17日目「事は時間と共に」

「――よし、今日の授業はここまで! 皆、気を付けて帰宅するように!!」


 今日の日程を全て終え、僕の号令と同時に一日の終わりを告げた。一斉に生徒達が返る中、僕の席の周囲の人達は残っていた。そう、学校ではお決まりの『放課後の清掃』だ。今日昼休みで会ったであろう甘菜あの子も同じ班だ。


「よぉし! ささっと終わらせちゃおー!!」

「「おー!!」」

「お、おぅ……」

「優くん声ちっさーい!」

「はぁ……」


 こんな面倒ごとを先生に押し付けられたのにも関わらず、これほどまで元気を振りまく甘菜あの子とその周りの流れについてこれない。更に声が小さいと怒られる一方だ。余計に面倒くさくなってきた。


「……ま、いいやっ! 私黒板やるから皆それぞれお願いねっ!」

「おいおい、勝手に指揮るなよ甘菜!」


 それは大いに同感だ。


「えぇ……! だって私班長だって先生に言われたのにぃぃ!!」

「班長関係ないだろ! てかお前の身長じゃ黒板の一番上届かねぇだろ!」

「あー、馬鹿にしたなぁ! これでも私大きい方なんだから……」

「確かに、『大きい』な」

「ちょっ、そっちじゃないし! この変態!!」


 ……時間の無駄としか言えない下らない言い合いは全スルーする。ちなみに今甘菜あの子と言い合ってる男の右胸の名札には『武刀むとう』の二文字が入っている。武刀といえば、あの沖田総司を先祖に持つ武道の名家。更にこの男の父は天下五剣の一角にして『恋鐘こがね』の最後の継承者として有名な侍なのだとか。


「とにかく! 椅子下ろしがだるいからって黒板に逃げんじゃねぇよ」

「に、逃げてないし! こういうのは早い者勝ちだもんっ!!」


 ……あぁ、このまま時間だけが過ぎていく。流石に動くか。



「――おい、こんなことでぐだぐだ喧嘩してんじゃねぇよ」

「遠野……」

「優、くん……?」

「もうこれだけで10分も消費した。もうこれ以上てめぇらの言い争いなんか見てられねぇ。おい武刀、俺と黒板消すぞ。は桐谷達と一緒にほうきで床掃いたり椅子下ろしたりしろ。……さっさと終わらせるぞ」


 僕は『絶対零度』の力を逆に利用し、全班員に指示をした。我ながらかなり怒り気味に言い放ったのでまた僕に対する恐怖心が班全体に広まったと思うが、このまま黙って先生に見つかって怒られるよりはマシだろう。今回は『絶対零度』の性格に救われた。


「……うん」

(初めて、名字で言われた……いつも、名前で呼んでくれてたのに。きっと名札見てそう呼んだんだよね。もう昼休みの事なんて覚えてないんだよね……またやり直しかな)


 何だか今日はとても寒くなりそうだな……と、ここにいる者全員が思った事だろう。それでも、こんな空気でも何故か僕は平気だった。怒ったとは全く別の理由で。


(……どうせ、この事も忘れるんだ。僕も、皆も。時間と共に流れ去っていくんだ)


 そう考えてるうちに、時計の針が早く進んでいるように感じた。黒板もより黒みを帯びてきた。まるでこの教室の空気と同化していくかのように――

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