第96話 イレコのスキルと新キャラ登場

「次はイレコのスキル確認といこう」


「じゃあ、私のスキル名も空中に表示させるね」



多重斬マルチスラッシュ


剣技の1振りを倍増させる。

レベル1は2〜10まで斬ることが可能。



 おお。


「これは便利そうだな」


  衣怜いれは収納スキルを使って亜空間から大剣を取り出した。


「うん。じゃあ試し斬りしてみようか……。えーーと、何を斬ればいいかな?」


「せっかくだからモンスターにするか」


「あ、奥に進む?」


 私服だしな。

 なるべく入り口付近で済ませたい。

 なので、


「鈴を使おう」


「ああ。アレね。暗奏の攻略中にゲットしたレアアイテムだ」


  衣怜いれは亜空間から小さな袋を取り出した。

 その中には鈴が入っている。


「じゃあ、鉄壁さんお願いします」


「うん」


 俺はその鈴を手に持った。


 コウモリカメラに見えるようにしてっと。


「これは魔寄せの鈴です」


 かつて、 寺開じあく 晴生がモンスターを呼ぶために使ったレアアイテムだ。

 暗奏の攻略中にモンスターを討伐してゲットしていたんだがな。

 攻略に重要なアイテムというわけでもないし、 衣怜いれに仕舞っておいてもらったんだ。


 まさか、こんな所で役に立つとは思ってなかったな。

 

 これを鳴らすと、


チィリーーン!

チィリーーン!


 ふむ。怪しい音だな。

 

 ダンジョンの入り口なのに、ワラワラとモンスターが寄ってくる。

 現れたのはロックスライム。

 岩肌のスライムだ。


「C級ダンジョンだからな。大したモンスターではないが、試し斬りには丁度いいだろう」


 意外にもコメントは盛り上がっていた。


『いや。C級は配信の普通だからw』

『C級は結構主流です』

『C級がデフォ』

『初めっからA級を攻略していたあなたがおかしいw』

『本当はテストする場所じゃないwww』

『私服で入る場所ちゃうw』

『せめてD級でやれしw』

『一応、年間3万人の死亡者が出てるよ。その殆どがC級ダンジョンだから』


 おお、そこにツッコミ入りますか。

 まぁいい。気を取り直して……。


 ロックスライムは……1、2、3──。


「全部で15匹だな」


「うん。それじゃあ、半分の力で斬ってみるね」


 と、彼女は大剣を振り下ろした。


多重斬マルチスラッシュ! 5連斬」



ジュババババ!!



