第151話 Side - 184 - 28 - さりー -

Side - 184 - 28 - さりー -



俺の名前はサリー・ブライアス、コルトの街で長くレストランを経営していた、今年で149歳になる。


俺は魔力量が多いから成長が遅く長生きだ、そんな俺だが少しずつ歳を重ねて人生の終わりが見えてきた、普通の人間の年齢に換算すると今の俺は70歳前後らしい。


宿屋の娘として生まれた俺の母親は小さな頃から伯父のレストランによく出入りして手伝いをしていたそうだ。


タダーノ伯父さんからは料理の才能を評価され、作り方を教わって自然とレストランで働くようになった、そして街に引っ越して来た料理人の親父と恋に落ちて結婚、姉と俺が生まれた。


俺の姉は宿屋を手伝い、料理が好きだった俺は母親と一緒にレストランを手伝った、そして時が流れ、タダーノ伯父さんが亡くなった後は両親が店を継いだ。


料理以外に興味が無かった俺もこの店を継ぐのだろうと漠然と思っていたのだが・・・その通りになった、俺の代になってからは評判が更に広がり店の前にはいつも長い行列が出来ていた。


自分でもよく頑張ったと思う・・・、結婚して息子が一人生まれた、息子には店を継がせようと俺の技術を全て教えた、息子も料理が好きだったから教え甲斐があったな。


更に月日が流れ息子が結婚して孫も生まれた、これからは店を家族に任せて隠居するか・・・そう思っていた矢先に息子が死んだ、休みを利用して海に魚を釣りに出た先で船が沈んだのだ。


幸せだった俺達家族を襲った悲劇はまだ続いた、心労で妻が倒れ、息子の嫁が孫を残して他の男と街から出て行ったのだ、幸い宿屋を経営している姉夫婦や伯父、そして俺が幼い頃から家族同然の付き合いをしてくれていたリゼお姉ちゃんが俺達を支えてくれた。


本当に色々あった・・・俺は孫を育て上げ、妻が亡くなったのをきっかけに楽しい思い出が詰まった店を閉める決心をした・・・この時は初代や先代に申し訳なくて・・・最後の日は灯りの消えた店の中で一人で泣いた。


姉も姉の旦那も俺より先に死んだ、2人とも90歳近くまで生きたから普通の人間にしては長生きだろう、姉夫婦は子供に恵まれなかったから宿屋は俺の孫が継いだ。


140歳も後半に差し掛かり、俺は身体の不調を自覚するようになった、よく寝込むようになり足腰が痛み味覚も鈍ってきた・・・俺が思い描いていた幸せな人生とは少し違ったが・・・振り返ってみると悪くない人生だった。


そう思っていたある日、孫が顔色を変えて俺の所に来た、息子・・・ハンターをやっている曾孫のベネットが依頼先で行方不明、生存の可能性は低いらしい・・・なんてこった!。


もう一人の曾孫・・・孫と一緒に宿屋をやっているカカーシィーは王都まで行き、捜索依頼も出した。


曾孫が王都に出発する前日、やはり俺も行こうとベッドから立ち上がると腰に激痛が走った・・・翌日心配する曾孫を見送り俺は全く身動きが取れないまま数日寝込んだ・・・忙しいのに世話をしてくれた孫には感謝しかない。


曾孫を心配しつつもどうする事も出来ない俺はベッドの上で暇を持て余していた、動けるなら趣味の料理もできるが腰が痛くてそれどころでは無い・・・俺も遂に死んじまうのか・・・そう思っていると懐かしい客人がやって来た。


「サリー君・・・大丈夫?、宿の人に聞いたら寝込んでるって・・・」


「リゼお姉ちゃん・・・」


俺が幼い頃、遊んでもらった時と変わらない姿で家に入って来た人はリーゼロッテ・シェルダン、この街があるシェルダン領を治める領主様より偉い人だ・・・。


俺の祖父の代から家族同然の付き合いをしてもらっている、俺の母親や祖父とも仲が良かったし、もちろん俺とも親しい・・・懐かしい顔を見て・・・いい歳をして泣いてしまった。


「泣かないで・・・腰を痛めたって聞いたけど・・・」


それからリゼお姉ちゃんはほとんど毎日のようにやって来て俺の治療をしてくれた。


後になって分かった事だがランサー大陸で死にかけているところを気まぐれで助けた男は俺の曾孫・・・ベネットだった・・・恐ろしい程の偶然だ。


ベネットも街に戻り、奴はハンターを引退して店を継いでくれるそうだ、ようやく心配事が無くなった、もういつ死んでも悔いは無いな・・・そう思っていたある日。


「ねぇ、サリー君、ちょっと太った?」


最初に気付いたのはリゼお姉ちゃんだった・・・確かに最近は身体の調子が良いからベネットがもらって来たお姉ちゃんのレシピ本を見て料理を作ってたしそれなりに食った、だが太っては無い・・・と思う・・・ぞ。


「おい、爺さん、最近体格良くなってねぇか?、いい歳して鍛えてるのかよ」


「サリー爺さん、腕の筋肉やばくないか?」


次に気付いたのは曾孫2人だ、2人とも何言ってるんだよ、年寄りを揶揄うな、俺はしばらく寝たきりだったんだぞ・・・あれ?・・・そういえば服がきついな、腕周りがぱっつんぱっつんだ。


