第148話 Side - 184 - 25 - だにえる・じゃっくす -

Side - 184 - 25 - だにえる・じゃっくす -



俺の名前はベネット・ブライアス、39歳・・・いや40歳になった、独身だ。


今俺は王都のハンターギルドで貴族どもに依頼の報告をしている、あれから騎士団がランサー大陸へ調査に出たってエンリケスが教えてくれたからリゼに頼んで王都まで転移した。


ギルド長はたった7日で戻った俺に驚いてたが依頼主に俺が帰って来たと伝えてくれた、よほど情報が欲しかったんだろう、すぐに話がしたいと連絡があってギルドの応接室で会う事になった。


「酷い状態だとは思っていたが信じられん・・・本当なのか?」


「あぁ、全部そこに書いてある通りだ、転移装置の前にはエンペラーオーガが居て、そのオーガをドラゴンの群れが食ってやがったぞ、少し離れた森には魔狼の大群が腹減らせてうろついてる、前線基地なんて影も形も無かったぜ、俺がお前達に嘘吐いても何の得にもならねぇし、嘘がバレて報酬無しなんて事になったらタダ働きになっちまう、信じられねぇなら瞳水晶を使えよ、その代わり俺の話が本当だった場合は責任取れるんだろうな?」


「ぐっ・・・まぁいい、信じてやる、くそっ・・・もう少し早く戻って欲しかったのだがな」


「寝ぼけた事言うんじゃねぇ、たまたま崖から落ちて助かったが死にかけたし俺じゃなきゃ死んでたぞ!、誰に依頼しても俺と同じかそれ以上の時間がかかるだろうよ、逃げるのに精一杯で転移装置まで戻る余裕も無かった、でかいドラゴンの群れを一人で相手に出来る奴がいたらそいつは化け物だ、あんな場所に行かせやがって酷ぇ目に遭ったぜ!」


「あの大陸からどうやってここまで戻ったのだ?」


「近くの海を根城にしてる海賊に持ってる金を全部払って船に乗せてもらった、その金は払ってくれるのか?」


「報酬の大金貨100枚に必要経費は含まれているから追加で支払う事は出来ない、・・・今我々の方で前線基地の再調査をしている、昨日第一陣が出発したところでな、数日後に出発する第二陣に同行して現場を案内してくれ」


「ざけんじゃねぇぞ!、二度と行くかあんなとこ、命がいくつあっても足りねぇぜ、それに足を折ったからまだ痛ぇ、この状態でオーガやドラゴンと戦うのは無理だ」


「・・・では報酬は前の10倍出そう、大金貨1000枚だ、これでもう一度向こうに渡って我々の調査団を案内しろ」


「いくら金があっても死んじまったら使えねぇ!、お断りだ、白金級のハンターでも雇うんだな、あそこの魔物は金級のハンターが10人居ても無理だ、俺は言われた通り仕事を済ませたぞ、さっさと報酬寄越せ!」


「ハンターギルドとしてもランサー大陸絡みの依頼は今後受けないと伝えた筈ですよ、貴重な金級のハンターが1名まだ行方不明、金級の中でも実力のあるベネットでさえ死にかけたのです、お断りします」


横で話を聞いていたギルド長が貴族どもの要求を断ってくれた、ありがてぇ。


「・・・ほら、確認しろ」


どさっ


「おぅ、確かに受け取ったぜ、それから・・・親切心で忠告しておいてやるからよく聞け、あの大陸の魔物はやべぇ、王都周辺に時々出る奴と同じだと思うな、身体も倍近くでかいし凶暴だ、行っても死体が増えるだけだぞ」


「・・・忠告はありがたく受け取っておこう、では我々はこれで失礼する」






「・・・ふぅ、やれやれ・・・大金貨100枚貰っても割に合わねぇ依頼だった・・・ギルド長にも世話んなったな・・・ほらよ、娘さんの結婚祝いだ、取っとけ」


ギルド長に今受け取った皮袋から大金貨3枚出して渡した、迷惑料みたいなもんだ。


「あの依頼主、お前をまだ諦めてないようだ、接触して来たらギルドに連絡しろ、俺が断ってもまだうるさく言って来るようなら今度はギルド総長に出てもらう、相手は貴族だ、間違っても一人で解決しようとするな」


