#17 大神憑き

 成瀬鳴海なるせなるみは、『大神憑おおかみつき』と呼ばれる一族の末裔だった。


 大神オオカミとは、すなわちオオカミ

蠱毒こどく】と呼ばれる呪いの一種だ。


 この怨霊に憑かれると、憑依対象の天分がたちまち喰われて不幸を呼び、最期は悲惨な末路を迎えて死ぬという。

 さらにその最大の特長として、

 つまり、大神おおかみは世代を追い、その子孫たちは『大神憑おおかみつき』と侮蔑される運命にあるのだ。

 特に四国地方では、婚姻の際に家筋が調べられ、『大神憑おおかみつき』の有無を調べるのが習わしとされる迫害の歴史が色濃くあった。


 成瀬鳴海なるせなるみに内在する大神おおかみが具現化。

 大神おおかみは人間を襲い、数々の死傷者を出した。

 この事態を受け、彼女は【四国会議しこくかいぎ】と呼ばれる謎の組織に、抹殺対象として狙われることとなる。

 そんな彼女を連れ、真神正義まがみせいぎは誰ひとり味方のいない逃避行へと繰り出した。

 セイギとナルミ。二人だけの旅路。

 その結末は、で幕を閉じた。


 そう。徳島ラーメンのお店にて行われた『』な講義に対して、真神正義まがみせいぎが異常に飲み込みが早かったのは、この事件ですでにだったからなのだ。


『ウチのこと、孤独ひとりにせんといてな』

 彼女をなぜ、死者ひとりにしてしまったのだろうか。


        ◆◆◆


「――― 踊る阿呆に観る阿呆。同じ阿呆なら踊らにゃ損損」

 真神正義まがみせいぎはそう言って、奮い立つ。

 紅狼ホンランは不可解そうに眉をひそめ、その様子を眺める。


 ふとセイギは、フォーチュンに視線を向ける。彼女は涙目になりながらも、だが眼を逸らさず、懸命に戦いの行く末を見守っていた。彼女もまた闘っているのだ。


 。フォーチュンはそこにいる。


 だからこそ、守って見せる。

 今度こそ、孤独ひとりにはしない。


「……… 世界がどうとか宗教がどうとか、ゴチャゴチャうるせぇんだよ」

 セイギは拳を固め、ゆっくりと戦闘態勢ファイティングポーズを構えていく。

「女の子が泣いている。男が立ち上がる理由なんて、それだけで充分じゃねぇか」

 戦闘継続の意志。その瞳の奥では、研がれた覚悟が刃のように煌いていた。

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