間章4
舌先で口内端子に触れる。その瞬間、セクサロイドは――――便宜上彼は崩れ落ちた。
吸収した情報、人格としての形を失った集合記憶が、唇に染みる。便宜上彼の生きてきた一年が、一瞬で網膜を過ぎった。
「つまらない」
ただ日々を生きるため、場当たり的な生存戦略を繰り返した、あり触れた個体。一人が二人に増えたところで何の変わりも無い、寧ろ共依存によって、精神的成長遅滞さえ見られる。生きていただけだ、そこには何の哲学も、真実も無かった。
僕は要点だけを脳細胞に記録して、大半を削除した。
「や、こっちまで忘れるところだった」
セクサロイドの抜け殻は、すぐ足元に転がっていた。中枢制御機能を失った四肢が、ケーブルに残った電流に反応して、死後痙攣染みて震える。いつ見ても、溺れた昆虫に似ている。
その頭を踏み砕く。内部記憶媒体、首に印字された製造番号、個人を特定する情報の一切を、念入りに抹消する。
こんなガラクタでも、興味を持つ狂人がいないことも無い。罪に問われる理由が無くても、警察とは関わりたくなかった。
「正義か真実か知りませんけど。有りますかね、そんなもの」
残ったのは、統計的な数字だけだ。
あと一人。
「ねぇ……」
応える者はいない。
廃ビルの外に出る。重酸性雨は激しさを増して、全身を直に叩いた。その冷たさと無機質な刺激が心地いい、だから服は必要ない。
けれど今日は、どこか肌寒くもあった。
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