第18話 ヒリヒリ

「ラララ~、ラーララ~♪」


 街中を歩いている最中、自然と声が出てしまう。


「えっ、今の子、めっちゃ歌ウマ」


「もしかして、歌手かアイドルだったりして」


「まさか~」


 なんて言われるものだから、内心で焦ってしまう。


 落ち着くのよ、夢叶。


 私はアイドル。


 ちゃんと、わきまえて行動をしないと。


 改めて、自分に言い聞かせる。


 けれども……


『僕は夢叶ちゃんが好きだ!』


「ひゃんッ!」


「えっ?」


「ハッ……」


 思い出しただけで、ついつい声が漏れてしまい。


 何の関係もないすれ違いのひとを驚かせてしまった。


 夢叶は途方もない羞恥心を抱きながら、うつむき加減でその場を歩き去る。


 そのまま、事務所にやって来た。


 すると、うつむけていた顔を上げる。


「おはようございます」


「あら、夢叶。おはよう」


 スタッフさんとあいさつを交わして、楽屋に入る。


 すでに、他のメンバーたちは集まっていた。


「夢叶、おはよう」


 まず、すぐにリーダーの理央があいさつをしてくれる。


 すると、


「「「「おはよう~!」」」」


 他のメンバーも連なって良い笑顔であいさつをしてくれる。


 ただし、1人を除いて……


「あーら、ゆめっちさん。重役出勤?」


「別に遅刻していないでしょ?」


 夢叶は睨み付ける。


 けれども、彼女は嫌らしいニヤつき笑顔を離さない。


「心、ちょっと良いかしら?」


「え~、なに~?」


「あなた、ストーキングと脅しは立派な犯罪よ?」


 他のメンバーに聞えないように、囁くように夢叶は言う。


 対する心は、動揺するどころか、ますますいやらし笑顔になった。


「ふぅ~ん? その様子だと、もうかなたんとは仲直りしたんだ~?」


「余計なお世話よ……ていうか、馴れ馴れしく呼ばないで」


「良いじゃん、ケチんぼ」


「で、どうして?」


「んっ?」


「だから、何で奏太くんを……」


「そんなの、決まっているじゃないの~」


 心は笑顔のまま言う。


「面白いから♪」


「ビンタするわよ?」


「きゃ~! ゆめっちが怖い~!」


 心が声を張り上げたせいで、みんなの注目を集めてしまう。


「お、どうした、どうした? またゆめーんがここかすにキレたか?」


「そんなケンカはダメよ~?」


「仲良くしてくださいぃ~!」


「喧嘩とかだるっ」


 それぞれの反応を示される。


「そうなの~! ゆめっちが、こころのことイジめるの~!」


「なっ! むしろ、イジメたのはあなたの方でしょうが!」


「何のことですかぁ~? こころ、知りまちぇ~ん♪」


「この小悪魔め……」


 恨めしそうに夢叶が睨みつけるも、心はあざけりの笑みを崩さない。


「はいはい、そこまで」


 理央がパンパンと手を打つ。


「もうすぐライブも近いし、練習に集中しないと」


「はーい♪」


 心はスマイルで答える。


「夢叶も、大丈夫かしら?」


「……ええ」


 また、うつむき加減になってしまう。


 そんな夢叶のそばに、ニッコニコの心が近寄って、


「そんな調子じゃ、こころがかなたんのこと、本当に奪っちゃうよ~?」


 すると、ひどく心がざわついた。


「……私、負けないから」


「おっ、珍しく好戦的じゃん? そんなにかなたんのことが……」


「黙りなさい」


「おー、こわっ」


 おどけたように言う心に対して、夢叶はフンと鼻を鳴らす。


「これは、チャンスかも」


「どういうこと、みっちゃん?」


「りおさまは不動として、スリートップから落とすとしたら、ゆめーんかここかすでしょ? ぶっちゃけ、2人とも手強いけど、2人でいがみ合って、潰し合ってくれたら……」


「みっちゃん、腹黒いわよ」


「いや、ここかすほどじゃないし」


「わたしは、みんな仲良くが良いですぅ……」


「蘭の言う通りだね」


 この時、メンバー間に亀裂、と言うほどではないけど。


 ズレが生じ始めていた。


「…………」


 その様子を、リーダーの理央は黙って見つめていた。




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