十八話『写真』

町を出て二人で歩く。荷車を引くテイト、その横を歩くアルフ。重そうに荷車を引いていると見かねたアルフに怒鳴られる。


「あー!もういい!貸してみろ!」

「【回収コレクト】!」


テイトが引いていた荷車が光になってアルフが首から下げるネックレスに吸い込まれていった。


人だけじゃ無く、物も異空間にしまっておけるんだ!へぇ!便利ぃ!"どうもありがとうございます"お礼を言ってアルフに問う。


「これからどこに向かうんですかぁ?」

「ミルフさんからは南の島のフォスさん?の所で竜に成る方法を教わるって…?」


「そうだ、早速だがこれから島に向かう」

「特訓するにはもってこいの場所だ」

「あの島なら並の魔人は入ってこれねぇし」

「万が一島に入れてもアイツの敵じゃねぇ」


そんなにスゴイのか!フォスさんは!こりゃ会うのが楽しみですな!フォフォフォ!


テイトがヒゲの生えていない自身のアゴを、お爺さんのようにさすさすしながら歩く。


「この辺で良いだろう」

「タクシー!来い!」

アルフが首から下げるネックレスが光り、黄色い鳥タクシーが現れた。やはりデカい…。


「ピヨピヨ!」

デカいけど鳴き声はカワイイんだよなぁ〜!これがギャップ萌え?ほうほう、なるほど。


「…はぁ」


「アルフさん?どうかしました?」


「…テメェの家に一旦戻る」

「必要な物があったら取って来い、持って行ってやる」


「えっ!良いんですか!」

何となく分かってきた。アルフさんは口は悪いが、優しい人なんだろうな。口は悪いが。


タクシーの背中に乗って自宅に戻った。一応魔人の気配をアルフさんに見てもらったけど大丈夫だって。持って行きたいものを探す。


何を持って行こうか?持って行きたいものは沢山あるけれど…必要な物って?歯磨きとか?着替えとか?寝具とか?分かんないや。


そう言えば、アルフさん達ってお風呂とか歯磨きとかどうしてるんだろう?聞くと、トルトスさんの水魔法で身体と口の中を洗浄出来るみたいで、何も持って行かなくていいって。


衣服もトルトスさんの水魔法で洗濯的な事が出来るから、二・三着あればいいって。トルトスさんそういう魔法も使えるんだね!


衣服が破れたりしたら、ミルフさんが縫ってくれるって。あのオオカミさん、料理出来るし、裁縫出来るし…家庭的すぎる!


枕は…要らないか。枕無しで寝ればいいし。そのうち慣れるだろう。慣れるかな?


本は…やめておく。本当は持って行って読みたいけれど、そんな場合ではない。早くクエラを助けなければ。キリッとした表情。


一緒に本棚に並んだ"ルネル・ネルネさんの写真集"が目に留まる。手に取る。ニヤける。アルフさんの視線。はっ!油断した!いけない、いけない。持ってはいかない。棚に戻す。


そう言えば、親父の部屋ってあんまり入った事ないな。普段僕が自分の部屋でダラダラしてるのもあるし、特に用事なかったし。


親父の部屋の前に移動。忍び足で侵入。

「おじゃましまぁ〜す」


机の上。几帳面に並べられた何に使うか分からない道具。多分医療器具だろうけれど。他には〜…あっ、アルバムを見つけた。


気になって開く。僕とクエラが写った写真。しかし親父が写ってる写真は一枚も無い。いつも僕ら兄妹の事を撮ってくれてたから…。


ポロポロこぼれる涙。二人に会いたいな…。いつの写真かは忘れたけれどクエラが笑顔で写っている写真を一枚持って行こう。


アルバムから写真が一枚ハラリと落ちた。確認すると、他の写真に比べて古びている。写っているのは男性二人と女性一人。


男性二人は軍服?女性はワンピースを着ている。男性一人は仏頂面で、残りの男女は笑っている。誰だろう?昔の親父だったりする?


アルフさんに聞いても"知らねぇ"とのこと。持って行くか?何かの手がかりになるかも?てか、持って行くもの写真二枚?まぁいいか。


「持って行きたいもの、これだけでした」


「そうか、じゃあ行くぞ」


外に出て振り返る。さらば!自宅!必ず妹を救い出して帰ってくるぞ!決意を新たにやる気あふれる表情。


ハッとするテイト。申し訳無さそうな表情。

「アルフさん、トイレ…」


「…早くしろ」


「ごめん!ちょっと待ってて!」

アルフさんに外で待っててもらい自宅に戻り、突き当たりのトイレを目指す。


あれ?何だ?なんか違和感を感じる…。

「…やっと一人になっタ」


「!」

突然、後ろから声をかけられて驚き振り向く。そこに一人の男性。見覚えがある顔…どこかで会った?なぜ家の中に?


…はっ!そうだ!親父が診察した母親と二人暮らしの男性。あの人だ!うつろな目。手にはナイフ。じりじりと距離を詰め、迫り来る。


「まっ、待って下さい!」

「僕ですよぉ!ルイボルの息子です!」

「どうしちゃったんですかぁ!」


「…返セ!返セ!返セ!」

説得を試みるも、こちらの問いかけに応じる様子はない。声が聞こえていないみたいに。


男性がナイフを構える。ヤバい!ヤバい!ナイフを振り下ろす!ギリギリで避けた!マズい。男性は僕を本気で殺す気で来ている!


どどどどどどどど、どうする?

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