十七話『お別れ』

守衛さんがこちらに気付く。

「あっ!ルイボルさんの息子さん!」

「昨日は大丈夫でした?」


「えっ!?何がですかぁ?」


「突然空が暗くなったので、通り雨かと思ったけど雨は降らなかったし」

「しばらくして元の青空に戻ったし」

「結局何だったんですかね?あの暗い空は」


「あっ、あ〜!不思議でしたよねぇ〜」

「僕らも雨が降ると思って急いで帰ったんですけど、無駄骨になっちゃいましたよぅ」


「そうでしたか」

「あれ?そう言えば今日は、ルイボルさんいらっしゃらないんですね」


案の定書かれた親父の事。緊張で心臓がドキドキ。口がパサパサ。親父は…親父は…。


「…実は僕たち、引っ越す事になりまして、親父は…先に引越し先に向かいました」

「僕もこの後、引越し先に向かうんです」


「えっ!そうなんですか!それはまた急に」


「はい…実家で一人暮らしをしている僕のばあちゃんが体調を崩しちゃって」

「今は…体調は回復したらしいんですけど」

「またいつ同じような事があるかも知れないから、ばあちゃんの面倒を見るため…一緒に暮らす事になりました」


「そうでしたか…それは寂しくなりますね…」


「別に…二度と会えなくなる訳じゃ…ないし、あいさつは手紙でも送る事にするって」

「街のみなさんに会ったら、寂しくなるから会わないって…言ってました」


「へへ、そうですかルイボルさんらしいや」

「確かに街のみんなは悲しむから、その方がいいのかも知れませんね」

「そうだ、新しい住所とかって?」


「え〜っと…引越しが落ち着いたら、こっちから手紙を出します」


「そうですか、じゃあ待ってます!」

「それで、そちらのお嬢さんは?」


"お嬢さん"と聞き、眉がピクリと動くアルフ。今にも守衛さんに噛みつこうとするアルフ。守衛さんとアルフの間に割って入るテイト。


「アルフさんです!こう見えても、親父の師匠なんですよぅ!」


「ルイボルさんの師匠?って事は、お医者さん先生でしたか!それは失礼しました!」

守衛さんがペコリとお辞儀する。


テイトをじっと見つめるアルフ。目を逸らすテイト。手続きを終え、街の中に入った。


「アタシは良いと思うぜ、うそをついても」

「その嘘が"自分を守るための嘘"じゃなくて、"誰かを傷付けないための嘘"ならな」


アルフの言葉を聞いて上を向くテイト。目から何かこぼれる所だった。目を手で覆う。

「ガキ、刺客が潜んでるかもしれねぇ、アタシから離れるな」


町に入ってすぐに人だかり。テイトに気付いてざわざわ。


定食屋さんの店主が二人に話しかけてきた。

「ルイボルさんとこの息子さん!」

「昨日は大丈夫だったかい?」


聞くと家に向かった僕達親子が心配で、仲間を集めて僕の自宅まで様子を見に行こうとしていたらしい。


守衛さんにした話を店主さんにもした。アルフさんの事も"お嬢さん"と呼ばれる前にあらかじめ話しておいた。


「そうかい…寂しくなるねえ」

「本当はルイボルさんに直接会って、これまでのお礼をしたい所だが…」


"ちょっと待ってな"と言われ、ちょっと待つ。しばらくして店主が定食屋から出て来た。手に何か持っている。


「にぎりめし作ったから、移動中に食べな」

「ルイボルさんにもよろしくな!」

「手紙楽しみにまってるからよ!」


"ありがとうございます"お礼をして先に進む。服屋さんの看板娘に会った。定食屋さんの店主にした話を看板娘にもした。


「そうなのね、さびしくなるわ…」

「そうだわ!ちょっとまってて!」

しばらくして看板娘が服屋さんから出て来た。手に何か持っている。


「このTシャツよかったらもらって?」

「スゴい汗を吸ってすぐに乾くTシャツ」

「これから夏の時期に重宝するはずよ!」

「ルイボルさんにもよろしくね!」


"ありがとうございます"お礼をして先に進む。床屋さんの奇抜な髪型の三代目に会った。服屋さんの看板娘にした話を三代目にもした。


「それはさびしくなりますね…」

「そうだ!ちょっと来て下さい!」

店内に案内され言われるがままついていく。髪の毛を切ってもらった。横を刈り上げちゃってオシャレ男子になっちゃった!


「助けてもらうことばかりだった…」

「そう言えば、ルイボルさんは一度も髪を切らせてくれなかったな…」

「息子さん!ルイボルさんによろしく!」


"ありがとうございます"お礼をして先に進む。

大きな家に住むマダムに会った。床屋さんの三代目にした話をマダムにもした。


「まぁ、それは残念ね…」

「ちょっと待ってらして?」

マダムの愛猫ブーちゃんを二人でなでなでしながら待つ。しばらくしてマダムが茶色の紙袋を持って来た。


「中にネコちゃんと遊ぶグッズが入っているわ、ネコちゃんと遊ぶ時に使ってあげて?」

「ルイボルさんには本当にお世話になったわ、引越し先でも元気でいらしてね」


"ありがとうございます"お礼をして先に進む。

「おいガキ、あの女何者だ?」


「実は僕もよく分かんないんです」

…最後までマダムの正体は分からなかった。


その後も、次々に住民からこれまでの感謝の言葉を受ける。"ルイボルさんにあれをしてもらった、これをしてもらった"と聞いた。内容は小さな事から大きな事まで色々。


親父は町で沢山の人に感謝されていた。今日受けた感謝の言葉を親父に届ける事はもう出来ないけれど、感謝の言葉は忘れないようにするし、親父の事を改めて誇りに思った。


親父が診察していた母親と二人暮らしの親子の家は留守で会えなかった。残念。


町の入り口に戻って来た。預けた荷車いっぱいの荷物を引き取る。


守衛さんに借りたランタンを一つ壊してしまい、一つ家に忘れてきた事を話したが、"あげるつもりで貸したから、返さなくていい"と言われた。


手続きをして町を出ようとすると、町の出入り口に住人が集まる。

「妹ちゃんにもよろしくねー!」

「息子さんも元気でー!」

「いままでありがとうねー!」


手を振って町を出た。荷車から星型のサングラスを取り出してかける。空を見上げるも、レンズが曇っていて空がぼやける。拭いても拭いても空がぼやける。

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