第7話 そんな娘も…

「やくざいししゃんになる…」

 

 洗脳なのかなんなのか、娘は幼稚園のころからそう言っていました。

 祖父祖母、母、叔父、いとこおば、曾祖母、曾祖父、大叔父、まで薬剤師さんです。


 ビデオにも残っているのですが、娘は産まれてすぐに調剤室で育てられました。

 妻が働いていますからね。


 ベビーカーに乗っていたり抱っこされながら母親や祖父母、その他の薬剤師さんの仕事を見ていたことになります。


「大きくなったら薬剤師さんになるんだもんなあ…」

 何度も言われていたのでしょうね。

 仕事もやくざいししゃんもよくわからないまま、

「やくざいししゃんになる」

 とずっと思っていたのでしょう。


 私はまだベビー用品メーカーにいましたので、その場にはいなかったのですが、たくさんのスタッフに囲まれて育ったようです。


「やっきょくにはおばあちゃんがたくさんいる…」


 年配の薬剤師さん店員さんが多いので、実際に孫もいる方も数人いてね…


 本当のおばあちゃんも含めれば、3人以上「おばあちゃん」は常にいて、誰かがいつもかまってくれていたそうです。


 かわいいですからね…


 立てるようになるとちょこちょことお店に出て、子供用のエプロンを付けて…


「看板娘」ではなく

「看板幼児」はカウンターから二つ結びのかわいい頭だけをだして人気者のようでした。


 かわいいですからね…


 幼稚園に行くまでの間です。


 さて、まだそんなに大きくなかった時です。


 調剤もやっていますが、洗剤、シャンプーリンスコンディショナー、トイレの芳香剤や殺虫剤、トイレットペーパーやティッシュ、各種ドリンク、男女の化粧品、温度計、体温計、血圧計、ローション、めんぼう、ほっかいろ、マスク、洗剤、柔軟剤、はみがき、歯ブラシなどのオーラルケア、生理用品、飴、サプリメント、検査キッド、サランラップ、成人用おむつ、ふきん、タオル、サンダル、傘などなど、ドラッグストアでもあります。


 一般薬も多いです。普通に売っているのに普通すぎて書き忘れました。


 そうゆうわけで納入のさいの大きなダンボールがいくつもあります。

 もちろん廃棄します。すごい量です。

 

 娘がやっと歩き始めるころ、抱っこにあきちゃうことがあります。

 調剤室の外に出すわけにはいかず、忙しい時など一人で遊んでもらうことになります。


 他の薬局からの研修生の薬剤師さんがいました。

 勉強ですね、義父の友人のお子さんでした。

 修行というかなんというか…


 その研修生さん、考えてくれました。


 ダンボールを半分くらいに切って、ガムテープで養生して手を切らないようにして…


 ハウスを作ってくれました。

 幼児のマイホームです。

 娘は喜んでそこで遊んでいたそうです。

 タオルも敷いてもらってね…


 娘は1歳にしてダンボール生活をしていました。


 そんな彼女も今薬学部の3年生になっています。



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