第150話 Side - 184 - 27 - ここはようじょしかいないのかよ -

Side - 184 - 27 - ここはようじょしかいないのかよ -



俺の名前はダニエル・ジャックス・・・王国騎士団の蒼龍部隊を率いている隊長だ。


俺たちの部隊はランサー大陸にある前線基地の調査にやって来て・・・魔物に襲われて死にかけた、そこに突然幼女が現れて・・・魔物の首を切り落とした後広い庭のある家に連れて来られた、何言ってるのか分からないと思うが俺にも状況が全く分からない。


「俺達は助かったのか?」


「あの子行っちゃったけど・・・」


「ここはどこなんだ?、魔物の気配が無いぞ」


「・・・」






ガチャ・・・


幼女が家の中に入ってしばらくすると扉が開いて別の幼女が出てきた、何だここは幼女しか居ないのかよ。


「・・・」


その幼女は身体にピッタリとしたエロい・・・いや妙な服を着ていて右腕は肩の下から切断されていて無い、彼女はどこか不安そうな表情で俺達の方に歩いて来た・・・。


「・・・あの・・・大丈夫ですか?」


幼女は俺たちに問いかけた、これが大丈夫に見えるのか?、一人は意識が無いし、3人は身体中傷だらけだ、そしてあと一人は傷だらけな上に全裸でよだれまみれなのだ。


だが相手は幼女・・・まぁ幼女とは言っても13歳くらいか・・・俺は冷静な風を装って幼女に答えた。


「何とか生きてる・・・」


「僕の名前はアンジェ、リゼお姉ちゃんに頼まれて・・・今の状況を説明するね」






「それで・・・、ここは魔の森の真ん中でリゼお姉ちゃんとやらの家、襲われている俺達を見つけて安全な場所に避難させた、これから怪我の治療をしてくれる・・・で、いいのかな?」


「そうだよ、怪我が酷い人から順番に治療するけど、リゼお姉ちゃんは人間嫌いで男性恐怖症なの、だから話しかけないで、用がある時は僕を通してね」


「あぁ、分かった、助けてくれて感謝する・・・と伝えてくれ」


「うん、それで、この家はお部屋が狭くて全員が寝泊まりする事ができないの、僕も居候だからアレなんだけど、そこの重傷の人以外は外で寝てもらう事になると思う、でも外で寝泊まりする為の簡易テントやお食事はこちらで用意するから安心して」


「そこまでしてくれるのか・・・」


「リゼお姉ちゃんはある人物から騎士団がここに来るって聞いたみたいでね、最初は関係無いからって放置して見殺しにするつもりだったようだけど・・・その人物が余計な事を言って・・・病弱な奥さんと2人暮らし、父親が溺愛して育てた一人娘、可愛い婚約者と来年結婚する、娘さんが生まれたばかり・・・まぁそれを聞かされたら手間じゃないしちょっと助けて来ようか・・・ってなるよね」


「そんな事まで知ってたのか・・・いったい君達は何者なんだ」


「リゼお姉ちゃんと約束した筈だよね、何も詮索しない事、ここでの事は他言しない事・・・僕は非力だから力で何とでもなるだろうけど、リゼお姉ちゃんはすごく強いから・・・怒らせて敵だって認識されたら命の保証はできないよ」


「すまん、余計な事は詮索しない」


「うん、それが賢いと思う、この家の周辺は自由に歩き回ってもいいけど・・・遠くに霧で霞んだ森が見えるでしょ、あれくらいの距離のところに結界が張ってあって魔物が入って来ないようにしてるの、でも危ないから結界の近くには絶対に近寄らないで」


「分かった、それで・・・君については詮索してもいいのか?」


「僕の事も出来れば詮索しないで欲しい・・・でも調べたらすぐに分かるかな・・・貴族からの依頼でここに調査に来た2組のハンターの中の1人だよ、貴方達と同じように魔物に襲われて、相棒は行方不明、僕は右腕を食べられて、胸から下の皮膚が溶けて無くなっちゃった・・・」


「それは・・・大変だったな」


「偶然通りかかったリゼお姉ちゃんに助けられなかったら僕は今頃死んでたの・・・あ、そうそう、最初に来た男性ハンターもリゼお姉ちゃんが助けて送り返したみたい、お姉ちゃん男嫌いなのによく頑張ったと思う、今頃ローゼリアで依頼主に調査結果・・・前線基地には何も無いし周りは魔物だらけって報告してるんじゃないかなぁ」