「あぁ、分かってる、俺が断った時あいつら不満そうな顔してたもんな」


「王都にはいつまで居るんだ、金級の依頼がいくつかあるぞ」


「一度故郷に戻って、残った契約を片付けて・・・引退するかもしれねぇな、俺も歳だし・・・命が惜しくなった・・・」


「そうか・・・、ここに戻って来たって事は幻影の件は片付いたんだろ、故郷でしばらく休むのもいいだろう」


俺は何も答えず部屋を出た。






ギルドの裏口から外に出て・・・誰も居ねぇな、俺は奴に借りてるペンダントを取り出し・・・。


「リゼ、終わったから迎えに来てくれ、ハンターギルドの裏口分かるか?・・・そこで待ってる」


ぱぁっ


「うわ眩しっ」


「来たよおじさん」


「すまねぇな、王都でうろついてると依頼主の貴族どもが俺に接触して来るかもしれねぇからな、転移でコルトまで頼む」


「うん」






ぱぁっ


「・・・何度か転移させてもらったが、やっぱりすげぇな・・・王都から一瞬で爺さんの家の裏だ」


「そうなのです、私は凄いのです、おじさんはもっと私を敬うのです!」


奴は無い胸を張って偉そうに言った。


ぱしっ!


「何するのです!、頭を叩くなんておじさん酷いのです!」


「いやすまん、つい手が出た」


「ベネ坊、戻ったのか?」


俺達の声が聞こえたんだろう、爺さんが裏口から出て来た、ここ最近毎日のようにリゼが来て治療と言って魔力を当ててマッサージをしてるからか腰の調子もだいぶ良くなったようだ。


それに俺がもらったリゼのレシピ本を見せたら爺さんの料理魂に火が着いたようで日に日に元気になってやがる、今じゃレシピ本片手に店の厨房に立って料理してる、これをくれたリゼには感謝しねぇとな。


「あぁ、王都の仕事は片付いた、しばらくは兄貴の宿に泊まって店の片付けや掃除をしようと思う」


「そうか、飯を作るから食って行け、リゼお姉ちゃんも食うだろ」


「うん、久しぶりのサリーくんの料理、楽しみ・・・」






「さすが爺さんだな、美味いぞ!、気のせいか前より美味い気がする」


「サリーくん・・・これって・・・」


「リゼお姉ちゃんには分かったようだな、あのレシピ本に「あと何か一つ足りないと思う」って書かれてただろ、他の食材や調味料見てたら思いついた」


俺達はタダーノの店のカウンターに座って爺さんが作った貝のリゾットを食ってる、店の中は長い間物置きになってたからまだ荷物で溢れてるが厨房とカウンター周りは俺が掃除して使えるようにした。


リゼは爺さんの作った料理を食って驚いてる、確かにとてつもなく美味い。


「今なら分かるの・・・アイスクリーム・・・タダーノおじさんが趣味で作ってた・・・」


「そう、正解だ、俺もあのアイスクリームは数回しか食った事が無かった、美味かったから爺さんに食いたいって言ってたが当時街の奴らに人気でな、いつも開店と同時に売り切れて滅多に食えなかった・・・俺の誕生日や、特別な日くらいだな、そうしてるうちに爺さんは身体壊して逝っちまったからな」


「隠し味はアイスクリームだったんだ・・・あの時の味だぁ・・・懐かしいな・・・ぐすっ」


「普通はリゾットにアイスクリームなんて思いつかねぇな・・・」


「うん、あれは店のメニューじゃなくて完全にタダーノおじさんの趣味で作ってたから仕入れる材料も少なくて・・・お店の仕込みも忙しそうだったから多分1日に10個くらいしか作れなかったんじゃないかなぁ・・・でも美味しかった・・・」


「だが問題がある、まだ完璧じゃない、あのアイスクリームの味が再現できないんだ、どうやって作ってたんだか・・・」


「うん、私もタダーノおじさんが生きてた時は作ってくれる料理をただ美味しいって食べてただけなの、居なくなって・・・食べたくても食べられなかったから自分で作ろうって・・・姪のキャディちゃんや旦那さんにレシピを聞いたりして研究を始めたの、でもアイスクリームの作り方は誰も分からなかった・・・、ソラミミの丘にあった牧場のミルクを使ってたって事くらいかな」


「爺さん・・・タダーノ爺さんは日記をつけるような人じゃなかったからもう分からないか・・・トシロー伯父さんは日記を書いていたらしいがどこにあるか分からなくなってる、捨てたかもしれないな」


