第111話 殺意

 日が昇る頃、ようやく違うことを少しだけ考える余裕が出てきた。


 なぜケイトは殺された?

 油断? 力不足? もちろんそれもある。だけど……


 俺の中に怒りの感情が、殺意が湧き上がってくる。

 殺す。絶対にアイツらは殺す。


「ああああああああああああああああぁぁぁ!」


 俺の感情に呼応して憤怒の腕輪から力が流れ込んでくるのが分かる。

 抱えたケイトを潰しそうになってしまったので慌てて手を離した。


「ウルト!」


【トラック召喚】を発動してウルトを喚び出す。

 今すぐ追いかけて血祭りにあげてやる……


『マスター……』

「出るぞ。アイツらを生かしておくわけにはいかない。サーシャも助けないと」


 握りしめた手の平から血が流れる。

 今の俺なら、これだけ力が溢れてくる状態なら殺せる。


「クリード!」

「クリードさん!」

「クリード殿!」


 立ち上がりケイトを【無限積載】に積み込んで出発しようとしたところリンたちが部屋に駆け込んできた。


「ウルトが消えたからもしかしてと思って来てみたけど……クリードどうするつもりなの?」

「どうするもこうするも……アイツらをぶっ殺してサーシャを助けに行くよ」

「落ち着きなさい、気持ちは分かるけど落ち着きなさい!」

「気持ちが分かる?なにが……」


 リンたちの顔を見て言葉を止めた。

 そうだ、リンたちもケイトとは仲が良かった。

 俺だけが怒ってるわけじゃない……


「クリードさん……聞いて欲しいッス」

「ああ……」


 ベッドに腰を下ろして深く息を吸って吐く。

 数度繰り返してほんの少しでも冷静さを取り戻す。


「まずサーシャちゃんは無事なはずよ」

「どうしてそう思うんだ?」


 アイツらはサーシャを連れ去った。なのに無事?


「えぇ、なんでアイツらはサーシャちゃんを攫ったと思う?」

「なんでって……新しい勇者を喚ばせないため……?」

「あたしもそう思うわ。だからサーシャちゃんが殺される心配は無いと思うわ」


 それは理解出来るけど……


「アイツらは、特に勇者はサーシャの事を変な目で見てたぞ」

「それも大丈夫でしょう、聖女は純潔を失えば職を失う。せっかく攫ったのに意味が無くなるわ」


 そうだったな、だからアンドレイさんは俺にああ言ってた訳だし。


「そっか、それで?」

「すぐにでも復讐したい気持ちは分かるわ。あたしたちも同じ気持ちだもの……だけど急いては事を仕損じる。しっかり準備をしてからでないと復讐も果たせないわよ」


 言っていることは分かる。分かるけど……


「今すぐ八つ裂きにしてやりたい……」


 どんな理由であれ俺から仲間を、ケイトを奪ったクズ野郎にかける慈悲は無い。

 今この瞬間にアイツらが呼吸していることすら許せない。


「それに気にならない?」

「なにが?」


 リンの表情も厳しいものになっていく。


「あれだけの戦力を整えてここに来たのよ。なんであたしたちがまだ聖都に居ることを知っているように準備出来たのかしらね?」

「内通者……」


 俺たちが聖都に来ていることはリバークで聞けば分かることだ。

 だけど今までずっと足止めされていたことは知っているわけが無い。

 なのにあれだけの戦力を集めて街を囲んだ……


「クリードの能力が上がったことでウルトの能力も上がったらしいわよ。そして魔族の魔力、生命反応も覚えたらしいしね」


 つまり……


『半径5キロメートル以内に魔族が居れば発見出来ます。魔族はおらずとも魔族と接触した可能性の高い人間も感知可能です』

「なるほど、それで内通者を探すってことか」

「えぇ。そういうこと」


 なるほどね、確かにそれが一番手っ取り早いか。


「この近辺、特に屋敷内には居ないんだな?」

『はい。反応はありません』


 多分だけど可能性が高いのは俺たちの動向を詳しく知ることができる人物。

 教会か国の関係者が怪しいな。


「リン、会議は予定通り明日やるのか?」

「いえ……今日の午後緊急会議が行われるわ」


 事態が事態だ、当たり前か……


「それに俺も参加することは出来るか?」

「出来ると思うわよ。クリードもそこに居ると思う?」

「あぁ、国か教会の重鎮、もしくはその側近」

「あたしも同じ考えよ」


 最初にやることは決まったな……


「まずは食事を食べなさい。用意してくれてるから」

「あぁ、そうだな……」

「持ってきて貰うッスよ!」


 アンナが部屋を飛び出して行った。


 その後アンナの運んでくれた朝食を食べたが味は感じなかった。

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