっちょの男性である。上園とは中学時から友達で上園の子分的な存在のようだ。塩野にはイケメンの俺は陽キャだと思っていたので気おくれをしていた。しかし、俺の緊張をしている姿を見て親近感を覚えたのである。
「そう言ってくれると俺も気持ちが少し楽になるよ。頼りない班長だけどよろしく」
塩野の素直な言葉に俺は嬉しかった。俺は同級生にどのように思われているか、とても気になっていた。特に陰キャグループのこの班では、俺はどのような立ち位置に居れば良いのかわからない。無理して陽キャを演じて引っ張手いく必要が無くなったので俺は安心した。
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