2章
第30話 体育祭に向けて
ショートホームルームにて担任の長い語りが始まった。
話題は体育祭についてだ。日にちが迫っているということで、一限丸々使って実行委員を決める話し合いが行われた。
思った通り燈香が手を挙げた。
枠は男女一人ずつ。文化祭での一例もある。クラス中から俺に期待の視線が向けられた。日頃は燈香の彼氏冴えないとか口走るくせに、こういう時だけペアにしたがるんだからしたたかなものだ。
燈香との関係は終わらせて友人に戻った。仮に実行委員を任命されても、燈香と仲良くこなす自信はある。
でも実行委員の仕事には興味がない。文化祭の時と違って燈香はやる気をみなぎらせているし、ここは身を引いた方が火傷せずに済む。
室内がしーんと静まり返る。
俺が手を挙げなかったことで許可が出たと思ったのだろう。男子が次々と手のひらをかざした。
「おいおい、お前ら萩谷が立候補しないからって積極的すぎんだろ!」
丸田のからからとした笑みに同調して、クラス内が笑い声で満たされた。奇妙な空気が秒で吹き散らされて話し合いが進む。
実行委員が決まって拍手で盛り上がる。
俺も手の平を打ち合わせていると、右腕にツンツンとした感触を得た。振り向いた先で魚見と目が合う。
「よかったの?」
「実行委員に立候補しなかったことか?」
「うん。これから彼女が他の男子とペアで動くわけでしょ? そこら辺はいいのかなと思ってさ」
別れたことを隠すつもりはない。きっと燈香も同じだろう。
その一方で率先して言いふらすつもりもない。
他の男子には気の毒かもしれない。でもクラスメイトはナンパから燈香を助けた時に俺を嗤った。演技とはいえ情けない姿をさらしたのは俺だけど、燈香を心配する前に俺を嘲笑った事実は変わらない。そんな連中にチャンスを与えるのは
もとよりチャンスは自分でつかみ取るもの。自分で気づけないような奴が燈香に触れる資格はないんだ。
「ふーん。まあ彼氏がそう言うならいいけど」
魚見が椅子の上で姿勢を戻す。
就任ほやほやの燈香たちが教壇に靴裏をつけた。白いチョークを握ってカツカツと軽快な打撃音を奏でる。
色は三組に属した時点で赤と決まっている。
よって決めるべきは出場する競技。徒競走や綱引き、騎馬戦など体育祭を彩る種目があふれている。
生徒は必ず二つ以上の種目に出場することを定められている。
俺はもう決めた。たくさんある種目の中で、専門的な技量を必要としない競技。
周りも同じことを考えたらしい。ぞろぞろと教壇の前に出て拳を突き合わせる。じゃんけんに勝利して見事短距離の枠をもぎ取った。
「萩原、何で腕掲げてんだ?」
「放っておいてくれ。この拳で勝ち取った勝利に浸っていたいんだ」
「はあ?」
丸田が眉でハの字を描く。理解されるなんて思ってない。俺は孤独なロンリーガイだ。
ノルマは達成した。視界で上がる腕を眺めつつ一人思考にふける。
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