第9話 女性客にバズる
「――すみません! 営業時間いっぱいになりますのでこちらのお客様で本日最後にさせていただきます! すみません、ちょっと人手が足りないのでこの札を持って頂いてもよろしいですか?」
「あ、はい」
「ありがとうございます!」
「その、あの、大変ですね。頑張ってください。……いろいろ」
「はい! こうなったらもう精魂尽き果てるまで全力で営業しますよ!」
「そう……。ふふふ、良かった」
「それじゃあもうしばらくお待ち下さい。お客さんはいつものでいいですか?」
「特製ラーメン大盛りのセット、チャーハン大盛り、麺硬め、卵3、替え玉、ネギ抜き、厚切りチャーシュー追加」
「了解です! 準備して待ってま――」
「あ、その……。もっと美味しくなるように、店が大きくなるように、応援、してます」
「……。お客さん……大きな声じゃ言えませんけど、今日はサービスしときますね」
常連の女性に小声でそう伝えると、俺は店に戻った。
真波が動画を投稿して既に1週間。
俺の予感は現実のものとなり、店からは連日嬉しい悲鳴が上がっている。
動画の再生数はそろそろ500万。
店のSNSは10万フォロワーを越えそうな勢い。
棒棒鶏の動画と効果はテレビでも取り上げられ、その動画を投稿した真波はルックスの良さ、そして男女共にウケる明るい性格でブレイク。
相乗効果が爆発して、店はバズりにバズっている。
棒棒鶏の材料費が格安なこともあって、利益はちょっと前とは比べ物にならないほど。
ただその前に俺の身体が持つかどうか……。
バイトの募集はかけたけど……それまで持ってくれよ、俺の身体。
仕事量3倍、いや10べえだああああああああああああああ!
◇
「――はい、お待たせしました棒棒鶏になります」
「美味しそう! 写真いいですか?」
「どうぞどうぞ」
来店するお客さんのほとんどがこれ。
比率も女性客が8割で男性が2割。
どうやらマッスルチキンのささみで作った棒棒鶏は脂肪を筋肉に変える力が凄いらしく、痩せるというより筋肉を作る食材らしい。
保健所の人が例外的に念入りに調べてくれたんだけど……あの人ちょっと陰りがあって怖いん――
「なんか食べにくくなったなぁ……」
あと少しで注文を片せると思っていると、アンチだったあの卵スープの常連さんがポツリ。
この人は本当に態度に問題がある。
でも……その気持ちが分からなくもないから困るんだよな。
やっぱり中華屋らしくもっとカロリーなんて気にしない料理……あの女性も言ってたし、ダンジョンの食材で今度は「ラーメン」とか「餃子」のテコ入れをしないと男性客がいなくなるかも……。
それに店の広さもどうにかしたいな。
増築……借金はしたくないんだけど――
『保護区のカスタム権限譲渡申請を行います。……。……。……。承認条件の提示がありました。ダンジョン1階層の突破。及び、モンスター【ホーンボア】、【キラーフィッシュ】、【コムボール】の討伐。全5種の採取。これらのクリアが条件となります』
頭の中に流れたアナウンス。
討伐とか採取とか……これこそダンジョンってやつきたあ!!
保護区のカスタムって多分ここを魔法の力でどうにかできるってことだよね?
無償増築とかできたら相当ヤバいよ!
ヤバ、色んな不安全部ぶっ飛んで楽しみになってきたんだけど。
テンション上がってきたし、詫びもかねてサービスしちゃおっかな。
「お客さん、おかわりします? 今日はもう終わりなんでご飯なくなるまでおかわりしても大丈夫ですよ」
「今日は……お店忙しいみたいだし、早めに帰りたいからだいじょ――」
「ギリギリセーフっ!!! 棒棒鶏、定食で3人前お願い!」
卵スープの常連さんがあからさまに店の雰囲気を嫌がって帰ろうとすると、今日のお客さんはもう受け入れていないにも関わらず、真波がアイドル仲間を2人連れて扉を開けた。
当然店内はパニック。
ちょっとした撮影イベントになってしまった。
ただ帰れって言うのも荒れそうだし……他のお客さんの分の料理をさっさと出して卵スープの常連さんみたいに早めに帰って貰お――
「ま、まままままままま真波ちゃん! 本物だあっ! うぉっほん! 店主、あの子の分の会計は私が払うから。いやぉ、あっはっはっはっはっ! こんなに居心地のお店は初めてだよ!」
「……」
卵スープの常連さん、いや……この卵おじさんの必殺技は『掌返し』で決定だな。
滑稽過ぎて最早おもろい。あんたすげえよ。
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