「あのトシが日記を?」


「あぁ、トシロー伯父さんは若い頃王都で騎士団に入ってただろ、その頃から書いていたらしい」


「トシとは偶然王城で会った事があってね、その時はまだ私を男だと信じてたみたいだし薬屋のリゼルと王城を歩いてる魔法騎士団員の私が別人で双子か何かだと思ったみたいで・・・」


爺さんとリゼが昔話で話を弾ませてる間、俺は爺さんの作った貝のリゾットを食いながら・・・。


「俺にこんな美味い飯が作れるのか・・・」


料理には自信があったが・・・これは俺の知ってる料理とは別物だ、コルトの名店タダーノの名前に恥じない料理が俺にできるのか不安になった。







「ぐっ!、全員居るか?、固まって絶対に離れるな!」


「隊長ぉ!、ローズの奴がもう限界だ!、これ以上進むのは無理だ!」


「はぁ・・・はぁ・・・うぅ・・・みんなごめん、私を置いて行って」


「馬鹿な事を言うな!、畜生!、何て所だ!」


俺の名前はダニエル・ジャックス・・・王国騎士団の蒼龍部隊を率いている隊長だ。


国王陛下からの命を受けて、何十年も前に放棄されたランサー大陸にある資源採掘の前線基地を調査する為に転移して1日が過ぎた。


転移装置で一度に転移できる人数は最大6人、荷物が多くなると3人に減る・・・、主要な装備は3日後に到着する後続部隊に任せ、必要最低限の装備を持って隊の精鋭5人で転移して来た。


俺達先行部隊の目的は前線基地の確認と後続部隊の為に安全な野営場所の確保、それと周りに居る魔物の駆除だ。


先にこの地に来た2組の上位ハンターが消息を断つ程危険な場所だとは聞いていた。


だが転移してすぐ4匹の巨大なドラゴンに囲まれるとは思わなかった・・・ドラゴンと至近距離で向かい合った女性隊員のローズなんて泣きながら漏らしやがった・・・ここだけの話、俺も少し漏らしたが・・・。


副隊長の出した閃光魔法で怯んだ隙にうまく逃げる事は出来た、だが逃げ込んだ森の中も地獄だった。


襲い掛かる魔狼、立ち塞がるオーガ、木の上から降ってくる大蛇や魔猿・・・いつの間にか食料の入った装備も失い、俺達は更に森の奥に逃げている・・・。


本来なら森と反対方向に逃げるべきなのだが向こうからはドラゴンの群れや、オーガ、魔狼が俺達を追って来てる、方向など考えている余裕など無い、とにかく逃げないと死ぬ!。


俺の目の前で荒い息をして座り込んでいるのはローズ・フォア、今回の調査に派遣された唯一の女性騎士だ。


「・・・うっく・・・ひっく・・・パパぁ・・・こわいよぉ・・・助けて」


普段はこんな事を言う奴じゃ無い、どちらかと言うと凛としたクールな女性なのだが・・・あまりの恐怖に幼児化してるようだ。


「畜生!、俺、この任務が終わったら結婚するんだ・・・」


そうだよな、皆に自慢していたからな・・・独身隊員の嫉妬の視線も気にせず、自分の彼女がいかに可愛いか語り出したら止まらない我が部隊の副隊長、ターキィ・ワイルド、魔法騎士だ、・・・気のせいかこいつが真っ先に死にそうな気がするぞ。


「来たぞぉ!、来たぞぉぉぉ!」


普段は斥候の役目を果たしているマーク・メイカーズがまたこちらに向かって来る魔物を見つけたようだ、彼が居なければ俺達はとっくに食われてる、ちなみにこの間娘が生まれたらしい。


「俺がローズを運ぶ!、皆は走れ!」


泣いている小便臭いローズを小脇に抱えて走り出したのはタイムズ・アーリィ、見上げるほどの巨体に躍動する筋肉、だがこいつは魔法騎士だ。


独身だが子供好きで5人の孤児を引き取り育てている、若い頃は「鬼のタイムズ」と呼ばれて荒れていたらしいがある日出会った幼女に諭され改心したらしい。


養子達からパパと呼ばれて慕われていると副隊長のターキィが言ってたな。


「なんとかして転移装置まで戻らないと・・・このままだと後続部隊も全滅だ」

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