第11話 カウントダウン! ボン!

 どれくらいの爆発力があるか不明だった為、階段の踊り場のようになっている部分に土嚢を積んだ。

 ちなみに土嚢は園芸コーナーの土だ。

 どれくらいの効果があるかはわからないが、やる価値はあるだろう。

 爆炎が扉を突き抜けてホームセンターまで火災になったら目も当てられない。

 

 扉は鉄製だし、かなり頑丈そうな作りだから大丈夫だとは思うけど……。

 スマホで時計を確認。すべての準備を終えてから6時間経過。

 まだ、爆発音は聞こえない。

 静電気や、ガソリンの自然発火による意図しない爆発はまだ起きていないようだ。

 というか、向こうの状況がわからないので、ダメだった時わりと詰むんだよなぁ。爆発していない可燃性ガスだけがある部屋とか危なすぎる。


(……でもまあ、賽は投げられたってやつよね)


 この階からドラゴン部屋までは、階段で100メートル以上あるし、階段を斜めに上っていった先なわけで、真下というわけでもない。

 爆発で強い衝撃があったとしても多分大丈夫だと思う。大丈夫なんじゃないかな。

 まあ、ダメならそんときはそんときだ。


「ああ~、あとどれくらい? 本当に大丈夫かな……。竜王種だよ? レッドドラゴンなんだよ? あんな液体だけで倒せるなんて思えないんだけど……」

「まあ、弱らせることだけでもできれば、とどめはフィオナの剣という手もあるし……」


 私もなんだか弱気になってきた。実際、あれでファンタジー世界の住民の中でも指折りの最強種であるドラゴンを倒せるのか。やってみなければわからないとはいえ……。せめて、ホームセンターに大型重機でも売っていればな……。ショベルカーの、なんかパイルバンカーみたいなのを取り付けたやつなら、まあまあ効果的な攻撃ができそうだったのに。

 ……まあ、どのみちショベルカーじゃ階段を上るのスペース的に無理だけど。


 それから私たちは、祈るような気持ちで……というか、実際に例の祠で祈ったりもしながら、爆発を待った。


 ピピピと、スマホのタイマーが鳴る。

 残り5分の合図。


「……そろそろだよ。これで不発だったら、泣けるな」

「うう~~~~! ルクヌヴィス様、大精霊様、お願いします! 成功しますように! 成功しますように!」


 フィオナはもうとっくにプレッシャーに負けて、ご禁制に手を出している。


「じゃあ、カウントダウンしよっか。残り1分!」

「30秒!」

「「10! 9! 8! 7! 6! 5! 4! 3! 2! 1! ゼーロ!」」


 フィオナと2人。不安を消し飛ばすみたいに大きな声で。

 ゼロになって少ししてから―― 


 ズズン――

 と、遠くで重い音。


「成功……した…………?」

「うん……。たぶん?」


 その後、何度か同じような音が散発的に発生していたが、その後止んだ。

 届いたのは、遠くからの、くぐもったような音だったが、音が発生したということは、少なからずなんらかの現象が起こったのだろう。

 ここがダンジョンで周囲が地中であることを考えると、まあまあの規模の爆発だった……はず。


「――扉は大丈夫だったか。天井も崩れる心配はないっぽいかな?」

「うん。それより……倒せたのかな」

「アレは? なんだっけ、迷宮順化だっけ? 倒せたら、こう、経験値的なものがグオーって入って『レベルアップだ!』ってなるんじゃないの?」

「なるけど……すぐにはそんなにわからないよ? 一晩寝て起きるとわかるけど。でも、ドラゴンなんて倒したら、すぐにわかるかも。でも、なにもないね」


 ないってことは、倒せてないのか? 

 いや、そもそもこんな遠隔で搦め手で倒したのは経験値取得の対象にならないだけなのかも。

 前向きに考えておこう。


「見に行ってみる……?」

「あー、ダメダメ。向こう側、多分まだしばらく地獄だから。絶対に扉開けちゃダメだよ?」

「え、どれくらい?」

「少なくとも10日くらいはここで遊んでようか。ここって、なんでか酸素がどこからか供給されるみたいだけど、扉の向こう側はたぶん酸素ゼロだから。扉を開けたが最後、この部屋の空気、全部持ってかれるというか、バックドラフトで火の海になるかもだから。落ち着くまで放っておかないと」

「な、なんだかわかんないけどわかった」

「よろしい」


 そもそも閉鎖空間なのに酸素がどこからか供給されてるっぽいの自体が謎なんだが、まあ、そこは異世界クオリティということで納得しておこう。

 そうじゃないと、いつかこの階層だって酸素濃度が下がって死ぬということになるのだ。


 そして、あのイビキをかいて……つまり「呼吸して」寝ていたドラゴンも同様だ。

 爆発による衝撃や、ガソリンによる燃焼を生き抜いたとしても、酸素濃度がゼロに近い状態でどれだけ生きられるものか。


 それが私のこの作戦の本当の意図だった。

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