第20話:不問のウェイブ
──汝、ウェイブの度重なる命令違反・規則違反並びに上官への暴言侮辱行為は此度の防衛戦争の功績と功罪相半ばとし、不問とする。
──汝、ウェイブの上官殺害及び中立国民間人への度重なる暴行は此度の積極的防衛戦争の活躍と功罪相半ばとし、不問とする。
──汝、ウェイブの我が国の数十名の軍人殺害に加えて軍事基地二箇所の破壊は決して許されぬことであり、この国始まって以来の最大の事件である。これらの事件はその内容のみでなく、この国の大衆の精神的安寧を大きく乱すものでもあり、身勝手な理由で──────────功罪相半ばとし、不問とする。
◇◆◇◆◇◆◇
「それにしても、たかだか海賊相手にジークが遅れを取るとは思えないんだけどな。そんなに規模がデカいのか?」
「ああ。それに海軍崩れだけあって練度は高いし統制も取れている。それで何より【不問】のウェイブって呼ばれている海賊の親玉が厄介だ」
「不問?」
翌日、宿まで訪ねてきたジークにこれからやることを尋ねる。
まぁ、作戦を立てられるような頭は俺にもジークにもないから、適当にアジトに突っ込んで戦闘をおっ始めるみたいな感じだ。
ジークは不快そうにため息を吐き、そこらで買ってきたパンを俺に手渡す。
「ああ、不問。なんでも、何回も犯罪をやらかしたけど戦争での功績がデカすぎて全部『功罪相半ばとし、不問とする』で、無罪になってそう呼ばれてるとか。まぁ、つまるところ、頭のいかれた実力者」
「ジークでも対応不能なほどか?」
「あー、横入りがなければ俺と互角だな。全体の戦力的には……ちょっと届かない程度か」
それぐらいなら……と、一瞬考えて、ピシッとジークに額を弾かれる。
「お前、届かない程度なら全面で当たれば壊滅させられるとか考えたろ。まぁ実際こっちが本気を出せば被害を恐れて逃げるだろうけど。……革命軍の時代とは違うんだ。革命軍は、国を変えるために死ぬつもりで志願してきているけど、兵士は生きて街を守るためだ。たった一人でも怪我をさせることもないようにすべきだ」
「……悪かったよ。けど、青あざになってるところを狙うなよ」
「というわけで、俺とお前がメインでやるぞ」
……つまり、俺はいくら怪我してもいいと。
いや、まぁ……うん……あんなに生きていて喜んだくせに、コイツの俺への好感はいつまで経ってもよく分からない。
「まず、あっちは厄介な魔法兵がいて海から広範囲の魔法を撃ってきて、逃げるって戦法が基本だ。これが厄介で、船で近寄れば焼かれるし、何もしなけりゃ一方的に嫌がらせを受ける」
パンを齧りながら頷く。
「こっちの魔法は?」
「練度不足だな。というか、流石に海軍用の専門的な魔法だから射程距離に差がありすぎる」
「アジトはどこなんだ?」
「少し離れたところの小島。そこからここを含めたいくつかの港町や輸送船を襲ってる。んで、どこか他国で遊ぶとかしてるって感じだな。今はたぶんアジトにいる」
なかなか美味いパンだな。と、感心しながら頷く。
「で、戦力的によくなったから油断してるところを潰そうと。作戦は?」
「輸送船を出すフリするだろ。お前が荷物の中に隠れるだろ。海賊が運ぶだろ。お前が暴れるだろ。ごたついてるところを俺たちが船で近寄るだろ。んで、適当に魔法兵を何人か捕らえて街に戻って終わりってところだ」
「……アジトの小島に停まってる船を焼くのは?」
「ダメだな。何隻もあるから全部は現実的じゃないし、別の場所に仲間もいるから回収しに来られる。んで、そのときは物資も食料も船もないから、あっちも捨て鉢になって襲ってくる。街が舞台の全面抗争とか、最悪だ」
「……なるほど。難しいな」
ジークってこんなに色々考えられる奴だったのか。まぁ、十年も経てばそういうことも成長するか。
「やってることはまんま盗賊だが、けれど、ある種商人のような狡猾さもある。武力をチラつかせて脅して奪うが、妙な話、限度をわきまえている」
「わきまえている……か」
「ああ、こちらが「損耗を恐れて本気で殺しに来ない」範囲でのみの掠奪だ。こちらが対応に遅れても……他の緊急事態に戦える人間が全員出払っていても、アイツらは決まった量しか奪わない」
奪い過ぎれば全力を出されるから……か。
「なるほど、確かに商人じみているやり口だ」
「まぁそういうのもあって、切迫はしていないけど長年いいようにやられているという感じだ」
「手慣れてる」
「まぁこっちが新米なのもあってな。……だから、その商人のようなNo.2は倒すな。血の気の多いやつしか残らなければ全面戦闘になる」
「普通に都市の方に助けを呼ぶのは?」
「内陸の奴らに助け求めても船持ってないだろ」
そりゃそうか。
そうなると……まぁ確かに俺がひとりで突っ込んで、撹乱してから他のやつが来るという策がいいかもしれない。
「問題は……俺がその【不問】に勝てるかどうかだな。敵のど真ん中にひとりで立つというのは、まぁまぁ慣れているが」
俺がそういうとジークは首を傾げる。
「ん? いや、だから、不問は俺と互角の強さだぞ」
「えっ、ああ」
「ジオルドなら楽勝だろ」
「買い被りにもほどがあるだろ……」
俺の言葉にジークは「はぁ?」と心底理解出来なさそうな顔をして、それから立ち上がる。
「じゃあ、作戦は今から始める。襲ってきたら荷物に紛れて入り込んでくれ」
「雑だな……。というか、他の兵士は」
「ジオルドがアジトに入って撹乱するまでの間に人を集めて作戦を伝えて突っ込む」
もっと事前の計画とか……と、思いはするが、下手に丁寧にやって作戦が露見するのよりかは勢いに任せた方がいいのは確かか。
最悪でも俺ひとりなら脱出ぐらいは出来るだろうし……。まぁ、やるか。
あんまり長居したら塩を手に入れて保存食を作る前に獲物が腐ってしまうのでさっさと終わらせた方がいいだろう。
「じゃあ俺はそうするとして、シルリシラは……宿に残るか?」
「んー、着いてはいけないですし、そうですね。一度実家に帰ろうと思います」
実家……ああ、神の世界か。
「じゃあ、もしかしたらあっちで会うかもしれませんけど、そのときは僕の故郷の案内をしますね」
「ああ。……いや、えっ、今さらっと俺が死ぬ話をした?」
死生観が……おかしい。
俺がそれを指摘しようとしたとき、シルリシラが点滅し始める。
「あれ? なんかジオルドの連れの子、点滅してない?」
「っ! マズい! ジーク! 窓を開けろ!」
点滅するシルリシラを掴み、ブンブンとぶん回してからジークが開けた窓へとぶん投げる。
上空に飛んでいったシルリシラはそのまま音を立てて爆発し……。
「ふう……セーフ」
「セーフ!? 何が!? 何もセーフじゃなくない!? あの子爆発したぞ!?」
「大丈夫だ、よくあることだから」
「よくはないだろ!? なんで!? なんで爆発したんだ、病気か!?」
「病気……まぁ、そうだな。ホームシックだ」
「ホームシックって爆発するのか!?」
「人によっては……」
「そうなのか!?」
「よし、作戦開始とするか。まぁ、そんな都合よく海賊が襲ってくるとも限らないが」
困惑するジークを置いて宿の外に出る。
とりあえず、港の方に行ってみるか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます