第152話 Side - 184 - 29 - しゅごいの -

Side - 184 - 29 - しゅごいの -



俺の名前はダニエル・ジャックス・・・王国騎士団の蒼龍部隊を率いている隊長だ。


「あの子が・・・白銀の大魔導士・・・」


ローズも驚いているな、いや、ここに居る4人は全員驚きで目を見開いている。


・・・何十年も行方が分からなくなっていた白銀の大魔導士、そんな物語に登場するような伝説の存在があの小さな子供だとは・・・いや、本には幼いまま成長が止まっていると書かれていたな・・・。


「騎士様、約束は忘れないでね、この事を他の人に話したらお姉ちゃん怒って何するか分かんないよ」


「あぁ、すまんアンジェちゃん、そんな事になってたのか、ついうっかり喋ってしまったよ・・・だが騎士の皆も上に報告ができないだろう・・・そうだな・・・エテルナ及びギャラン、2つのローゼリア王国を統治する統一国王、エルヴィス・ディアマンテ・ローゼリア31世の名に於いて騎士達に命ずる、ここで知り得た情報と、起きた出来事に関して他言を禁ずる、もちろん宰相やエテルナ・ローゼリア国王も含むぞ・・・これでいいかい?」


ありがたい・・・どう報告しようかと今から胃が痛かったのだ。


「はっ!、統一国王陛下の命により決して他言しないと誓います!」


しゅっ・・・ぱあっ!


「うわ眩しっ!」


リゼお姉ちゃんが帰って来た・・・手にでかい袋を抱えてるが・・・何だ?。


「陛下・・・装置を停止しました、それから装置の横に夜吠鳳凰が居たので狩って来ました、血抜きと下処理は終わっているのですぐに食べられます、これからいかがですか?」


「おぉ!、あの幻の鳥か?、希少な上に殺した後の腐敗が早くてどんなに金を積んでも手に入らない奴だな・・・私も一度しか食べた事が無い、ぜひお願いしたいな、皆も食べるだろ?」


「・・・は・・・はい」


とんでもない食材が来た、食えば一生自慢できる奴だ・・・しかも3羽居るぞ・・・。


「では調理します、あとついでに近くに居たブラックドラゴンの首を落として逆鱗の後ろの肉も持って来ました、一緒にどうぞ」


リゼお姉ちゃんが手際よく炭火で肉を焼き始めた、この子・・・いや大魔導士様は料理も得意なのか・・・それにブラックドラゴンの首を落としたって・・・まるで魚の頭を落としたみたいに軽く言いやがったぞ、あれは騎士団数十人で倒す奴だろうが!。


「まずは何も付けずに肉本来の味を楽しんでください・・・それから塩で、次にハーブとニンニクを入れた特製のタレでどうぞ」


ささっ・・・


リゼお姉ちゃんが焼き上がった肉を8人前テーブルに並べた、見た目でもうすでに美味いと分かる色艶だ、・・・おや、1つ多いぞ。


「一つは眠っている騎士様に・・・状態保存の魔法陣に乗せるから腐らないの、目が覚めたら食べさせてあげて・・・」


ターキィの分か、大魔導士様は冷酷で無慈悲と聞いていたが優しいな・・・誰だよそんな噂流した奴は。


「状態保存の・・・魔法陣だと・・・」


タイムズの奴がまた驚いている、そんな冗談みたいな魔法が存在したのかって思うよな・・・。


「それから・・・私も食べるのは初めてだから特別にこれを開けるの、ラングレー王国、セフィーロの街で作られた20年もののワイン・・・」


「おぉ、凄いな!」


リゼお姉ちゃんが一瞬転移で消えた後、手にワインと人数分のグラスを抱えて現れた、便利だな転移魔法陣・・・俺はワインには詳しくないが陛下が喜んでるって事は良いワインなのだろう。


「なるほど・・・言葉を失う美味さだ、昔レパード帝国で振舞われて食った時より数倍美味いな、料理する人間の腕の違いか・・・」


「美味い・・・」


「美味しい・・・しゅごいの・・・」


「これはやばい」


「・・・うまい」


「リゼお姉ちゃん美味しい」


「うん、予想以上に美味しいの」


ここにいる全員顔がだらしないぞ、肉はとんでもなく美味かった、フルーツ・・・しかも甘い果実しか食わない鳥だ、肉からほのかに果実のような風味が漂う、それでいて鳥の旨みもあって、しかも炭火で炙る事により香ばしくなってる・・・。


「このドラゴンの肉もうまい!」


陛下がご機嫌だ、こんなに気さくな方だったのか・・・もっと恐ろしい・・・威厳のある人だと思っていたな。


「本当だ・・・たまに市場に出回るドラゴンの肉とは全然違う」


ドラゴンを食った事があるのだろう、マークが驚いている。


厚切りにして鉄板で焼いた肉だ、焼き加減も完璧で柔らかくて臭みが全く無い、それに自作らしいソースも絶品だ・・・このソース欲しいな。


俺達は腹一杯肉を堪能した、良いワインを飲んで酔ったのか性格が図太いローズは陛下と仲良くなって世間話をしている・・・酔いが覚めた時大変そうだ。


俺も陛下と少し会話したが超大国の最高権力者らしく思慮深い聡明な御方だった、今のエテルナ・ローゼリアの不穏な動きを警戒しておられたな。


「さて、私はまたこれから執務だ・・・うまい肉を食って良い気分転換になったよ、ありがとうリゼちゃん」


「いえ、わざわざ来ていただきありがとうございます」


何でも陛下は大魔導士様からこの場所に直接転移できる魔法陣を刻んだ指輪を渡されているらしい、だからこことギャラン・ローゼリアの王城を自由に行き来出来る、この世で一番非常時の緊急避難に適した場所だそうだ・・・なるほど・・・。


