第12話 リスペクト筋肉

「ぴ、ぴぃぃぃぃいいいぃぃぃぃぃぃいいっ!!」

「よっしゃ! どんどん投げてこい!! あとはこっちでやっとくから!」


 びっくりするぐらい情けない声でキラーフィッシュを投げてくるイキリ爺。


 ただ、不思議とキラーフィッシュはイキリ爺を攻撃しようとはしない。

 

モンスターはモンスター同士で争わない、ってことはないよな。

だって俺の知ってる限りばんばん殺してるし……。

ということは、こいつらは俺に興味があるって解釈でいいのかな?


「真意は分からんけど……どんどんくるからこっちもどんどん捌いていくうううう!!」


 サバイバルナイフを片手に打ちあがったキラーフィッシュの元まで駆け寄る。

 結局のところこいつらは水の中じゃないとろくに動けないはず。

 顔が怖いからって、ランクがマッスルチキンより高いからってなにもビビる必要はない。


 その証拠に俺がこれだけ近づいてるのに、こいつらは微動だにしていない。


 余裕。余裕過ぎる。

 これは戦闘というかただの調理――


「ふんふんふん」

「ははは! 腕立て? こいつも筋肉馬鹿だったのかな――」


 ――ビュン。


「へ?」

「ふんふんふん」


 俺の手が届きそうなところまで迫ると、キラーフィッシュはその逞しい腕で腕立て伏せを開始。


 パンプアップした腕は一気に肥大し、そのまま両手で地面を叩いた。


 すると、その身体は勢いよく飛び上がり俺の顔の横を通りぎ……その歯が掠ったのか若干血が流れた。


 こいつら、地上で呼吸できるのはおかしいと思っていたけどこんなことできる筋力持ちで……こんなことができる地上戦がメインなのかよ。

 これ、ちょっと厄介かもしれないな。


「また腕立てしてるしさあ。それ止めろや!!」


 ――ビュン。


 キラーフィッシュに視線を移すと、再び俺を狙って飛ぶ。

 速さはそこそこ、でも避けられない訳じゃない。それにノーコンで正確じゃない。


 余裕を持って、ちゃんと素早く追えば大丈夫、問題ない。


「ふんふ――」

「させねえよ!!」


『――キラーフィッシュを討伐しました。条件を1つクリアしました。テイムしたマッスルチキンのランクが【I+】に上がりました。キラーフィッシュの身(生)【F】が5ドロップしました。自動的にアイテム欄にしまわれます』


 今度は腕立てを始めるよりも早く、全力で反応。

 躊躇なくまるで倒れ込むようにその身体をサバイバルナイフで突き刺した。

 どうやら、防御面は大したことないみたいで一撃。


 どうやらこいつらの強みはこのイレギュラーな戦闘方法なだけで、着地狩りっていうこ攻略の鍵を掴めば問題ないらしい。


 ただ戦うのに結構スタミナがいるのはちょっとしんど――


――ビュン


「うおっ! なるほど、ちょっと油断している間にどんどん来るってか。でも……釣ったりするよりこの方が効率がいい! サンキュな! 早く仕事を終わらせられれば早く寝れるってもんよ!」

 ――ビュン。ザス。ビュン。ザス。ビュン。ザス。


 そうして飛び交うキラーフィッシュを追いかけ、たまにかすり傷を負いながらも次々と殺していく。


 最初はビビっていたイキリ爺も既にスクワットをしながら作業にするほど余裕が出てきて、完全にパターン化が完了。


 この食料も今後問題なく大量入手できる、そう思った瞬間だった。


「――くっ!」

「ききっ!」

「大丈夫! 大丈夫だけど……一旦作業中止にしてくれ」


 流石にスタミナが底を尽き、俺はキラーフィッシュの攻撃をもろに喰らってしまった。


 ただ足を噛み付かれてしまったもののランク差なのか、ちょっと転んで擦りむいた程度のダメージ。


 俺は一呼吸すると冷静に脚を噛むキラーフィッシュを掴むと地面に叩きつけた。


「ここからはノーリスクハイリターンって訳にはいかない、か。ってなにそれ?」

「ききっ!?」

「……ふん」


 俺の地をすったからなのか何なのか……キラーフィッシュに今度は脚が生えていたのだ。

 しかもその脚で1回スクワット……。


 キモイ。キモイキモイキモイキモイキモイ。


 これの食材をお客さんに提供するとして、生きてる姿は絶対見せられないよ。


「これは早く殺さないと! 食材になあああああああああれえええええええっ!」

「ふん、ぴぎゃっ!」

「え?」


 俺が急いでサバイバルナイフで攻撃をすると、キラーフィッシュは避けるでもなく簡単に殺されてくれた。

 それどころか俺を見る様子もなく、なんならイキリ爺を見てたようにさえ……。


 イキリ爺にだけ攻撃しない、スクワット、同じ筋肉質な身体……。


 もしかしてこいつら……。


「まだ、打ちあがったのはいるな……。なら……。イキリ爺! こっち来て腕立て伏せしてくれ!」

「きいっ!」


 水からイキリ爺を上がらせ、キラーフィッシュの視線の先に移動させた。


 そしてイキリ爺に深い腕立て伏せをさせる。


 すると、それに釣られてキラーフィッシュたちは腕立てを開始。

 俺に攻撃するどころか、飛んでいこうともしない。


「こいつら……なるほど、筋肉のある奴をリスペクトして、そうじゃないやつを攻撃してたってこと……。筋肉差別、貧相体型キラーフィッシュだったってわけか。そんでもって釣り餌はとびっきりの筋肉と……。着地狩りがどうとかさぁ……俺の頑張り何だったの?」

「きき?」

「はぁ……。まぁいいや。とにかくお前を連れてきて正解だったよ」


 俺はため息を溢すと筋トレをするトレーニーたちを後ろから刺して刺して刺して……ドロップ品キラーフィッシュの身(生)とキラーフィッシュの身(乾燥)をこれでもかと集めるのだった。

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