第146話 Side - 184 - 24 - えんりけす -

Side - 184 - 24 - えんりけす -



俺の名前はベネット・ブライアス 39歳独身だ。


今俺はとある宿場町・・・シルヴィアっていう王国北部から王都に向かうハンター達が中継地点としてよく利用してる町に来てる。


用があるのは町の表通りから何本か道を折れて先に進み、裏通りの人気のない場所にひっそりと佇む酒場兼宿屋だ。


ギィ・・・


「よう、ベネット、5日ぶりじゃねぇか、故郷に帰ったと思ってたがどうした?」


年季の入った薄暗いカウンターに居る胡散臭い男はエンリケス・オコスーナ、俺の古い友人でこの酒場兼宿屋のオーナーだ。


「コルトには帰ったんだがお前に話しておきたい事があってな、戻って来た」


「寝言は寝て言えよベネット、どうやったらここからコルトまで5日で往復出来るんだ、コルトの近くは魔導列車も通ってねぇし・・・まぁ乗合 馬車(アイヴォウ)引いてるアイヴォウ盗んで飛ばせばいけるだろうが・・・まさかお前・・・」


「盗んでねぇ!、ちょっと訳ありでな、人目の無い所で話がしたい」


「あぁ、いいぜ、どうせ客なんて滅多に来ねぇ・・・お前の後ろのガキと何か関係してんのか?・・・お前の隠し子・・・にしちゃぁ似てねぇな」


奴は表の扉に閉店の札を掛けて施錠し俺とリゼ・・・リーゼロッテを隣の部屋に連れて行った。


「さて、話って何だ、幻影についてなら高く買うぜ」


「その事だがな・・・」


俺はコルトの街でこいつに会ってからの事を全部話した・・・俺の家族との関係もだ。






「・・・なんてこった」


「お前がそんなに驚くのを見たのは久しぶりだな」


「伝説の大魔導士で・・・幻影が今俺の目の前に居るんだ、そりゃ誰でもこうなるだろうよ」


ぺこり


「それでな、この情報は他言しないで欲しい、この前の金を返せって言うのなら返すぜ」


「返さなくていい」


ゴソゴソ・・・


ゴト・・・


「今の話の情報料だ、受け取りな・・・小金貨50枚入ってる」


「おい待てよ、俺の話聞いてたか?、命の恩人を売る気は無ぇぞ」


「分かってるよ、俺はこの事は誰にも言わねぇ、墓まで持って行くぜ、それに・・・俺を信用して全部話してくれたんだろ」


「・・・それと口止めだ、お前が約束を破って情報を誰かに売ろうとしたら幻影が首を狩りに来るぞっていう脅し付きでな」


「はは、そりゃおっかねぇな・・・」


「おじさん!、私は正体を知られたからってそんなに人をホイホイ殺さないのです!」


「思ったより可愛い声だ、まぁ・・・その金は受け取れ、俺も人に売る情報の他に保険として誰にも漏らさねぇ情報を沢山集めてる、お前が思ってるより情報ってのは身を助けるし役に立つんだ、知らねぇのと知ってるのでは出せる手札も違うし・・・一歩下がった時に見える景色が違うってもんよ・・・それに・・・幻影と良い関係を築いておいて損は無いだろう」


「そんなもんか?」


「お前、今王都の貴族どもがどれだけ金を積んでも手に入れたい・・・だが手に入らないもの何か知ってるか?、国の英雄で最高戦力・・・白銀の大魔導士とのコネだ」


「・・・」


「とりわけ宰相は彼女を血眼になって探してる、前回お前がここに来てからまた新しい情報が入った、聞きたいか?」


「あぁ、頼む」


「有料だぞ」


「金はある、今お前がくれたからな」


「そうだな、5日前俺はランサー大陸の調査をハンターギルドに断られたから次は騎士団が動くんじゃねぇかって言ってただろ、あれは現実になった、王国騎士団の蒼龍部隊に招集がかかって近いうちにランサー大陸に向かうそうだ」


「蒼龍部隊?・・・そんなのあったか?、よく名前を聞くのは紅龍と白龍・・・それから緑龍だよな」


「そこから説明しないと分からんか・・・、王国騎士団には正式に6つの部隊があってそこに騎士と魔法騎士が所属している、一般的に近衛騎士団って言われてるのが紅龍だな、王城や王族を守ってるやつだ、それから魔物を討伐するのが緑龍で、盗賊をはじめとする人間相手が白龍だ」