「あ、そうだ・・・騎士達はしばらくここに滞在していて欲しい、君達に危険な任務を押し付けた宰相と・・・言いなりになって命令を出した国王に罰を与えようと思う、証拠を集めて逃げられないようにしたいから・・・そうだね、20日ほどかかるかな」


「え、ここでですか?」


ローズが陛下に尋ねた、おいそんな気軽に話しかけるなよ。


「ローゼリアに戻ったら追い詰められた宰相が証拠を残さない為に君達を消そうとするかもしれない、だから行方不明扱いのままの方が安全だし、私としてもやり易いからね、ギャラン・ローゼリアの王城に来ても良いけど、あそこもエテルナの宰相が諜報員を潜り込ませている可能性がある、ここが一番安全だ、リゼちゃんには悪いが・・・また一つ貸しって事で頼むよ、お礼もするからね」


「・・・はい」


あ、リゼお姉ちゃんが嫌そうな顔をしつつも頷いた、そりゃ陛下からのお願いは断れないよな。


「では、向こうが片付いたら連絡するよ、そしたら騎士達をエテルナ・ローゼリアに送り返して欲しい、もしかしたら騎士団の上司や大臣が全員交代しているかもしれないけどね」


「分かりました」


恐ろしい事を言い残して陛下が魔法陣に包まれて消えた・・・本当に便利だな転移魔法陣・・・。






「ひそひそ・・・」


「ここに置いてある炭や網、食器はそのままにしておいて、明日片付けるから、それからみんなが眠る簡易テントや毛布は明日までに用意する、今日は狭いけど家の中で寝て・・・ってお姉ちゃんが言ってる」


アンジェちゃんがまた通訳してくれた、俺たちが肉を焼いて食ってたのは家の前の庭だ、畑の少し開けた所で炭を起こして普段は茶を飲む為に使ってるんだろう・・・庭にあるテーブルと椅子を使ってた。


「俺達で片付けようか、それに野外で転がって眠る訓練は受けてるから大丈夫だぞ」


「ひそひそ・・・」


「この辺は明け方には冷えるの、風邪をひかれたら迷惑だから怪我人は大人しく家の中で寝てろ・・・って言ってるよ」


確かに昨日から一睡もしていない俺達は疲労で限界だ、お言葉に甘えるとしようか・・・。






「ひそひそ・・・」


「キッチンに1人、それからこの部屋の作業机を隅に移動して2人寝られると思う、毛布が1枚足りないからローズさんは僕が使ってるお部屋で一緒に寝よう」


やはり屋根があるところで寝られるのは安心感が違うな、それに夜の見張りをしなくて良いのはありがたい。


「この机を動かして良いのか?」


「うん、お願い、お姉ちゃんは足が不自由だし僕は腕が使えないから」


「・・・分かった」


「それからそこにある模型は触らないで、お姉ちゃんが大事にしてるやつなの」


「こ・・・これは何だ!、凄いな・・・」


そこにはエテルナ大陸を含む4つの大陸の精密な模型が飾ってあった、しかも地図なんて簡単に入手できないミラージュ大陸もあるぞ・・・。


「お姉ちゃんの趣味、長い時間をかけて作ったらしいの、僕も初めて見せてもらった時は驚いたよ」






「あれだけの魔物に襲われて生きてるなんてな」


「あぁ、彼女達には感謝しないといけないな・・・」


俺とマークは大陸模型の置いてある部屋の床で毛布にくるまって話してる、キッチンはまだ意識の無いターキィがテーブルの上で、床には身体のでかいタイムズが寝てる筈だ、それからローズの奴はアンジェちゃんと一緒に寝室に居る。


部屋が狭い上に家具が置いてあるから体格のいい男が2人寝転がると確かに窮屈だ、外の方が快適かもしれない、だが家の中で寝かせてもらってるのだから贅沢は言えないな・・・、それに明日にはテントと毛布を用意してくれるらしいから外で身体を伸ばして寝られるだろう。


「俺は今自分が体験してる事がまだ信じられない、大魔導士なんて御伽話に出てくるような人間に助けられて、飯まで食わせてもらった・・・そんな話誰が信じる?」


マークが独り言のように呟いた、俺も同じ気持ちだ、5匹のオーガに囲まれた時にはもうお終いだと思った・・・。


「それに統一国王陛下と一緒に飯を食って酒を飲んだ・・・やべぇな」


確かにな!、この事は王命で誰にも話せないが、俺の一生の自慢になる、それにあの鳥も美味かった!。


「そこの壁にかかってる絵・・・写真か、あれは大魔導士様とリィンフェルド女王陛下だ、城に飾ってある女王陛下の絵姿より随分と若いし・・・仲が良さそうだ、親友だったってのは本当のようだな」


「もう少し彼女の事を知りたいが・・・詮索しないって約束だから仕方ないか」


「あぁ、そうだな・・・さて、俺はもう限界だ、寝るぞ」


そう言って俺は立ち上がり、魔導灯より明るく眩しい部屋の灯りを消した。

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