第54話 三善結生子(大学院学生)[5]
「だとしても」
そんなことを考えてもしかたないので、話をもとに戻す。
ミルクティーを一口飲む。
「
「実在を信じていた、っていうのは、そうなんでしょうね」
先生は思わせぶりを続ける。
「実在を信じていた」と「実在した」は違う。そこを指摘したいのだろう。
これもあれだよね。バターを惜しげもなく使っているから出せる味で、おいしいのは乳脂肪分だよね。
「でも、つまりね。その騒動のときから実在を信じていたのか、それとも、騒動のあとになって信じられるようになったかよねぇ……」
なよっとして「よねぇ
そう。
そこに話は戻って来て、そこから先に進まなくなってしまう。
騒動のときから実在したと信じられていれば実在した可能性が高い。あとになって信じられるようになったとすると、その可能性が低くなる。
でも、それは可能性であって、騒動のときから実在したと信じられていても、騒動のときに実在したかどうかはわからない。江戸時代のお姫様のことだから、庶民には会う機会もほとんどないだろう。庶民が「お城にはこういうお姫様がいるはずだ」と信じていただけかも知れない。
実際にいた人物が信仰に取り込まれたのか。
それとも信仰のなかで生まれた架空の人物の人物像が広がり、その信仰の外側にいた人たちにまで実在の人物だと思われるようになったのか。
それを証拠立てる何かがないかぎり、ここから先に進めないのだ。
お姫様を神様扱いする信仰を始めたのは、
しかし、そのなかで、お姫様をお祭りするための組織まで持っているのは山から海辺に帰った人たちの子孫の集団だけだ。
この「姫方」グループの人たちがその信仰を始めたと考えるのがいちばん自然だと思う。
なぜ、そんな信仰が始まったか。
相良讃州易矩が自害した後、騒動の収拾にあたった
海辺には
従容は、山地に移されていた住民の税を安くして開拓地を高く買い上げたり、町で商売をやるならそれを援助するなどという支援策を打ち出して妥協策を図った。でも、効果は上がらず、けっきょく、山地に移されていた住民たちはなしくずしに出身地の村に戻ってきた。
藩が許可したのかどうかは、はっきりしない。少なくともはっきりと帰還を許すと記した「一次史料」は発見されていない。
「その、実在したかどうかは別として、どうして、その人たちが自分たちだけの守り神様が必要だと考えたかです。つまり、このあたりで広く信仰されている
「うん」
人にずっと考えさせておいて、反応はそれだけ?
まあいいけど。
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