エピローグ







 その日、理玖りくまどかは、タングステンの銀白色の毛にくるまれて夜を明かした。


 ネオンが探してきてくれた木の実や果実を食べて、眠りについた。






 翌朝、2人は街に出てきた。


「うおぉーーー!! メシ、食うぞーーー!!」

「その前に、換金かんきんできるか確認しないと」


 街は比較的さかえていた。

 都会育ちの2人からすると、郊外こうがいの駅前商店街という印象だったが。


 時代としては、中世ちゅうせいの頃なんだろう。

 車もなければ、電車もない。道もでこぼこで、整備されていない。


 地球かどうかもよくわからないけど、森の様子や人の姿を見るかぎりは、地球に近い世界のようだった。





「こ、これは、銅……ですかな……!?」


 ようやく見つけた換金商に渡したのは、純正な銅だ。


 無事に自我をとり戻しカード化された《キュプラム》は、おわびにと本物の銅を生成してくれたのだ。

 元素獣エレメンタムは、みずからの元素をある程度自由に扱えるらしい。


「入手ルートは明かせないから、今回は少々安くても売ってあげる。

 そのかわり、次回は正規の値段で買い取って。いい?」


 換金に当たったのは、ネオンだ。

 なんとネオンは、人間の姿にも変化できるようだ。


 いまは色白の肌に、明るいオレンジの髪の大人の女性の姿。

 もちろん、背中に羽はない。


「ヤッター♪ これで1ヶ月は過ごせるよっ!」

「ネオン、すごいな! ほんとに人間みたいだ」

元素獣エレメンタムは安定さえしていれば、好きな姿でいられるんだ。

 獣型とか人型とか、思い思いの姿で過ごしてるよ」


 銅はかなりの値段で売れたようで、しばらくは生活に困らなさそうだ。


「2人とも、ほんとによかったの?

 このままここで、元素獣エレメンタム探しに付き合ってくれるなんて」


 ネオンは朝食用のパンを頬張りながら、心配そうに言う。


「この世界で過ごしても、向こうの時間は進まないみたいだしな」

「どうせなら最後まで、付き合うよ」


 ネオンが円を呼び出した【召喚しょうかん】にも、ルールがあった。

 こちらにいる間、元の世界の時間は進まないこと。

 一度元の世界へ戻ると、ここに再び来ることはできないこと。


「時間が進まないなら、図書館で科学の本借りてくるってのは?」

「いいかもな」


 ただし、数秒間なら元の世界に戻ることもできる。

 回数は限られているようだが、必要なものを取りに戻るくらいはできそうだ。


元素獣エレメンタムみんな見つけてさ。

 ネオン達が〖安定の世界スタビリシア〗に戻れるまで、見届けるよ」


 理玖が言うと、ネオンは涙を浮かべながら「ありがとう」と笑った。


 その時、街の外れでドカーーーーンという大きな爆発音が聞こえた。


「もしかして、元素獣エレメンタムのしわざかもしれない……!!」

「すぐに行こう!」


 ネオンの言葉に、理玖は食べかけのパンをポケットにしまって立ち上がった。


「爆発するような危険なヤツ、ほんとに大丈夫か……!?」

「ほっとくわけにいかないだろ。ほら円、行くぞ!」

「しゃーねぇなぁっ」


 差し出された理玖の手をとり、円も立ち上がった。





 こうして、2人と元素獣エレメンタムたちをめぐる物語がまくを開けた。

 科学の力で困難を乗り越える―――2人の冒険の旅は、始まったばかりだ。




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ブレイブ・エレメンター ~元素獣救出大作戦!~ pico @kajupico

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