第11話 キラーフィッシュ
「――ご、がっ! ぐんがっ! ふぅ……。ご、がっ! ぐんがっ! ふぅぅ……」
「……連れて来たの失敗したか?」
いつもの卵とささみの生産場、もとい俺の養鶏場がある扉付近を過ぎて、細長い道を進みキラーフィッシュのいる第2区画を目指すことにしたのだが……。
うっさい。
一緒にダンジョン探索したいみたいなこというから、連れて来たけどさっきからアームカールをする手が止まらなくて鼻息と力み声がひどい。
しかもお気に入りのデカい石、錘を両手に持ってるのが仇になってたまに出る野生のチキンチキンに攻撃するのがやたらと遅い。
お前のその筋肉なんのためについとんねん。
癖が強いのよ、癖が。
「ふぅぅ……。きぎっ!?」
「おいちょっと! 今度はマラソンか?」
マップ上そろそろ第2区画に入る頃合いになると、イキリ爺が唐突に走り出した。
俺もそれを追いかけてダッシュ。
折角育ったマッスルチキンの処理役兼チキンチキンの指揮役が新しい場所で初見殺しにあったら流石に笑えない。……多分笑えない。
「はぁはぁっはぁ、おま、早いって……って風?」
「ぎきっ!!」
吐きそうなほど必死に衰えた足を動かしていると、前から心地よい風を感じた。
そしてそんな風を浴びながら更に進むと、ついにこの洞窟の出口、いっぱいの光が目に映った。
その眩しさに目を刺激されながらも俺たちは光の中に突っ込む。
「うわっ。ここ本当にダンジョンなの?」
「ききっ!」
燦燦と降り注ぐ陽と木々。
正面には小川が流れ、この光景は俺の知っているダンジョンの域を出ていた。
「マップは間違ってないか……。森みたいになってるけど、進める道順はあるのな」
マップを表示して変なところに迷い込んでいないか確認。
どうやらRPGにありがちな先は見えるけど、思ったより狭いフィールド、みたいな感じらしい。
「すぅ……。ごがふぁああああああぁぁぁあああああぁぁぁああっぁあ!!」
全身に光を浴びて清々しい顔を見せるイキリ爺は両手を広げると思いっきり深呼吸。
気持ちは分からなくないけど、なんか一挙一動がやっぱり爺なのよ。
「そんなじゃまずはキラーフィッシュ、とここには【タッケタッケ】ってのが採取らしいからそれを探して……っておい! 川は流石に危ないんじゃないか!?」
――ばっしゃばっしゃばっしゃ。
まずはこの辺を知るついでに、明らかにタケノコだろっていう名前の野菜を探そうとすると、イキリ爺は速攻川に足を突っ込みその水をかぶっていた。
まぁ筋トレ後のシャワーは最高だろうけど……多分いるぞ、そこにキラーフィッシュ。
――ばしゃっ!!
「え?」
「きぎぃっ!!」
ちょっとひどい目に合って欲しいような気持ちも持ちながらイキリ爺を見ていると、イキリ爺は嘴を川に突っ込んで何かを拾い上げた。
そうして放り上げられた『それ』は陽の光を浴びながら俺の下に。
大きさは1メートル少々。
黒い鱗と殺意に満ちた真っ赤な目、そして何より恐ろしいのは……。
「その腕、ちょっと……いや凄いキモイ」
「……」
ヒレが人間の腕みたいになってる。
そんでもってその腕でバランスとってる。
強キャラ感のある顔と違ってその使用はギャグマンガ過ぎるだろ。
そんでもって無言で中指立てるのやめろ。
なんかこんなのパ●ワ君にいなかったか?
変な既視感があるんだけど。
「キラーフィッシュ【I+】。なにはともあれ、簡単に見つかったのはありがたいな。ナイス、イキリ爺――」
「きぎぃぃぃ……」
大層な筋肉ボディを縮こまらせて震えるイキリ爺。
俺てっきり『キラーフィッシュをそっちに投げるんでガンガン倒しちゃってください!』みたいな感じでこっちに投げてきたんだと思ったけど……もしかしてお前ビビッてこっち投げちゃっただけ?
いや、流石にそんなことないよな? もう進化してるし、身体も立派だし。
「……ふぅ」
「いやいやいやいやいや!! なにお前『いいお湯だった』みたいに皮から出ようとしてんの!? もっとこいつらこっちに寄こさないと、このキモイ魚食べさせてやらないぞ!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。