二十話『世間知らず』
「くらいなさい!」
スコピオが鎧の人物めがけ後頭部から伸びた尻尾のような毒針を放った。鎧の人物は右手の盾で攻撃を受け流し、スコピオに近付く。
スコピオは受け流された毒針をムチのように操り攻撃する。鎧の人物は迫る毒針を左手のハンマーで叩き落とし。さらに近付く。
スコピオは叩き落とされた毒針で鎧の人物の頭部を狙う。鎧の人物は難なく回避し、逆にハンマーをスコピオの頭部に振り下ろした。
ハンマーはスコピオの両腕のハサミでガードされ、スコピオの頭部には当たらなかった。スコピオが毒針で鎧の人物を攻撃しつつ距離を取るが、鎧の人物は盾でガードした。
「キイィィ!クソッ!面倒くさいわね!そこをどきなさいよ!」
「…」
「また無視!キイィィ!マジムカつくわ!」
目の前で行われている戦闘。スコピオは悔しいがスゴい!すらっとしたスタイルなのに、重いハンマーの一撃を両腕のハサミでガードして見せたし、ハサミと毒針に傷一つ入っていない!とても頑丈な皮膚らしい。
相対する鎧の人物。重そうな鎧を着込んでいるのにあれだけの素早い動き!これだけ動いているのに、息が上がっていないように見える。中の人物は相当な熟練者なのだろうか?
「キイィィ!これじゃいつまで経っても終わらないわ!」
「ヨロイ!油断するな!」
「…」
そのままヨロイ?と呼ばれた人物がハンマーをブンブンと回しながら、スコピオに近付く。攻撃が直ぐに届きそうな範囲まで来た。
にらみあう両者。"次の一撃で決まる"そんな気がする…。先に動いたのは鎧の人物!先程までより速い!スコピオは反応出来ていない!決まった!…と、思われたが。
「【スクロール】!」
スコピオが叫ぶ。鎧の人物と向かい合っていた彼女の身体が消え、突然鎧の人物の真横に現れた。計画通りとばかりの不気味な笑み。
気付いた鎧の人物がハンマーを振るうが、それよりも速くスコピオの後頭部の毒針が、鎧の人物の首元を捉えた!あっ!宙を舞う兜。
「キャハハ!まずは一人!」
「えっ?…何よそれ?」
地面に落下した兜と首から上が無くなった胴体。どちらからも血は出ていない。それどころか中身が真っ暗で何も見えない。
テイトとスコピオが驚いていると、胴体の方から兜に向けて黒紫色の煙がうねうねと伸びる。煙が兜まで届くと一緒に胴体に戻り、兜と胴体が結合し元通りになった。
「ヤツは人間じゃねぇ」
「呪いの鎧が勝手に動いてんだ」
人間じゃない?呪いの鎧?アルフの言葉にテイトが疑問を浮かべていると、スコピオがこちらを向いた。
「だったら魔女!あんたから!」
毒針がアルフに向かって飛んで来る!
「アルフさん!危ない!」
「ふん、【
アルフは飛んで来た毒針を難なく弾く。
「万策尽きたな?終わりだ」
「…」
鎧の人物が再びハンマーをブンブンと回し出した。うなだれるスコピオ。
スコピオが両手を広げた。
「分かったわよ!もう竜の子は狙わない!」「大人しく帰るから命だけは許して!」
「どうか!お願いよ!」
「あぁ?ダメだね」
地面にひれ伏して許しを乞うスコピオ。戦意の無い人物を複数人で囲んでいる。
今の状況が"弱い者いじめ"をしているようで、自分達がやっている事は本当に正しいのか分からなくなる。
こんな時親父なら、妹ならどうするかな…。飛び出したテイトはスコピオに背中を向け、両手を広げてアルフの前に立ちはだかる。
「アルフさん!こうやって言ってるし、今回は許してあげましょうよぅ!」
「彼女にも何か理由があったんですよ!」
「はぁ?アホかテメェ?なぁ!そいつは洗脳されてた男の家族を殺してんだろ!何でそんなやつ助けるんだよ!」
「だって…」
テイトが答えられないでいるとスコルピが不気味に笑った。アルフ達は気付かない。
「もういい、邪魔だからどいてろ」
立ちはだかるテイトを避けて、スコルピに近付くアルフ。しまった。スコルピの笑い顔。
「避けろ!」
「えっ?」
「…なーんてね!」
毒針がテイトの身体を貫いた。ドクドクと流れる血。後に口からも流血。スコルピは毒針を引き抜くと、ロープの様にテイトの身体に巻き付け、テイトを持ち上げて逃走した。
「おい!待て!」
「【スクロール】!」
「やったわ!上手くいった!竜の子を捕獲出来たわ!これで私も幹部の仲間入り!」
スコピオは【スクロール】を連続で使用してどんどんアルフ達から見えなくなる。
遠ざかるアルフさんとヨロイさん。ダメだな僕は。何も知らない、何も出来ない無力な素人が戦闘のプロのアルフさんの邪魔をして。
今まで親父とクエラ、街の人達としか関わりが無くて、人はみんな優しくて正直で、間違えても何度でもやり直せると思っていた。
世の中には優しい人ばかりいる訳じゃない。人生はそんなに甘くない。人は嘘を付くし、平気で他人を騙すんだな。知らなかった…。
あぁ、意識が遠のく。まぶたが重い。アルフさんごめんねぇ。せっかく妹の救出に協力してくれるハズだったのに…。ミルフさんも、トルトスさんもごめんねぇ。
クエラ、助けられなくてごめん。ダメなお兄ちゃんでごめん。…いや、そうだった。クエラを助けないと。死んだ親父の代わりに。殺された親父の代わりに。殺された?誰に?
…あぁ、そうだ。親父は殺された。魔人に。そうだ。殺さなくちゃ。魔人を。
"テイトの心臓の鼓動が大きくなる"
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