第十話 シロネの予感、いやーな感じ

 デニムとの話し合いの後、すぐさまシロネ達が暮らす予定の建物へ向かうという流れになったのだが、リタとティナが売ってる物を見て回りたいと駄々をこねたため移動する時間が遅くなった。

 それで今、すっかり日が暮れて街灯に照らされた街並みの中を、シロネ達が乗った馬車とその後ろにデニムとアンディが乗る馬車が進む事となったのだった。


「すゃぁ・・・」

「んぅ・・・」

「二人とも、散々はしゃいだから寝ちゃったよ。もう、子供なんだから」


 馬車で移動して間も無く、リタとティナはぐっすりと眠りに落ちて、お互いもたれ掛かるような体勢で仲良く寝息を立てていた。


「あら、貴方は眠くないの?」

「シャンスティルからサルザードまで移動する時にぐっすりだったからね。全く眠くないの」

「あ、あー・・・そうだったわね」


 ヘレナは原因を思い出した。気付け薬(失敗作)を飲ませてしまったからだと。


「ま、まあ寝れなくても目を瞑っていればある程度休まるからね、シロネ」

「?、まあ今は街見ていたいから良いかなー。でもすごいね。夜なのにこんな人いっぱい歩いてるよ」

「あーそれはね、酒盛りする人がかなり多いのもあるけど、夜にダンジョンに行く人も結構いたりするのよ?ダンジョンの中なら明るさ変わらないし、中にいる人も少ないからね」


 金を稼ぐために昼間は街で働いて、夜はダンジョンの浅い場所で薬草を集める人など、冒険者を専業としていない者もダンジョンに入る事がある。

 それに酒場や娼館など、夜が稼ぎどきの店も多くある事から、サルザードは眠らない街と言われる事もあるぐらい明るい。


「へえ、そうなんだ」


(確かにそれなら人が多いのも納得かも。シャンスティルだと錬金術師はみんな研究のために家にいる事多いから、夜は殆ど出歩かないし。そんな所も違うんだね)


 なるほどと疑問が解消したのは良い。けど、シロネが今最も気になっていることは違った。


「・・・・・・ねえ、お母さん、いつ目的地に着くんだろうね。結構経つし、防壁のような物をいくつか潜ったけど、どういう街の構造してるの、ここ?」


 シロネが言うように、何故か街の中を移動してるだけなのに防壁を既に三回潜っている。けれど外に出る様な事もないため、街の中がいくつもの防壁で区切られている事になる。


「サルザードは今でも成長しているのよ。何故か近く、防壁の外でどんどんダンジョンが発生しててね。ダンジョンを防壁で囲って、そして周囲に生活圏を伸ばすため外に防壁を、って建てていったら大きな街になったのよ」

「そんな事ある?」

「ええ、何でも上空から見ると第一区を中心に、四方八方へ防壁を第二区、第三区と増やしたのを花弁に例え、サルザードはまるで花のような形をしているそうよ」


 それを聞いても正直、今でもその話しは信じられないシロネ。

 街の付近にダンジョンが三つあるだけでも珍しいのだ。どうしてここだけ三十近くも密集しているのか不思議で仕方がない。


「シロネ、この世界には未解明の物や事象なんていくらでもあるのよ」

「・・・・・・そうだね、錬金術師らしく、身近な謎は解くつもりで付き合っていくよ」


 好奇心からなる探究心。それを忘れた錬金術師はそこで終わってしまう。

 未知に遭遇したら調べ、試し、理解する。

 どんな謎だって錬金術をする上で、突き詰めて研究すれば何か参考になるかもしれない。

 そうやって古くから己の全てを活用して、新しい物を生み出してきたから錬金術は発展したのだ。


「わざわざ別の地で暮らして最終課題をするのなら多分、長くなるんだよね?それならいつか、何か分かるかもしれないからね」

「ふふっ、そうね。きっと貴方達なら出来るわ!課題だってどんなに困難でも達成出来ると信じているわよ!」


(あれ?お母さんが生き生きしてる。これはとても嫌な予感がするよ・・・)


「もう着いたの・・・?」

「ママうるしゃぃ・・・」


 少し騒いだせいか、眠っていた二人が起きてしまった。


「丁度良かったわね。もう目的地だそうよ」


 馬車はいつの間にか止まっており、御者をしてくれたウォーリス商会のスタッフが馬車の扉を開けて到着を知らしてくれた。




「すごく広い、ここが新しい家・・・」


 敷地は柵で囲われ、立派な門を抜けた先に大きな二階建ての家があった。だが、それで終わりでは無い。

 家の裏庭もかなり広く、大小大きさが異なる建物がある。


「そこの二階建ての家は普段の生活、居住するための家です。そして裏にはにある建物は大きい方は錬金術のアトリエとして、小さい方は倉庫として利用できます」

「本当に凄いですね。本当に私達三人で暮らして良いのですか?」

「ええ、ヘレナ君からの要望で内装を君たちに合わせて改装しましたから。シロネ君達がサルザードにいる間、快適に暮らせるようにって頼まれましてね」


 既に用意された豪華な住宅。家具としばらく暮らすだけの日用品と食材が揃えられていた。

 整った大きなアトリエ施設。三姉妹それぞれに与えられた作業部屋にちょっとした実験スペースまであった。

 そしていろんな物を入れておける広い倉庫もある。痛みやすい素材のために冷凍保管庫まで用意されていた。


 何もかもいたせりつくしで、本当は喜ぶ所なのだろう。しかし、先ほどのヘレナの様子を見ているシロネはどこか警戒している。

 今まで課題で用意してもらうなんてことはあまり無かったからだ。それにやる事を指示したら、達成方法は自由に任せるという方針だったはず。


(なんで最後だけここまでしてくれるの?本当に怪しい)


「よし、一通り見たね。貴方達、そろそろ最後の課題について話したいからリビングの方へ行きましょうか」

「うん」「ええ」「ん」


 気を引き締め、揃って返事を返す三姉妹。


(一体どんな事をやらされるのか不安だけど、それでも達成してみせる!)




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