第12話 最強魔王様は病を許さない


ピッ ピッ ピッ


 ある部屋のベッドの上に、医療器具が取りつけられた男の子がいた。

 その医療器具を取りつけられている男の子には意識はなく、ただ静かに眠り続けている。

 そんな男の子の傍には母親と父親がいた。

 手を握り、早く良くなってくれ、早く目を覚ましてくれと切に願うように。


 ここに眠っている子は五年前交通事故で運悪く頭に障害を負い、植物状態になった子だ。

 身体の傷はすっかり癒えているが、目を覚ますことはない。


「そろそろ面会終了のお時間です」


 病室に入ってきた看護婦が、どこか申し訳なさそうに声をかける。

 事務的にではなく本当に申し訳なさそうに声をかける彼女は、とても優しい看護婦の方なのだろう。


「はい、今出ます・・あっ」


 息子の手を握りながら立ち上がった母親は、軽い貧血を起こしふらりと倒れそうになる。

 そんな母親を父親がすかさず抱き留めた。


「・・だから今日は休めと言っただろ」


 ぶっきらぼうな言葉だが、母親を気遣っていることは間違いないだろう。


「私は大丈夫よ。それよりやっと休みが取れたのですもの、この子の傍に少しでもいてあげたいわ」


 名残惜しそうな視線を我が子に向けながらも、おでこに優しくキスをする。

 どうか目を覚ましてくださいと願って。


「すみません。もう・・・」


「ああ、はい、今出ます」


「すみません。お時間を取らせてしまって」


 ペコリと二人は素直に頭を下げる。


 この看護婦の方は、本当に時間がギリギリになるまで呼びには来ない。

 少しでも我が子と一緒にいさせてあげたい一心で、己の仕事が遅れることも構わずに見逃しているのだ。


 そんな彼女の優しさを知っているおかげか、母親も父親も、もう少しいさせてくれと我儘を口にする事はなく、病室を出て行こうとした。


「クハハハハハハハハッ! 我! 惨状(参上)!!」


 まあそれはさておきだ。

 そう言う湿っぽいのとか、空気とか全く読まない最強魔王様が現れた。


「な、なんですかあなたは!!」


「ぬ? なんですかだと・・・・ふむ・・・・・・・」


 突然最強魔王様は分身し、最強魔王様が二人になる。

 そしてなぜか右の最強魔王様は真っ赤なロングのかつらを、左の最強魔王様は青いショートのかつらを被っていた。


「なんだかんだと聞かれたら」


「答えてあげるが世の情け」


 アレだな。最近最強魔王様はキッズアニメに夢中のようだ。

 それも初代を一羽から見直しているのだろう。


「勇者召喚を壊す為」


「我の命を魔盛る(まもる)ため」


「悪と真実が愛を貫く」


「ラブリ~チャ~ムなヤバイ奴」


「最強~!」


「魔王~!」


「マジで銀河をかける魔王に「ここは病室です! 静かにしてください!」・・・そ、そんな怒らんでも良いではないか。我は魔王じゃぞ。最強魔王じゃぞ」


 お気に入りのロケットダッシュ団の登場シーンを、最強魔王様なりにリメイクし、お披露目してやったと言うのに、受け入れられてもらえなかった。

 それが少し傷付いたのか、ぼそぼそと文句を言いながらかつらを取り、元の一人の最強魔王様に戻る。


「・・・まったく、せっかくの見せ場を奪いおって。我は魔王ぞ。最強魔王であるぞ。にもかかわらず怒るとかマジであり得ぬ。最強魔王への敬意と言うのが足らぬぞ。脆弱な人間共め」


 僕の考えた最高にカッコイイ登場シーンをバカにされて落ち込む子供のように、それでいてまともに文句を言えない根暗のように、ブチブチ文句を言い続けた。

 器の小さい最強魔王様である。


「もうよい。さっさと終わらせて帰るとしよう。次は二足歩行の火蜥蜴が、翼の生えた暴れん坊ドラゴンになる話だったからな。さっさと続きを身に行かねば」


 リアタイで見れないのは残念であるが、などと思いながら最強魔王様は静かに寝入る男の子の元へと向かった。

 当然、見ず知らずの変な格好をした最強魔王様が我が子に近づくことを、親も看護婦も許すわけがなく邪魔をする。


 だが所詮は脆弱な人間。

 最強魔王様の前では何もできずに、椅子の上に無理やり座らされた。

 立ち上がろうとするたびに、何かに頭や肩を押さえつけてくるので、何度も椅子に座らされ続ける。


「さあ、目覚めるのだ。魔の声に魅入られ目覚めるのだ!」


 ベシンと叩く最強魔王様。

 子供だろうが老人だろうが容赦なく頭を叩ける男。

 それが最強魔王様である。


 別に叩く必要など無いのだが、ちょっとだけさっきの憂さ晴らしただけだ。


「息子に何して「んんんん~ん」へあ!?」


「う、うそ」


 治療をすませると、男の子が唸りながら身をよじり、起き出した。

 コシコシと目を擦りながら。


「うむ。脆弱な脳の治療や回復といった魔法は苦手であったが、今回はうまく言ったようだ。 やはり数をこなすのが大事であるのだな」


 今まで努力した賜物のおかげであるな。

 色々な人間共の脳みそをこねくり回し、記憶の改ざんやらなんやらを練習してきたおかげで、脆弱な者を治療できるようになった。

 流石我である!


「あれ? ここどこ?・・・なにこれ。変なのついてる」


 点滴や心音やらをはかる機械が、身体についていることに不快感を感じたのか、男の子はパタパタと手を動かしたり、身体についている機械を外す。

 そうして元気に起き出す我が子の姿に、両親は必至に手を伸ばし立ち上がろうとするが、やはり何かに抑えつけられ立ち上がることができず、何度も何度も無理やり椅子に座らされるのであった。


「さて、一応確認するである。他にバカになっている部分はないか?」


「う? おじさん誰?」


「ぬ? 今誰と言ったか・・・・・・ふっふっふっ」


 また見せ場到来だ! と思い最強魔王様は鼻息荒く、再度二人に分身する。


「なん「せなーー! せなぁぁぁっ!」だかん「あ、ママとパパだ!」だと聞「せなぁぁぁぁっ!!」かれた「そんなこんな事って!? 先生! せんせぇぇぇっ! 来て下さ~~~~い!!」・・・・・・・・・・・・・帰るべ」


 だが、結局最強魔王様より大声で叫ぶ両親に邪魔されてしまい、やる気を失った最強魔王様はそのまま帰る事にした。

 勿論


「ふんっ!」


「「「あばばばばばばっ!?」」」


 最強魔王様についての記憶があると困るので、脳を弄り記憶を書き換えたのは言うまでもない。

 ついでに言うと色々見せ場を邪魔されて不機嫌な最強魔王様は腹いせに、いつもより痛みを覚えさせる方法で記憶改ざんをしたのは言うまでもないだろう。



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