毒
十五話『覚悟』
拷問部屋の扉を開けて外に出ると、明るく、円形で広い部屋に繋がっていた。中央に大きなカーペット。ソファも置いてある。
その部屋の壁を取り囲むように、無数の大小さまざまな大きさ、色、材質の扉が配置されている。アルフに質問。
「アルフさん、ここはどこなのぉ?」
とても面倒くさそうなアルフ。
「あぁ?説明めんどくせー」
「アイツに聞いてくれ」
アルフが指差した方を向くと、全身包帯で巻かれた人物!動いている!ミイラ男だ!(中身、女性かもね!)おそるおそる声を掛ける。
「こっ、こんちはぁ〜」
「モゴモゴモゴ」
「僕、テイト・ノガールドって言います」
「モゴモゴモゴ!」
なんて言っているか分からない…。ミイラ男は自身の顔を、包帯でグルグル巻きの両腕でペチペチしている。息出来てるの?
アルフに聞こうと振り向くと、彼女の姿はすでに無かった。広い部屋に自分とミイラ男の二人だけ。
仕方ないので口の辺りに隙間を作ってあげた。ミイラ男が口を開く。はっ!見覚えのあるキバ!聞き覚えのある声!
「ぷはーっ!危なかったっす!」
「テイトさん!オレっす、ミルフっすよ!」
「ミルフさん!無事だったんだねぇ!」
「見ての通り、無事ではないっすけど…」
「まぁ、元気っす!」
ミルフは両腕をパタパタした。
「良かったよぉ…生きてて…」
テイトの目に涙が浮かぶ。ゴシゴシする。
「テイトさん!泣かないで下さいっす!」
えっ?それ、見えてるの?いや、見えてないか、こっちに背中向けてるもんね。
「そうだ!トルトスさんは大丈夫なのぉ?」
「トル爺は爺さんだし、オレみたいに頑丈じゃないんでまだ寝てるっす…」
「でも命に別状はないみたいっす!」
良かった…。ひとまず安心した。ミルフを中央のソファーに座らせ、気になっていることを色々聞いてみることにする。
「ミルフさん、ここはどこなのぉ?」
「ここは現実世界には存在しない、姐さんが創り出した異空間っす」
「テイトさんも見たっすよね?トル爺が姐さんのネックレスから現れたの」
「あのネックレスがこの空間に繋がってるんすよ」
「ほぇ〜」
なぜか自慢げなミルフ。更に続ける。
「この空間にはオレら召喚獣と、姐さんが許可した人物しか入れないようになってんす」
「今オレらが居るここが大広間で、壁の扉から召喚獣の部屋に繋がってるんすよ」
だからいっぱい扉があるんだな!納得!
「召喚獣って何人?何体?居るの?」
「オレとトル爺、あとエルフのネルカ」
「主に姐さんが召喚するのは三体っすね」
「オレらはここに住んでるっす」
ネルカさんってのは拷問部屋に居た、金髪美女のことかなぁ。耳どうだったっけ?
「あと、姐さんと召喚契約はしたんすけど、ここに住んでいない召喚獣も居るっす」
「扉に表札は有るけど、誰も居ない部屋がその人たちの部屋っすね」
確かに表札が有る部屋と無い部屋がある。表札の名前は…うーん読めない!
「その中に他の扉と違って、分厚くてダイヤルが付いてる扉無いっすか?」
「え〜と、あっ!あったよぉ!」
金属質の重厚な扉に、大きくした金庫のダイヤルのような物が付いている。他の扉よりも扉のサイズが大きい。あっちにもある!
「その扉の向こうには、『ヤバいヤツが封印してある』って姐さんが言ってたっす」
「まぁ、オレも見たことはないんすけど」
「へ、へぇ〜」
扉からゆっくり離れ、ソファに座り直した。
正面に五百ミリリットルペットボトル程の大きさの扉が目に入った。ミルフに聞く。
「あのとっても小さな扉は?」
「あぁ、コロポックルの部屋っすね」
「ためしに三回手を叩いてみて下さい」
パチパチパチ。しばらく待つ。
小さな扉から沢山の小人が出て来た!トテトテトテ。まんまるの黒目で不思議そうにこちらを見つめている。おい!カワイイなぁ!
「コイツらはコロポックルっす」
「この空間で身の回りの世話をしてくれてるんすよ」
「へぇ、こんちはぁ!」
フリフリ揺れてて、笑っているように見える。親指と人差し指で握手。カワイイなぁ!
「召喚獣はこの空間に居れば、ノドは渇かないし、腹も空かないんすよね、仕組みは分からないっすけど」
「あれ、でも僕ん家でご飯作って三人で食べなかった?」
「あれは何となくっすよ!それにみんなで食べた方が美味しいじゃないっすか!」
「確かにぃ!そうだよねぇ!」
全身包帯に巻かれて、口だけ見えるミルフとワハハと笑い合った。ピタッと止まるミルフ。
「そう言えば忘れてたんすけど」
「テイトさん何でここに居るんすか?」
「実は僕もよく分かってなくてぇ…」
目を覚ましたら拷問部屋で拘束されていた事。アルフから聞いた、僕が竜に成ってクロウとヒヒを消滅させた事を話した。
「それが本当ならあの二人には悪い事をしちゃったなって…」
「なんでっすか?」
「えっ、だってかわいそうじゃん」
「"消滅"って死ぬって事だよねぇ?」
「テイトさんは甘ちゃんすね、ルイボルさんを殺されて、妹さんも連れ去られて、自分も命を狙われてたのに、そんな相手に『かわいそう』って甘甘っすよ」
「う〜ん、そうかなぁ…」
「アイツらもオレらのことを殺そうとしたんすから、逆にオレらに殺されても仕方がないんすよ、それぐらいの覚悟で来ないと」
「戦いってそんなもんす」
ミルフの考え方。確かにそうだとは思うけど、やっぱりかわいそうだと思ってしまう。直ぐに納得する事は出来なさそうだ。
「それにこれから妹さんを救い出すために、魔界に行って魔人と戦うんすから、テイトさんも"命を奪う覚悟"をしておかないと」
「そうか…もうちょっと考えてみるよぉ」
「テイトさん優しいんすね」
「オレは甘ちゃん嫌いじゃないっすけど」
「あっ、コーヒー飲みます?」
「ミルクと砂糖ある?」
パチパチパチ。手を叩いてしばらく待った。
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