「蒼龍が無ぇぞ」


「まぁ待て、それから黒龍は特殊部隊だ、影と呼ばれる組織を中心にして主な仕事は暗殺や情報操作・・・黄龍は外国に散らばってる諜報部隊で、蒼龍は・・・」


「何だよ」


「雑用だ」


「は?」


「騎士団で問題がある奴等が集まってる、他の騎士団の下請けみたいなもんだな、魔物が出たら緑龍に混ざって討伐するし、盗賊団が出て手が足りなければ白龍と動く、俺が知らないだけで黒龍や黄龍の仕事もやってるかもしれねぇな」


「問題のある奴等ってのはどういう事だ」


「言葉通りだな、素行が悪い不良騎士も居るし、国王派と対立する派閥出身の奴も居る、簡単に言えばできるだけ早く死んで欲しい連中の集まりだ」


「酷ぇなそれ」


「だが奴等は腕が立つからどんな修羅場に出ても生き残るし手柄も立てる、だから上も扱いに困ってるな」


「それで蒼龍が行かされる訳か、死んでも惜しくない連中、捨て駒として・・・酷ぇ、いくら強くてもランサー大陸行ったら普通に全滅するだろ」


「お前の話を聞く限りだとそうなるだろうな、今は宰相派が力を持っていて国を動かしてる、敵対してる・・・とまではいかねぇが対立してるのは王弟と王妹の派閥だな・・・確か白銀の大魔導士・・・シェルダン家の当主の弟が王妹殿下と結婚してただろ、だからシェルダンと宰相も良好な関係とは言えねぇ・・・今は宰相がシェルダンの機嫌を上手く取ってるから表立って敵対はしてないようだが・・・」


「そうなのです?」


「お前のところの家族だろ、知らないのかよ」


「うん・・・あまり政治の話はしないから・・・ちなみに私も一応だけど王国魔法騎士団員、紅龍部隊に所属してるのです」


「なん・・・だと・・・」


「俺もそれは初耳だな・・・その辺は後でゆっくり聞くとして・・・話を戻すぞ、蒼龍部隊がランサー大陸の前線基地を調査しに間もなく出発する、今頃準備してるだろうよ、だが宰相の目的は白銀の大魔導士だろうな」


「ちょっと待て、騎士団が調査に出るんなら俺の報酬は支払われるのか?、早目に王都に戻ってランサー大陸の様子を依頼主に報告しておいた方がいいか・・・」


「やめとけ、今顔を出したら下手すると案内役として連れて行かれるぞ、行くなら騎士団が出発した後にしろ」


「そうだな、騎士団の連中が全滅しても俺には関係ない事だ」


「うん、私にも関係ない事なのです」


「2人とも酷ぇな・・・まぁ俺にも関係無ぇ事だ・・・だが蒼龍が全滅したら宰相派と対立する王弟派の力が一層弱体化する、宰相にとっては都合が良い」


「・・・統一国王陛下にはエテルナ・ローゼリアがランサー大陸で何かやってるよって言ってあるの、・・・気を付けて監視するって言ってたから大丈夫じゃないかな」


「そうか・・・なら問題無ぇな、統一国王とシェルダンが動けば宰相派・・・というかエテルナ・ローゼリア王家が紙切れみてぇに吹き飛ぶだろうよ」


「・・・うん」


「それから余談だが・・・蒼龍部隊の隊長はとある上級貴族の三男だ、家とは折り合いが悪くて独立して病弱な妻と2人で暮らしてる、ランサー大陸でくたばったら嫁さん困るだろうなぁ」


「・・・」


「・・・」


「あぁ・・・それから平民出身の副隊長は来年婚約者と結婚する事になってるぜ、相手は幼馴染だ、孤児院で一緒に育った仲だとよ」


「・・・」


「・・・おい待て!」


「あとは・・・そうだ、平民のローズって女騎士は母親が早くに死んじまって父親と2人で暮らしてる、男手一つで育てた一人娘だそうだ、魔物に食われたら父親はさぞ悲しむだろうな、・・・ま、俺には関係無ぇ話だがな」


「・・・」


「・・・エンリケスもういい・・・」


「下級貴族のマークって隊員はこの間娘が産まれたらしいぜ、可愛い娘の成長が見れねぇのは気の毒なこった」


「・・・わ・・・私には関係ないのです!」


「お・・・俺もそいつらがどうなろうが・・・知った事じゃねぇし!」


「ははは、そうだな、まぁそいつらは運が無かったって事だ、危険を承知で魔物の巣に飛び込むんだからそれくらいの覚悟はできてるだろうよ、今の話は忘れてくれや」


「・・・」


「・・・」


「蒼龍部隊の話はこんな所だな、で、宰相は同時に狂乱の大賢者にも接触して協力を要請したようだ」


「え・・・博士に?」


「博士ってのは大賢者の事か?・・・まぁ、結果は大賢者を怒らせただけのようだ、何を依頼したのかは俺にも分からねぇがな、恐らく・・・前にベネットには言ったが大魔導士か大賢者を使ってどこかの国を攻め落とそうって考えてるんじゃねぇか」


「・・・聞いてみるのです・・・博士ぇ!、ちょっと話があるの、私の所に来れる?」


「・・・」


「・・・」


ペかぁ!


