第15話
エレベーターのドアが閉まり、身体が上に引き上げられる感じがした。全身に重力が、のし掛かる。
上を見るとエレベーターの天井は高く、天井自体が蛍光のランプ状になっていた。エレベーターの内ドアの右側には、階数の行き先ボタンが縦に二列で並んでいる。今は、二十階のボタンだけが点灯していた。
そしてドアの上には、階数のデジタル表示があって、
『-1・1・2・3・4・5・6・7………』と、勢いよく、数値が変わっていく。
「絶対、さっきのチャイムはチン……」
「先輩!」と、悠真は、強い口調で安由雷を嗜めた。安由雷はギョっとして、悠真の肩にまわしていた手を外した。
悠真は、下ネタが大嫌いであった。しかし、不運にも先輩の安由雷は大好きである。
『チン!』 短い電子音が鳴り、デジタル表示が十一階で止まった。
エレベーターのドアが開いた。外からブルー系の制服を着た三人の女子社員が、楽しく話をしながら乗り込んできた。
安由雷は後ろの壁にもたれながら、腕を組んで横目で三人をチェックした。美人を見ると安由雷の目尻はだらしなくタレる。しかし、三人を見ても安由雷の目は凛々しい目のままであった。
女子社員も安由雷の顔をチラッと見た。安由雷は、彫りの深い顔立ちに凛々しい切れ長の目をしていた。喋らなければ相当いい男であった。
前に立っている悠真も、横目で女子社員を見た。しかし、長身で頭二つくらい上にある悠真の視線からは、三つの頭の頂点しか見えない。不運な男である。どんなに短いスカートや、ボディコンでも間近では、悠真には
しかしほんのちょっとだけ、悠真は上から見える胸の谷間だけにはうるさかった。
女子社員の一人が、階数ボタンの前に立っている悠真の胸の脇に手を伸ばして、十五階のボタンを押した。悠真は、一歩後ろに下がった。
その後ろで安由雷は、(おまえ息苦しいから、あまり下がるなよ)という顔をした。エレベーターが閉まり、また動きだした。
「ぷっ……」
いきなり女子社員の内の、カチューシャでおでこを出している一人が、悠真の胸元を見て吹き出した。二人の女子社員も、目で合図を受けて悠真の胸に視線を向けた。
「ぷっ………ぷっ」と、二人の二連発の「ぷっ」であった。
悠真は、意味が判らず横目で安由雷に助けを求めた。安由雷にも意味が掴めず、両肩を小さくすくめて見せた。
悠真は、自分の胸の当たりに恐々と目をやった。入館バッチが見える。良く見た。
(さっき、先輩に書かれた『へなちょこマン』の文字は、マンの端っこがちょっと読めるけど、思いっきり消してある。なんとか大丈夫だ)と、悠真は安心した。
しかし、三人が吹き出している理由が判らない。安由雷にも心当たりがない。
十五階で降りるまで、女子社員はクスクスと無言で、必死に笑いを堪えていた。
二人には、笑われる理由が判らない。
しかし、二人のバッチの会社名の欄には、しっかりと『株式会社
安由雷は、幸運にも腕組をしていて助かった。
女子社員には、どう見ても二人が刑事には見えず、単なる悪戯としか思えなかった。
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