 わずか1回の振りで、5回分の斬撃。


 たった一瞬で、全てのロックスライムは砕け散った。


「おお、威力すご!」


「おかしいな。5回分なら10匹余るんだけど?」


「一撃で3匹以上を倒してたからな」


 いわゆるオーバーキル。


「大剣だから斬撃の威力が広範囲なんだろう」


「んーー。それもあるかもだけど、このスキルは通常の斬撃より威力が増してるのかも」


 ほぉ。それは便利だ。


 コメントも俺と同じ気持ちみたいだな。


『うほ! 便利!』

『集団の敵には相当使えるね』

『デカイ敵にも効果高そう』

『シンプルに便利!』

『鉄壁さんが浮気した時に使えそう』

『浮気てw』

『こりゃ浮気できないねwww』


 浮気に関してはスルーしておこう。

 どこまでが浮気か、人によって様々だからな。あんまり深掘りしても自分の首を絞めるだけなんだ。


 それにしても多重斬マルチスラッシュは相当に使えるスキルだな。


「レベル1は最大10回分の斬撃が増えるようだな。ってことは、レベルが上がればもっと斬れるかもしれないぞ」


「あは! これでもっと探索が楽になるね」


 ふふふ。

 シンプルに強化されてしまったな。


「じゃあ、今日の配信はここまで。みなさん、ご視聴ありがとうございました」


 わずか30分程度の生配信だったけど、同接は800万人を超えていた。

 投げ銭は300万円以上入っている。

 暗奏を攻略した熱がまだある感じなんだな。


 こんなこというのもなんだけど、儲かって仕方ない。

 次はお金の使い道を考えないとな。


「ああ、ここ駅前だ。片井ビルまでは電車で3駅だね。歩いて帰るんだけどさ。身バレ防止はどうしようか? 私、帽子を持ってくるのを忘れちゃったんだよね」


 そうだった。

 帰るのは徒歩なんだよな。


 俺の顔はネットに晒していないが、 衣怜いれは顔出ししてるからな。

 しかも、鉄壁さんが彼氏って公言している。

 彼女が俺の腕を抱いていたら、一瞬で俺の正体が鉄壁さんってバレちゃうよな。

 普段は身バレ防止で帽子とか眼鏡とかを掛けてんだが……。

 今は片井ビルからどこでもダンジョンで移動してしまったから持ち合わせがないんだよな。さて、困ったぞ。


「あーー。私は離れて歩いた方がいいかなぁ?」


「そうだよな……。変装アイテムがあれば……」


 待てよ?

 そういえば 密偵腕輪スパイバングルは地上でもスキルが使えるんだったな。

 威力が千分の一になってしまうから、射程距離は5メートルだけど……。


 俺は地上に出てスキルを使った。


偽装カモフラ


 すると、俺の姿は紗代子さんそっくりになった。


「わ! 紗代子さんだ」


 やっぱりな。

 俺の体にイメージを転写して変装ができるんだ。


「これなら俺ってわからないだろ?」


「別の男の姿にもなれるんだけどさ。 衣怜いれと並んで歩いていると誤解を受けそうだからな」


「うーーん。紗代子さんかぁ……」


「なんだ、嫌なのか?」


「嫌じゃないけど、偽物はなぁ……」


「おいおい。片井ビルに帰るまでの辛抱だって」


「……ねぇ。それって性別とかは変えれるのかな?」


「はい?」


真王まおくんを女の子にするとかさ」


「おいおい」


「それだったら並んで歩いてても友達って感じがするもん」


「それは……そうかもだが」


「ねぇ、やってみてよ!」


「いや、しかし……。見たいか? 俺の女体化」


「見たい見たい!」


  偽装カモフラは脳内イメージの転写だからな。

 まぁ、俺が女になったイメージを俺の体に転写すれば……。


偽装カモフラ


 肌は白く。

 髪の毛は黒の長髪でいこう。

 胸はほどほどだな。

 俺が女になったイメージで……。


「どうだ?」


「ふはぁ………………………」


「な、なんだよ。変か?」


「はぁ…………………………」


「おい。なんとか言ってくれよ」


「……………か、可愛い」


「はい? なんだって?」


「可愛いいーーーーーーーーーーーーーーーー!!」


 と抱きついてくる。


「お、おい……」


「いいじゃない女友達って感じだよ。すごいよね。アイドル顔負けの美少女だよ」


「いや、美少女って歳じゃない」


「あはは。でも高校生でも十分とおる見た目だね。 真王まおくんってちょっと童顔だもんね」


「あのなぁ……」


真王まお子ちゃんだ! うふふ」


「ま、 真王まお子ちゃん!? なんだそれ!?」


「だって 真王まおくんの女体化だもん。だから、 真王まお子ちゃんだよ」


 いや、いいのかそれで?


  衣怜いれは大絶賛だった。


 声が変えれれば本物の女なんだがな。

 まぁ、喋らなければ問題ないだろう。


「じゃあ、帰りましょ。 真王子まおこちゃん。うふふふぅ」


 やれやれだな。

 

 片井ビルに帰るとジ・エルフィーのエルフたちが出迎えてくれたのだが……。


 ネネは小首を傾げる。


衣怜いれちゃん。その子は誰?  真王まおさまと出かけたんじゃないの?」


「ははは。新キャラの 真王子まおこちゃんです」


 片井ビルの社員一同が驚いたのはいうまでもない。

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