第16話 襲われた村を探索

幸樹こうき、アリーサと共に車で懐かしの村まで来た。まだこちらの世界に来てから、余り時は経っておらず、村は風化していない。ただ、村には所々に遺体が放置してあり、鳥や魔獣などに食い荒らされて、遺体の確認も出来ない状態だった。周りを見渡すが、付近にシュミール人は居ない様だ。ただ、魔獣の気配はあり、油断できない。


探索していると、魔獣が出てきたので、幸樹こうき達に討伐してもらう。正直、武器を使った戦闘は戦力外。アリーサに教わった水魔法は、適正もあり、使える様になったが、現状は役に立たない。ちなみに水魔法は攻撃手段が乏しく、ウォータージェットカッターの様に高圧にして排出した水で、切り裂く様な魔法しかないらしい。ただ、自分が使用しても、威力は出ず、良くて高圧洗浄機ぐらいだ。その高圧洗浄機魔法でも、使用すれば、昨日の夕飯に食べた魔獣一匹分の魔石を消費する。燃費も最悪だ。水を使った攻撃手段については、色々と考えられる事もあるが、今はその段階ではなく、制御が出来てからとなるだろう。それに義足の能力を引き出す場合も魔石が必要になる。魔石が大量に必要だ。


幸樹こうきの戦闘スタイルだが、普段は槍か弓を使用して、魔獣を狩るそうだ。相手の攻撃を軽い身のこなしで躱し、うっすらと刀身が光っている槍で、急所を刺すというスタイルだ。相手が死ぬまで、躱し刺すを繰り返していた。余裕のある戦いをしている感じがする。


前回、自分を探しに来た時、アリーサは異世界の本に興味があり、幸樹こうきはカップ麺や缶詰などの保存食、それとガソリン等の燃料、楽器を探していたとの事。「楽器はいらないだろう」と反論するが、絶対必要だと言われた。


まずは自分の家に来た。家内は色々と荒らした後があり、ボロボロになっていた。仏壇に行き、皆の写真を持っていく。その他、多少は使えそうな物が残っていた為、自分の車を荷運びに使いたい所だが、公会堂に置いてきたままだった。それに、乗用車はこの世界で不便だろうな。喜平きへいのおっちゃんに向かう。まだトラックがあれば、借りていこうと思う。


おっちゃんの家は誰もいなかった。トラックは持ち出され無くなっていたが、裏口の方には、キーが刺さったままの軽トラが残っていた。ガソリンも残量が半分ほど残っていた。おっちゃん、すみません。借りていきます。


「大きい建物に皆で避難しているかも知れない」とアリーサからの提案もあり、先に公会堂・図書館内を探しに行く為、皆で軽トラに向かう。図書館に近づくと、アリーサが反応する。

公彦きみひこ、生き物の気配がするかも」

魔獣なのか、人間なのか判断はつかないが、確認する必要はあるだろう。幸樹こうきが前、アリーサが後ろにつき、自分をかばう様に図書館に入っていく。図書館内は、静まりかえって、アリーサは二階に指を差す。上から気配がするのだろう、村の人であって欲しい。二階に到着すると、幸樹こうきが声をかける。

「誰か居るか!」

返事はないが、これで近寄ってこないなら、魔獣ではなさそうだ。公彦きみひこも声をかける。

「誰か居る?村の役場勤めの佐藤公彦さとうきみひこだけど!」

奥の方でガタッと音が鳴る。アリーサは奥の方を見つめ、

「こっちの様子を伺っている男が一人。」

アリーサにうなずくともう一度声をかける。

「出てきてくれ!助けに来たんだ!」


・・・


罠があるのではないかと、恐る恐る警戒しながら、こちらに来たのは、血がついた作業服を着た若者だった。胸には鈴木建築の刺繍が入っていた。この子は確か・・・

健一けんいち君か?鈴木建築のとこの。」

向こうも、見た事のある公彦きみひこを見て、

「・・・わたるのお父さん?」

公彦きみひこはうなずく。

他の二人が捕まえてこない事に安堵して、その場でへたり込む。

彼は、鈴木建築の社員の健一けんいち君で隣町から仕事場に通っていた。確かわたるの4~5歳ぐらい上だったぐらいだから、21~22歳ぐらいだと思う。


公彦きみひこは、健一けんいちに駆け寄り、ぐっと抱きしめる。やっと人に会えた事に涙が止まらない。

「怪我してるか?」

健一は「してない」と涙ながらに言い、言葉を続ける。


「助けてよ。奥に・・・香織かおりが・・・」

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