⑦二重人格・二重意識
「おいおい、まさかとは思うが、実隆よ、ふざけているわけじゃないよな」
泰彦の顔面が蒼白になっていた。そして、すがるかのように、実隆に声をかける。単なる冗談であってほしいと思っているのだろう。
しかし、実隆は彼の希望が叶えられないことを知っている。
「いや、俺はふざけてなんていない。泰彦がやったのは超未来の俺の意識をこの時代に引き戻すことだけだろ。こっちにいる超未来生命の意識をどこかにやったわけじゃない。だから、イスの種族の意識はまだ俺の中にいる」
実隆は理詰めで泰彦に絶望の宣言をする。泰彦の表情が悲痛なものに塗り替わっていくが、しかし、そのままにしておくわけにもいかない。決定すべき事柄があるのだ。
「ここにはさ、信介と加藤も一緒に来ているんだよな。だったら、あいつらはどこにいるんだ? この状況なら、助けがいるんじゃないのか?」
泰彦と自分のもう一つの物言いから、状況は察せてきていた。そして、この身体の脳の記憶と自分の意識が直結し、次第に何が起きたのかも把握できつつある。
ただ、この身体はイスの大いなる種族の一個体が支配しているものでもある。記憶を得られるということは、イスの種族が実隆に情報を与えても構わないと考えているのだろう。
「ああ、そうだ。それを言ってなかった。
加藤は何ものかに襲われて滑落したんだ。信介はそれを追っていった。けど、こんな崖を降りていったら二次遭難もあり得る。信介なら大丈夫だろうけど……」
言外の意味として、暗に自分が行くとお荷物になると言いたいのだろう。
それに、イスの種族の行動には何か裏があるようにも思えた。自分を誘導しようとしているような。だが、そんな迷いを誘っているという可能性もある。
だったら、うだうだ考えていても埒が明かない。最善と思える行動を取るだけだ。
「じゃあ、俺たちもそこへ向かおう。信介は最短距離で向かっているんだろ? だったら、俺たちは一番安全な道でそこまで行く。
無理はしない。けど、ただ待っているわけにもいかんだろ」
そう言うと、実隆は地図を広げた。どの道が安全で、かつ速く進めるかを考える。
それに対し、泰彦が難色を示した。
「我々まで動いたら、合流が難しくなるんじゃないか。下手したら、共倒れだってあり得るだろ。
それに実隆、お前さんにはまだイスの大いなる種族の意識が入っているんだ。下手に動かない方がいいと思うが」
それに対し、実隆はいつものように淡々と答えた。
「合流についてはスマホでメッセージを送っておく。信介も見るだろうから、何だったら、あいつが俺たちを見つけるだろ。共倒れについては、まあ。そうなったら諦めてくれ。イスの種族の意識については考えないことにする。奴は俺の思考を乱そうとしてるんだろう。だったら、無視するのが正解だ。たぶんな」
そう言うと、泰彦を促しつつ、歩き始める。泰彦も渋々ながらついてきていた。
そんな泰彦に追い打ちをかけるように、実隆は告げる。
「そうそう、イスの種族の目的だけどな。クトゥルーの復活を阻止することらしい。
なんか、これからクトゥルーが復活するらしいな」
それを聞いて、泰彦の動きが止まる。その表情が、そして全身が、硬直していた。
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