第10話 偽善
その後もいくつかの部屋を回って食器の片付けをした。しかし、仮屋園主任は一切手伝う事はなく、入居者さんと会話をして愛想をふりまいていた。しかし、俺はそんな仮屋園主任のコミュニケーション能力の高さに感服した。
「あいつは学校では教えてくれなかった、社会での上手く立ち回る施術を持っている。悔しいが、社会では俺のような真面目でコツコツと仕事をする人間よりも、アイツのような人間が重宝される。俺も今回は要領良く生きないと・・・」
と思うが実際はそんな器用な立ち回りなんて出来るわけがない。そもそもコミュニケーション能力0の俺は人と話すのが苦痛である。そんなことを思いながら1日目のボランティアが終わった。俺はベットメイキング、食器の片付け、施設内の清掃などをした。俺はどれくらい好感度ポイントが手に入っているか、ワクワクしながらステータス画面を開いた。
「好感度ポイントは20ポイントかぁ~」
結局、仮屋園主任からは好感度ポイントを得る事はなかったが、入居者さん、その他の職員さんから好感度ポイントをゲットしていた。15歳の少年がボランティアで施設の手伝いをしている光景は、入居者さんや施設の職員さんにとっては好感が持てる光景であった。
「やったぁ~」
俺は小声で小さくガッツポーズをする。好感度ポイントを稼ぐためにボランティアをしているので、褒められるものではないことは重々承知の上だ。だから、仮屋園主任から好感度ポイントをもらえなくてもガッカリはしない。逆に俺の心を見透かされているのか不安な気持ちになるくらいだ。でも、ボランティア活動はすることに意義があり、それが偽善活動であっても、その結果を喜んでくれる人がいれば、何もしないよりかは、有意義であり人の為になっているのは確かだ。
俺がしているのは偽善活動かも知れない。自分の欲の為である事は間違いない。しかし、人手不足で困って居る母親の会社の手伝いをする事で、職員さんも入居者さんも喜んでくれるなら、それは結果として慈善活動と同じ答えを導きだされる事になる。俺はそのような言い訳を用意して、明日も施設のボランティアをがんばることにした。
あれから一週間、俺は一日も休むことなく施設でのボランティア活動を頑張った。最初は不器用でシーツ交換も時間がかかったが、誰でもできる作業なので、さほど時間はかからなくなった。しかし、仮屋園主任が全く手伝ってくれないので、最終的には大垣さんと御堂さんに手伝ってもらう事になる。しかし、2人は嫌な顔をするどころか、優しい笑顔で俺を励ましてくれる。
「昴くんは一生懸命頑張ってるけど、不器用なので時間がかかってしまうんだ。いつも遅くなってごめんよ」
何もしない仮屋園主任はそとずらだけは完璧である。
「いえ、問題ありません。昴くんが手伝ってくれるだけでも私たちはとても助かっています」
「そうです。ホントに助かります」
2人は心の底から感謝をしてくれてるので、日を増すごとに好感度ポイントは増えている。それに比べて、未だに仮屋園主任からは好感度ポイントは得る事はない。
「昴くん。シーツの交換が終わったら、食器の片付けをしてくださいね」
仮屋園主任はみんなの前では笑顔を絶やさない。
「わかりました」
俺はいつも通りに食器の回収に向かう。
「おはようございます。食器を片付けにきました」
俺はこの一週間で挨拶が出来るほど入居者さんへの抵抗がなくなっていた。
「おはよう、昴ちゃん。今日も食器を片付けに来てくれたのかい」
「はい。今から片付けます」
「毎日休まず来るなんて偉いわね」
「いえ、春休み中なので暇なのです」
入居者さんの中でも下条さんは気さくで俺にたくさん話しかけてくれるので、コミュニケーション能力の低い俺でも、下条さんは特に話しやすくなっていた。下条さんは旦那さんとは死別して一人身である。息子たちも近くには住んでいないのでいつも1人で寂しいので、孫のような年齢の俺が可愛くて仕方がないようだ。
「高校はいつからかい」
「4月7日が入学式です」
「そうなのかい。それまでは施設にはきてくれるのかい」
「はい」
「それはうれしいわ。昴ちゃんの顔を見ると元気がでるわ」
「ありがとうございます」
俺は素っ気ない会話しか出来ないが、これでもかなりがんばっているほうである。下条さんは、他の入居者さんに比べて多めにポイントをくれるので、俺は特にがんばっていたのかもしれない。しかし、多めにポイントをくれるだけじゃなく、下条さんが嬉しそうに声をかけてくれるのがとても嬉しかった。俺の人生で親以外でこんなにも笑顔で声をかけてくれる人なんていなかった。だから俺は下条さんと話す事が好きになっていたのかもしれない。
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