第2話:魔法
パチモンとんちきジオルド影武者事件から少し頭がハッキリし出したので現状について考えてみる。
まず、世界……この国はどうなったかというところからだが、俺が裏切った革命軍は上手いことやっているらしく田舎の村だがそれなりに豊かな暮らしをしている。
母に連れられて訪れた街も以前のような痩せこけた人の姿はなく、街並みも綺麗なものになっており、以前はスラムだった地区も普通に人が行き交うようになっていた。
詳細は幼子の体で調べることは出来ないものの、おおよそは革命軍の時代に立てた計画通りにいっているようだ。
次にジオルドの影武者の件だが……本当にアレが俺と思い込まれているらしい。
確かに俺は前線に出張りっぱなしであまり目立つ場所にいたわけではないが……アレでいいのか? 国民は。英雄扱いしてるのがピンクアフロでいいのか?
ともかく、革命軍の奴らが妙に義理堅いからか、それとも神輿は軽い方がいいからか、俺の前世であるジオルドを祭り上げていて、それもあって国民からはかなり人気があるらしい。
……王家であることを隠すために流行りの名前を付けたのか、それとも俺に筋違いな感謝の念があるのか、奇しくも俺に付けられた名前は「ジオルド」と前世と同じ名前だった。
二度目の人生。もし革命軍が歪んでしまっていたらと考えたが、ちゃんとやっているらしく安心した。
同時に……もはや俺の役割は前世の時点で終えているのだと気がつく。
もう俺は英雄である意味はなく、むしろ名をあげるのは国を荒らす原因になりかねない。
やるべきことは既になく……まぁ、今世はやりたいことをやって楽しく過ごせばいいのかもしれない。
一応、冒険者というものに前世から憧れていたのでやってみるのもいいし、魔法を我流ではなくちゃんと学んでみるのも面白そうだ。
何はともあれ、強さはあった方がいいので、自分の体について考える。
魔力はそれなりに多く前世のような魔法剣士をやるには充分な才能が感じられる。
魔法の属性は前世と同じく闇と氷が使えるのに加えて火も使えるようで、素質は前世よりもある。
それに加えて……この国の王族の最大の特徴である超常的な怪力。
古い時代、数多の戦乱を制し、国を興したという伝説を持つ王族の血筋にのみ発現する……巨人が如き万力も受け継いでいるらしく、幼子なのに異様な腕力がある。
伝説の中の「島に縄をくくりつけて引っ張った」みたいな神様じみた力ではないが、腕力で大陸を制して国を作ったというのも信じられるぐらいには力が強い。
……革命軍のときもめちゃくちゃ厄介だったもんな、王族。なんか近衛騎士よりも強いんだもんな。
まぁとにかくとして、国を興せる馬鹿力を持つ王族の体と比較的優れた魔法の才能と、戦いの素養はかなり高い。
まぁ、何はともあれ、鍛えておくべきなことに変わりはない。幼子の体では剣の方は無理なので、魔法のおさらいからやっていくべきか。
魔法というものはあらゆるものに宿る魔力というものを利用して起こす術だ。
最も簡易的な方法は魔法術式の詠唱により性質や形質などの変化を起こすことにより魔力を別のものに変えるというものであり、多くの魔法使いはその「詠唱魔法」と呼ばれるものを使っている。
別の方法としてはものに術式を書き込んだり、術式の性質を持つ魔物の素材を利用したりなどが比較的多く使われている手法だが、別にそれにこだわる必要はない。
結局のところ、魔力に情報を与えると使えるのが本質である。
小さな指で印を結ぶ練習をしながら体内の魔力をぐにぐにと弄って感触を馴染ませていく。
やっぱり、こういう地道な特訓は好きだ。
戦い自体は好きじゃないが、自分が少しずつ強くなっていくという感覚はなんとなく楽しい。
とりあえず、昔使っていた魔法を取り戻していくとして……一番に身につけたいのは【氷剣】の魔法だ。
名前の通り氷の剣を作るというだけの魔法だが、練度によっては鉄の剣よりも固く鋭くすることができたり大きさや形を変えられたりと便利で強力な魔法だ。
前世でも一番得意な魔法だったこともあり、早めに魔法の練度を上げていきたい。
それと同時に闇魔法の周囲の光を奪って暗くする魔法も家族の目を盗んで目立たない夜中にでも練習するか。
……まぁでも、こんな暗殺やら逃走やらのための魔法なんて今世では多用しないと思うが。
毎日基礎的な魔力操作と簡単な魔法の練度という基本を練習しながら、体を動かしたり発声の練習をしたりして過ごす。
火属性の魔法も練習したいところだったが、万が一の火事が怖いので幼児のうちは諦めることとする。
そうした訓練の中、新たな家族のことも観察していく。
王妃だった母とその娘。それに加えて再婚したのか、普通の村人らしい男もおり、おそらくは彼が俺の血縁上の親父だろう。
父親の違いからか、母と同じく金色の髪をしている姉と違い俺は黒髪をしていて、王族特有の腕力もその血が濃い姉の方が力強く感じる。
まぁ、腕力の方は年齢差の問題の可能性もあるが。
その四人家族に加えて、一緒に住んでいるわけではないが頻繁に日中にかつて母の護衛役であった女性も母の様子を見にきたり俺の世話を焼きにきたりもしている。
あとは革命軍……というか、今の国の兵士も近くに村の駐屯兵として滞在していて、一応見張られているようだ。
ハイハイを身につけてからは行動範囲も広がった。
体の動かし方を知っていたことに加えて周りへの関心の高さ、何よりも幼い体ながら高い筋力で体を支えられることから年齢の割にはかなり動き回れているが、あまり好き勝手に動くと王妃が驚くのでそこそこにしておく。
そこまで裕福というわけでもないが、素朴でお人好しな村人が多く、素直に「いい村だ」と思える。
「あ、ほら、お父さんだよー、ジオルド」
王妃は普通の畑仕事をしている普通の村人のところにトテトテと歩き、彼も俺達に気がついて引き締めていた顔をゆるめる。
「おー、ジオ、来てくれたのか」
そう言いながら俺の頬に手を伸ばし、自分の手が土で汚れていることを気がついて引っ込める。
「お父さん、ジオくんのほっぺたはダメですけど……ほら、いいですよ」
王妃はそう言いながら触れと言わんばかりに自分の頰を父親の方に向けて、彼は照れくさそうにしながら王妃の頬をふにふにと触る。
王妃は土で頬が汚れたのに嬉しそうに笑った。
……めちゃくちゃイチャつくやん。いつものことだけども、微妙な気分である。まぁ幸せそうでいいんだけども。
それにしても……この父親、明らかに身分のいい身なりの妊娠している女性が革命直後にお付きの女性を伴ってやってきたのに普通に結婚してるの、めちゃくちゃメンタル強えな……。
時期からしても「あ、王妃じゃん」と誰もが分かりそうなものなうえ、家の近くに兵士が常駐していて英雄が定期的に村に様子を見に来てるのに、普通に結婚して子供を作ってイチャついてるのってメンタル化け物すぎる。
「ふふ、かわいいよ、俺だけのお姫様」
「えへへ」
やめろ、ガチの亡国の姫にそれはやめろ。やめろ。
国が荒れかねないイチャイチャはやめろ。
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