3-5

 低いブザー音が意識を覚醒させた。すぐさま起き上がり、隣のカプセルに張り付く。


電解液には波一つ立たず、博士は静かに眠っている。計器もまた、同様だった――――残忍なほどに。心音グラフの示す波形は、ほんのさざ波に等しい。一音が響くと、それきり途絶えては、永遠とも思える時間の後、次の音がやってくる。弱々しく、いつ掻き消えてもおかしくはなかった。


 博士はもう長くない。時間は無い。


 今すぐに博士を私に移すか。或いは一時的に、代替ボディを用意するか。一瞬に思考が過ぎるが、しかし考えるまでもない。あと一人だ。


 博士の失望する顔は、二度と見たくはなかった。


 点検スキャンはまだ終わっていない。だが次の依頼は既に入っている。私はカプセルから離れ、シャワー室へ出た。コーティング剤が噴霧され、鋭いフレームを艶やかに濡らす。


 乾くのを待っていると、ふと目の前の壁が目についた。朧げな鏡面、その中に影が立っている。

 それは表情を動かそうとした。だができない、それには表情を制御するプログラムも、表現するための筋肉も無い。骸骨染みた剥き出しのフレームは、ただ冷鉄色のままそこにあった。

 爪を叩きつける。火花を散らし壁が抉れ、何も映らなくなった。


 これでいい。ボディの切れ味は万全だ。ブラスターの薬室を開き、三つの薬室全てに弾丸を込める。


 殺せばいいだけのことだ、博士のために。

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