「ローゼリアに帰れるのか・・・どうやって!」


「襲われた場所からここに来たのと同じで転移魔法陣を使うの、お姉ちゃんに言えばローゼリアの王都に送り返してもらえると思う・・・ただ、ここであった事は話せないから貴方達の上司にどうやって帰って来たのか聞かれたら困ると思うけどね・・・今から報告する内容を考えておいたほうがいいよ、しつこいようだけど約束は守ってね」


「・・・」


ガチャ・・・


「リゼお姉ちゃんの準備ができたみたい、治療をするからその人を中に運んでもらえる?、僕は左腕も動かないから」






俺たちはアンジェちゃんに言われて意識が無いターキィを抱えて家の中に入った。


中に入るとキッチンのような所に通され、毛布が敷かれている食卓の上にターキィを乗せた・・・部屋の中にはリゼお姉ちゃんとやらに加えてもう一人居るぞ、聖女服を着た60歳くらいの女性だ。


「また寝てるのに叩き起こされた・・・リゼちゃん酷い・・・」


そう言って涙目で浄化魔法を浴びせる聖女・・・もうこの時点で俺は考える事を放棄した。






「じゃぁ私は帰るね、報酬は口座に入れておいて・・・」


「ありがとう・・・トアールさん・・・」


ターキィの後、俺たち全員の浄化を終えた聖女はリゼお姉ちゃんの出した魔法陣に包まれて消えた、あの老聖女はトアールさんって名前のようだ・・・待て!、王都の神殿で大聖女って言われてる3人のうちの一人がトアールって名前だったよな・・・まさか・・・。


「・・・これが転移魔法陣」


そんな声が後ろで聞こえたから振り返ると・・・魔法騎士のタイムズがバカみたいに口を開けて呆然としている・・・お前の体格じゃこの家は窮屈そうだな・・・。






ターキィはどうやら腹部の深い刺し傷に加えて右腕と肋骨を骨折していたようだ、5人のうちで治療の心得があるのはターキィだけだから本当に助かった、アンジェちゃんが通訳して教えてくれたが危険な状態だったらしい。


俺達4人の傷のほとんどは擦り傷程度だった、俺とタイムズは2箇所ほど深いのがあったが動けない程じゃない、それに丁寧に治療してくれたから傷が腐る心配は無さそうだ。


聖女様の浄化で服や身体は綺麗になっていたがリゼお姉ちゃん・・・彼女はトイレと風呂まで提供してくれた、いつ使ってもいいそうだ、数日おきに近くにある川で水浴びをって思ってたから有難い、特にローズが嬉しそうだ。


「川から水を汲み上げて濾過まで全部魔法陣か・・・飲料水も綺麗だ・・・」


陽が落ちて暗くなった家の外で食事をしながらタイムズが呟いてる、魔導士の資格を持ってるから興味があるんだろう、今は夜だが外は魔導灯が光っているから明るい。


それにしても食事が美味い、腹が減っているだろうと言ってリゼお姉ちゃんが外で肉や野菜を焼いて俺たちに食わせてくれたのだ、もうリゼお姉様って呼ばせて欲しいくらいだ。


網の上で炭火を使って焼かれた肉は柔らかい、ニンニクや果物を使ったスパイシーなタレも絶品だ、それにパンと野菜のスープ、どれも美味くて俺達は夢中で貪った、ローズなんて泣きながら食ってるぞ。


「あむあむ・・・美味しい」


ローズの横ではアンジェちゃんが小さく切った肉をリゼお姉ちゃんに食わせてもらってる、腕が動かないのは本当のようだ・・・可哀想にな・・・。


美味そうに飯を食わせてもらってるアンジェちゃんに俺は一つ気がかりなことを相談した。


「おそらく明日になるだろうが・・・後続部隊が転移装置で送られて来る、助けてもらった上にこんなお願いをするのは心苦しいのだが・・・どうか後続部隊も助けてやって欲しい、あいつらは俺の大事な部下だ、転移して来たら俺達と同じように魔物に襲われるだろう、死なせたくない」


あ・・・リゼお姉ちゃんが凄い嫌そうな顔をしたぞ・・・だが助けに行ってもらわないと部下が死んでしまう。


「・・・ここは診療所じゃなくて私のお家・・・この前から何人もここに来てはっきり言って迷惑・・・これ以上増えて欲しくないの」


「リゼお姉ちゃん・・・僕からもお願い」


アンジェちゃんが助け舟を出してくれた、いい子だな・・・。


「ひそひそ」


「あの転移装置は太陽の光を魔力に変換して動いてる、変換器を装置から外したら機能が止まって向こうから転移して来ないらしいよ、外してもいい?」


アンジェちゃんが通訳してくれた。


「いや、あれはローゼリア王国の物だから止めていいかと聞かれても・・・俺には判断する権限が無い」


「・・・ひそひそ」


「面倒事に私を巻き込まないで欲しい、本来私には関係の無い事、貴方達を助けたのも私の気まぐれと・・・アンジェちゃんが助けてあげてって言ったから、ここは私が人付き合いの煩わしさから逃げる為に作った私だけのお家、本当に迷惑・・・って言ってるよ」


また通訳してくれた・・・俺達が助かったのもアンジェちゃんのおかげか・・・何か礼をしないとな・・・。


「ひそひそ」


「権限が無いなら持ってる人と相談して決めて欲しい、私は「装置を止める」か「何もしない」の2択しかする気は無い・・・って言ってる」


かきかき・・・


ぱぁっ!