「うわ眩しっ!」


「何だ嬢ちゃん、急に呼び出すとは珍しいな・・・おい待て、ここはどこだ?」


「博士ぇ、ちょっと聞きたい事があるの、最近宰相に何か依頼された?」


「・・・宰相?、あぁ、あのふざけたクソ野郎の事か、嬢ちゃんの居場所を教えろって言われたぞ、もちろん教えてないがあまりにもしつこいから俺もキレちまってな、使いの奴ら全員の両腕を折ってお引き取り頂いた、次来たら殺すって脅しておいたからもう来ないだろ・・・っていうかこいつらは誰だ?・・・一人は確かランサー大陸で大怪我してた奴だな」


「あ、紹介するね、こっちは賢者のおじさんでベネット・ブライアスさん、で・・・こっちは賢者のおじさんのお友達」


「待て!、賢者のおじさんってのはやめろって言ってるだろ!」


「ほら、おじさん挨拶するのです!、博士がおじさんの怪我を治療してくれたんだよ」


「・・・自己紹介が遅れて申し訳ない、俺はベネット・ブライアス、シェルダン領を中心に活動してる金級のハンターで、こいつは俺の家族と友人だそうだ、怪我を治療してくれて感謝する、おかげで命拾いした」


「あぁ、気にするな、可愛い弟子に頼まれたから仕方なく助けただけだ」


「まさか・・・本物の・・・狂乱の大賢者か・・・」


「そういうお前は誰だ?、胡散臭い男だな」


「俺から紹介しよう、こいつは俺の友人でエンリケス・オコスーナ、情報屋だ」


「その胡散臭い情報屋と怪しげな賢者のおじさん?、それから俺の弟子が集まって何してるんだ?」


「博士ぇ!、実はね・・・」






リゼが博士とやらに今までの事を全部説明した・・・。


「そんな事になってたのか?、あのクソ野郎・・・国を潰す気か?、統一国王陛下に話しておいた方が良さそうだな・・・明日にでも俺が伝えておこう」


「うん、お願い・・・でも私を探して何をさせる気なんだろうね、国なんて攻め落とせって言われても私できないよぅ・・・」


「いや嬢ちゃんがその気になれば国なんて簡単に更地にできるだろう・・・それにしてもエンリケス・・・とか言ったな、大した情報収集能力だ、見た目は胡散臭いが凄腕だな、俺も時々利用させてもらおう」


「大賢者殿にそう言ってもらえるとは光栄だね、今後ともご贔屓に・・・」







「・・・帰ったか」


「あぁ・・・大魔導士に続いて大賢者とも会っちまった、今日はなんて日だよ畜生、寿命が縮んだぜ」


「・・・私、そんなに怖いかなぁ・・・」


「いや、お前・・・っていうか幻影は冷酷非道で恐ろしい奴だって有名だぞ、自覚ないのかよ!」


「うん、普段ほとんど人とお話ししないし・・・15歳くらいの時から化け物って言われてるのは知ってるけど・・・」


「俺もベネットが連れてるの見た時まさか白銀の大魔導士だとは思わなかったぜ、大魔導士は隻眼で左足が不自由だってのは知ってたがな」


「さて・・・面倒な事は大賢者が処理してくれるんだろ、俺らは・・・すまんリゼ、王都まで転移で送ってくれ、騎士団が出かけた頃合いを見て奴らに報酬をもらわねぇと!、あんな目に遭ってタダ働きなんて冗談じゃねぇぜ!」


「・・・騎士団の動きは俺に情報が入って来る、動いたら教えてやろうか、もちろん有料だがな、それまでうちの宿で泊まってろ」


「助かる・・・リゼもそれでいいか?」


「私は一度ランサー大陸のお家に戻るの・・・アンジェちゃんが心配だし・・・お食事も作らないとお腹空かせてるだろうから・・・転移したい時はこの魔導具で連絡して、ここに迎えに来るから」


そう言ってペンダント型の魔導具を渡された・・・これで連絡できるのか、すげぇな。


「あぁ、頼む」


「おいベネット、お前達そうやって話してると親子に見えるぞ」


「うるせぇ・・・」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る