「爺さんどうした!、腹筋割れてるじゃねぇか!」


最後は孫だ、宿屋の風呂に入ってると仕事が終わった孫も入って来て一緒になった・・・俺を見て固まってるな、ジジイの身体見ても面白く無いだろうに・・・。


「・・・何じゃこりゃぁ!」


孫に言われて脱衣所で鏡に映った自分を見て愕然とした、そこには筋肉ムキムキのジジィが居た・・・いやお前誰だよ・・・。


「これが・・・俺?」


「ここには俺と爺さんしか居ないぞ」


「この鏡おかしくね?」


「いやおかしいのは爺さんだ、最近毎日リゼお姉ちゃん来てるだろ、何かしてるのか?」


「腰に・・・治療だと言って毎日魔力を当ててもらってた、あの魔力量の多いお姉ちゃんが帰りにはフラフラになってたからかなり強い魔力を流されたのかもな」


「魔力流しただけでムキムキにはならないぜ、病院でも魔力を流して治療なんて普通にやってるだろ」


「なら俺はどうしてムキムキになってるんだよ」


「知らねぇよ」







「・・・」


「・・・」


翌日、治療に来たリゼお姉ちゃんに俺がムキムキになってる事を話した、いつもは服の上から治療してもらっていたからお姉ちゃんは気付かなかったらしい。


「触って良い?・・・」


「どうぞ」


さわさわ・・・


「ひゃぁ!」


「ね、ムキムキでしょ」


「う・・・うん、ちょっと前・・・私がマッサージしてた頃はこんなんじゃなかったよね?」


「魔力を服の上から流し始めてからだと思う・・・」


「・・・そう」


「心当たり・・・ある?」


フルフル・・・


「でも・・・、ヘルニア・・・悪い部分がなかなか治らなかったから、面倒臭くなって私の魔力の半分以上流してたの」


「それが原因では?」


「そうかも・・・ごめん・・・」


「いや!、お姉ちゃんは悪くないぞ!、むしろ健康になって感謝してる、歩いても息が切れないし凄く身体の調子が良い」


「ちょっと待ってて・・・」






お姉ちゃんが部屋の隅で腕輪に向かって何か話してる・・・。


ぱあっ!


「うわ眩しっ!」


ひそひそ・・・


「・・・この患者か?」


「うん・・・私がね・・・魔力を毎日・・・」


「・・・嬢ちゃんが全力で流したのか!・・・無茶しやがる・・・」


「・・・だって・・・なの」


「・・・だぞ、・・・限度ってものがあるだろうが・・・」






転移魔法陣で部屋に現れたのは師匠の・・・確かドックさん、2人の会話が少し聞こえるんだが・・・内容が不穏過ぎて不安だ・・・。


「失礼・・・俺とは何度か会っているな?、嬢ちゃんの師匠のドックだ、俺も医師免許を持ってる、少し身体を診せてくれ」


「あぁ・・・どうぞ」


さわさわ・・・


「ふむ・・・」


ぺたぺた・・・


「おや・・・これは?」


なでなで・・・


「ん?・・・まさか・・・」


「どうだろう?、何か分かっただろうか?」


「・・・」


いや何か言えよ。


「嬢ちゃん、この患者は魔力を流す前もムキムキだったのか?」


「ううん、普通に70歳くらいの平均的な身体だったよ、むしろ痩せ過ぎてたかな」


「・・・」


「・・・」


いや本当に何か言ってくれ!、不安過ぎる。






ひそひそ・・・


「・・・」


「・・・」


2人は更に声量を落として何か話してる、・・・何だよ・・・俺はどうなるんだ、怒らないからはっきり言ってくれ、・・・俺は2人の後ろにこっそり近付いた。


「治療は続けるのか?」


「まだ完治してないから30日くらいは続けるつもり、・・・徐々に良くなって来てるからそれくらいやるとほぼ完治すると思う」


「まさか若返るとは・・・これは統一国王陛下に報告をしないとやばい」


「そんなに大事になるの?」


「医療界に激震が走る程度にはやばいな、また爵位がもらえそうだが国家機密になるかもしれん」


・・・2人の会話はとてつもなく不穏な内容だった、俺は近付いて盗み聞きした事を後悔した。


「・・・サリー君大丈夫だよ、博士がね、何も問題は無いって(ニコッ)」


「・・・あぁ、何も心配はいらない、このまましばらく嬢ちゃんの治療を受けたら「腰は」完治するだろう(ニコッ)」


盗み聞きを激しく後悔した後、そっと距離をとっていた俺に2人はとても良い笑顔でそう言った。


「ただ・・・サリー君を信用してお願いがあるの、・・・街の人にこのムキムキは何だ!、って聞かれたら私の事は秘密にしておいて欲しいの」


「え、・・・でもなんて言えば良いんだ?」


「そうだね・・・ある日突然鍛錬に目覚めた・・・みたいな?、自分で鍛えてムキムキになったって事にしてもらえる?」


「あ・・はい・・・」

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