リゼお姉ちゃんがメモに何か書いて魔法陣に乗せてどこかに送った・・・何してるんだ?。


「お姉ちゃん、まさか・・・呼んだの?」


こくり・・・


「あのね・・・これから何が起きても驚かないで欲しいの・・・」


アンジェちゃんが動揺してる、何が起きるんだよ。


ガチャ・・・


「やぁ、リゼちゃん呼んだかい?、ここに来るのも久しぶりだな、・・・それに美味そうな匂いがする」


家の扉が開いて誰か出てきたぞ、今度は誰だよ・・・あれ、リゼお姉ちゃんとアンジェちゃんが跪いた・・・。


「ひぃっ!」


「わぁぁぁ!」


「え・・・ぎゃぁぁぁ!」


「・・・」


俺達は食ってる肉を横に置き、慌てて臣下の礼をするために跪いた・・・何でこの御方がここに来るんだよ!。


「陛下、呼び出してすみません、少し面倒な事が起きて・・・許可を頂きたく」


リゼお姉ちゃんは陛下には普通に喋るのか・・・。


「ローゼリア統一国王陛下・・・」


隣でローズがボソッと呟いた、言わなくても見れば分かるぞ。






「ふむ・・・ドック氏から話は聞いていたが本当に実行するとは・・・ローゼリアの騎士団を私欲のために勝手に動かしたのは問題だな・・・もぐもぐ・・・」


「はい・・・昨日ここに転移して来たそうです、そのうちの1人は重傷でした・・・治療したので命に別状はありません・・・もきゅもきゅ」


「君たちはエテルナ・ローゼリア国王の命令でここに来たのだね・・・あ、この肉美味いな、リゼちゃんもう一つもらえるかな」


「はい、どうぞ」


俺達は今、エテルナ大陸とギャラン大陸における最高権力者と肩を並べて肉を食ってる、何言ってるのか分からないと思うが俺にもどうなってるのか全く分からない。


話を振られたマークが慌てて答えた。


「はい、王命で、この大陸の前線基地の調査をせよと・・・」


「そうか・・・騎士団を他の大陸に派遣する場合は私の所に連絡がある筈なのだが、そんな報告は何も無かった・・・リゼちゃん、私が許可するから転移装置止めちゃっていいよ、ダニエル部隊長・・・だったかな?、後続の部隊が来るのは明日かね?」


「はっ!、魔法騎士達による魔力の補充に3日必要との話でしたので、何事もなければ明日の昼頃になるかと」


「なら早い方がいいかな」


「・・・はい、今から行って止めて来ます」


しゅっ・・・


リゼお姉ちゃんが魔法陣に包まれて消えた・・・転移装置を止めに行ったのだろう、ドラゴンの群れが居るが大丈夫なのか?・・・だがこれで俺の部下が魔物に食われて死ぬ事は無くなった。


「ところで君達、食事の途中のようだが・・・冷めないうちに食べたらどうだい」


「は・・・はい、頂きます」


俺達はまた食事を始めたが・・・緊張で味がしない!。


「アンジェちゃん、だいぶ元気そうになったね、身体の痛みはもう無いのかな?」


「はい、リゼお姉ちゃんが毎日治療をしてくれたのでもう大丈夫です」


「そうか、よかったね」


「あの・・・陛下」


ローズが畏れ多くも陛下に質問した、好奇心が勝ったんだろう、こいつ図太い性格してるよな。


「何だい?」


「リゼお姉ちゃんと陛下は・・・その・・・」


「あぁ、まだ言ってなかったのか、リゼちゃんは人見知りだから言葉が少なくてね、でも良い子だろう」


「はい・・・」


「彼女の名前はリーゼロッテ・シェルダン、白銀の大魔導士といえば分かるかな?」


「・・・何・・・だと」


陛下の前なのに俺は思わず呟いた。






※近況ノートにイラストを掲載しています


アンジェリカ・シェルダンさん

https://kakuyomu.jp/users/hkh/news/16817330669680468377

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