第14話 魔術露見
魔力操作とは、魔術の基礎であり神髄である。
「何故だ……!?
我は、魔力で顕現せし存在。
それを支配する力など……!」
悪霊以外にも、僕の世界には色々な種族が居た。
精霊、竜人、獣人、エルフ。
そして数多のモンスター。
彼等は人間種よりも高い身体能力や魔力操作能力、基本的な魔力量アドバンテージを保有する。
けれど僕は、それらに人間が劣るとは思わない。
彼等は確かに、指を動かす様な感覚で魔力を操る。
まるで、DNAにその使い方が刻まれているかのように。
種族の内の全てが術師。
だが、彼等は高い魔力適性に不随する形で『属性適性』を保有する。
例えばエルフなら風。
獣人なら身体変化系。
竜人に至っては龍化なんて物を持つ。
この術式の威力は、身体と同じ様に育つ。
しかし、代わりに対極の属性術式への適性が著しく低下する。
それ以外にも、他の属性に対して他の種族よりも長い修練を必要とする。
だが、人間にはそれは無い。
故に人間とは、才能を無くした種族であると共に、最も努力に適した種族である。
魔力量は才能だ。
けれど魔力操作は身体能力の範疇。
努力はその潤滑油。
だが、人間の本質が花開くには長い期間を要する。
何十年……いや、それ以上の研鑚を行って漸く到達できる賢者や仙人と呼ばれる者達の領域だ。
それを、幼少の身体に覚え込ませるという力技で、僕は魔力操作の練度を引き上げた。
「握力無いのに、めっちゃ気持ち悪い手の動きする人いるじゃん?
そんな感じだよ」
「それでいいのか小僧……」
「良い例えじゃ無かった?」
「……知らぬ」
残念。
悪霊とは相容れないな。
魔糸操々のコントロールを速めていく。
輝夜の身体に纏わせ、呪力に触れた傍から僕の方へ流す。
それは僕の身体に蓄積されていった。
まぁ大丈夫。
呪力は、魔力操作と同じ要領で操れる。
暴走しない様に抑えて置くだけ。
今の僕なら容易だ。
そう思っていると、
「だが、よいのか?」
「何が?」
「我の目には映っているぞ。
貴様の魔力は多くない。
このままでは、我の呪力を吸い取る前に貴様の魔力が尽きる計算だ」
「計算とかできるんだ。
以外だね、悪霊なんてやってるんだから馬鹿なんだと思ってたよ」
「貴様……」
「だってそうだろ。
生前に成功できなかったら『うらめしや』なんて言ってるんじゃないの?」
まぁ、この相手が生前なんて物を持った霊なのかは知らないけど。
「言って置け。
貴様の魔力が尽きた瞬間。
貴様を呪い殺してやるわ」
魔力が尽きた瞬間……ね。
僕はスマホを取り出す。
凄いな、スマホの時間も止まってる。
やっぱり、完全に隔離された別空間っぽい。
でも、維持コストがかなり掛かってそう。
欲しい術式ではないかな。
スマホを弄ってアプリを起動する。
僕が作った最初の魔術アプリ。
プログラムに魔法陣に使われている文字……古代魔法言語を記載。
これに魔力を流す事で、プログラムされた術式を自動発動できる。
この術式発動の利点は、本来必要な魔力操作や術式構築を省く事が可能という部分だ。
だから、こうして全力の魔力操作で相手を抑え込んでいる状況でも、このアプリをタップすれば勝手に術式が発動する。
「数奇な事に、君の使っている術式とこれに込められた術式内容はかなり近い」
「何を言っている……
それは、人間の機械だろう。
そんな物は呪力の前には無力だ」
それは、かなり古い考え方だね。
まぁこの世界、科学が発展したのはここ数百年の事らしい。
魔術を秘匿し、伝統を重んじる今の術師からすれば、ふざけた事なのかもしれないけれど。
でもね。
電脳はもうとっくに、魔術を越えてる。
それが、現実だ。
術式名称。
「虚数召喚術式」
アプリケーション名。
「アイテムボックス」
物質を二進数変換して保存。
それをいつでも呼び出す事ができる。
それが、この術式の効果。
僕の手に、ワインの瓶が出現した。
「酒……だと……?」
「あぁ、違う違う……瓶がそれなだけ。
でも最近は凄いよね。
ワインストッパーっていう真空保存できるコルクまで売ってるんだ」
だから、この中身の劣化は99%抑えられている。
コップも出して。
注ぎ。
口を付け、飲み干す。
「これはね。
「聞いた事も無いぞ……
そんな物……」
「悪霊に知識とか期待してないって」
「貴様、さっきから我をどこまでに莫迦にしている……!」
悪霊が僕を睨む。
憎悪と嫉妬と怨嗟と。
あらゆる悪意を含めた瞳。
少女の顔で浮かべられたその表情。
僕は、戦争で何回もその顔を見た。
懇願も懺悔も後悔も。
僕が殺した
何の意味もない行為だ。
だから、僕はそんな感情は抱かない。
「別に莫迦にしてる訳じゃない。
だって、人が蟻を莫迦にはしないだろ?」
魔糸操々。
魔力吸収・転換。
呪力吸引。
「貴様ァァァアアアアアアアアアアアア!」
木霊する声を残して、悪霊は消滅した。
倒れそうになる少女の身体を支える様に、白い糸で包む。
「私ね」
うっすらと目を開けた。
その瞳は僕を見る。
弱々しい声で黒い少女は呟いた。
「ずっと布団じゃ無くてベッドが良かった。
でも、誰にも言えなかったの。
我儘を言って困らせたく無かったから……
あぁあ、嫌われちゃったのね……」
酷く冷静な判断で。
きっと正しい判断だ。
だからこそ、返答に困る。
僕は彼女から呪いを奪った。
彼女にはもう何も残って居ない。
両親からの期待も。
達成すべき目標も。
呪力という力すら。
奪ったのは、僕だ。
「きっと大人になれば、君は自由になれる。
それまで、頑張れるかい?」
自分の性根に嫌気が差す。
「……貴方が迎えに来てくれるなら」
僕は嘘吐きだ。
「あぁ、約束するよ」
こんなに無責任な事を、簡単に言えてしまうんだから。
「ありがとう」
少女は笑った。
人を小莫迦にした笑みとは違う。
本当に嬉しそうに、彼女は笑った。
本当に嬉しそうに、彼女は僕を呪い。
そのまま意識を失った。
「帰るか……」
そろそろ結界も解けるだろう。
そう思って、この部屋の出口へ振り返った。
そして、僕の生活は終わった。
「修……何をしているんだ……?」
まだ、結界は解けていないのに。
「なんで……」
僕の前に、
「その少女から出ていた黒い物は何だ?
お前から出ていた糸は何だ?
どこからその瓶を出した……?
本当にお前は、修なのか……?」
なんで……
父さんがここに居る。
いや、なんで動けてる。
意味が分からない。
バレた……?
僕の秘密が……?
「応えなさい……応えてくれ……
お前は、私の息子なんだよな……?」
あぁ、そっか……
見られてたんだ。
綱引きの最中。
他に気を配る余裕も無かった。
魔力感知なんてできる訳も無かった。
見られてる事に、全く気が付けなかった。
結界があるからと安心した、僕のミスだ。
「あぁ、そっか……」
辛いな。
こんなにか。
死んだ時より、悲しい気がする。
「見ちゃったんだね。
徹さん」
「待て、待ってくれ……!
なんだその呼び方は……!
それじゃあまるで……」
「そうだよ。
僕は、貴方の子供じゃない」
これ以上、嘘を吐き続ける気は、僕には無かった。
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