第13話 兄に迫られるのを夢見る系妹
「お兄ちゃん!」
「のわっ!」
放課後。何か飲み物を飲もうとキッチンに向かうと、突然妹の夏美に後ろから抱きつかれた。
押し付けられた双丘から感じる柔らかさと布越しの人肌の温度。きゅっと抱きしめてくる夏美の腕を前に、俺はされるがままになっていた。
いや、リビングではさすがにまずいだろ。
そう思って急いでリビングに目を向けてみると、ちょうどお母さんは買い物に行ったところで、リビングには俺と夏美しかいなかった。
よかった。そう思いながら、俺は少しだけ安堵のため息を吐いた。
いや、初めに妹に後ろから抱きつかれている状況をどうにかすべきだろ。
「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんっ」
「分かった、分かったからもう終わりな。離しなさい」
「んー、もう少し。すんすんっ」
「~~っ、離れなさいって」
俺の背中に頬ずりし始めた夏美を引き離して、俺はなんとか自制心を保つことに成功した。
夏美なりの荒療治。俺の部屋に入るだけでお股が濡れてしまう俺の妹は、部屋に入る以上のことに慣れてしまえば、部屋に入ってもお股が濡れることはなくなる。そう考えたのだった。
そんな考えの元、俺の妹は親がいないところで俺に抱きついてくるようになった。全ては、兄妹として普通に会話ができるようになるために。
そう、現時点では俺達は普通に会話をすることができないのだ。
お股を濡らしながら話す妹は、一般的ではないだろう。
え? 何を言っているのかって?
この妹、俺と同じ空間にいるだけでお股を濡らすんですよ。いや、本当なんです。
「それで、俺に抱きつくことで効果はありそうか?」
「うん、すっごい満たされる」
夏美はうっとりとした顔で嬉しそうに笑顔を向けてきた。ただ兄に抱きつくだけでこんな顔をする妹は、夏美以外にいなんじゃないだろうか。
そして、聞いたことに対する返答は返ってこなかった。
「……いや、そうじゃなくて、濡れ具合のほうだ」
「え、お兄ちゃんが急に私のお股の塗れ具合を確認してきた。お、襲われちゃうのかな? しかも、り、リビングで? どうしよう、想像しただけでお股がぐちゅぐちゅにーー」
「襲わないから安心しろ、そして期待するような目を向けるな。……なんで露骨にがっかりしてんだよ」
夏美は一人で忙しく表情をころころと変えていた。なんで兄に襲われないと分かるなり、片頬を膨らませているのか分からない。いや、分かりたくない。
「そもそも、これは夏美のお股が濡れないように耐性を付けるのが目的だっただろ?」
「耐性? ……あ、そうだった」
「まさか、忘れてたんじゃないよな?」
凄い妙案みたいにこの作戦を言って来たから、結構自身のある作戦なのだと思っていたが、本人はそんなことを忘れていたような様子。
そうなると、今まで俺に抱きついてきていた意味合いも変わってくるぞ?
「まさかとは思うが、俺に抱きつきたいから目的をでっちあげたんじゃないよな?」
「ち、違うよ! それなら普通に抱きしめてっていうもん、私!」
「兄にそれをお願いする妹は普通じゃないからな?」
なぜ正論でも言うかのような顔で言い張れるのか。この妹、こういうことが結構あるから心配である。
「それに、しっかりと効果も出てきてるよ! ほら、初めた頃は垂れてきちゃってたけど、今はーーあ、垂れてきちゃってるね」
夏美は成果を見せよとしたのか、制服のスカートを下着が見えない位置までたくし上げて俺に見せてきた。
健康的で程よく引き締まった脚。スカートをたくし上げることで、見せてはいけない部分を見せられているようで、思わずドキリとしてしまいそうになった。
そして、その脚からは粘度のある液体がつうっと垂れてきていた。その垂れてきた液体を隠そうとしたのか、微かに内側にきゅっとしまった脚の動きが艶めかしく、魅入ってしまっていた。
どうしよう、ほらとか言うから結構ガッツリ見ちゃってるよ、俺。
「お兄ちゃん?」
「え、ああ、どうした?」
俺は冷静を装おうとしたが、上ずった声で何を言った所で夏美を誤魔化せるはずもなく、何かを悟った夏美は静かに笑みを浮かべて言葉を続けた。
「……えっと、舐めたいの?」
「断じて違うから!」
そして、こんなやり取りを続けていれば、当然疲弊していくというもの。
何がって、俺のメンタルがですよ。
このままだと、俺の自制心がもつ気がしない。そう考えた俺は、ある作戦を取ることにしたのだった。
「おにーちゃん」
「うおっと」
とある放課後。俺が家に帰宅して通学鞄を部屋に置きに来ると、待ち構えていたかのように夏美が俺の部屋にやって来て後ろから抱きついてきた。
よしっ、かかった。
今さらながらこんな風に妹に抱きつかれるような兄妹関係は普通ではない。俺達が目指すべき関係は普通の兄妹の関係。それならば、この抱きついてくる行動は阻止しなければならないのだ。
例え、俺が多少悪人になってでも。
「夏美、」
「んー、なーにお兄ちゃん? え、お兄ちゃん?」
俺は夏美の腕を少し強引に振りほどくと、そのまま夏美をベッドの方に押し倒した。何が起きたのか分からないような夏美の顔をそのままに、俺は夏美の上に覆いかぶさった。
押し倒した勢いもあってか、夏美の甘いような香りが一気にベッドに広がった気がした。
いつも見ていたはずの夏美の顔。それが目の前にある今はいつもよりも大人びて見えた。子供だと勝手に決めつけていたはずなのに、見つめ返してくる瞳は女の子のそれだった。
ダメだダメだ、切り替えろ。こんな所でひよってたまるかよ。
「いいか、男に簡単に抱きつくと、こんな事をされるかもしれないんだぞ?」
そうだ、夏美は俺のことを甘く見ている所がある。どうせ兄妹だから、手を出してこないと高をくくっているのだ。だから、少しだけでもその男の部分を見せてやれば、夏美も俺を意識して距離を取るはずーー。
ん? いや、意識させてはいけないんじゃないのか? ていうか、それ以前にこの妹は俺のことを性的に見ていると告白してくるほどでーー。
「お兄ちゃん……いいよ」
「え?」
夏美は熱を帯びた潤った瞳をこちらに向けていた。恥ずかしそうに赤く染めた頬。覚悟を決めたようなきゅっと閉じられた唇。
夏美は全てを受け入れたような目をこちらに向けると、それからゆっくりと目を閉じた。心の準備を完了させたような唇の先は、微かに震えているようだった。
まるで初めてを捧げる少女のようで、そんな緊張感が伝わってくる。
あれだ。絶対に兄に向けたらいけない顔をしている。
「いや、よくないだろ!」
「あれ? ……お兄ちゃんが抑えきれなくなった欲望を妹にぶつけてこない。あれ、なんで?」
「ぶつけるわけないだろ! 夏美が無防備すぎるから少しからかっただけだっての!」
「からかったって言うわりには、凄い慌ててない?」
「気のせいだ、気のせい!」
俺は覆いかぶさった状態から逃げるように立ち上がって、夏美から視線を外した。そこまでしてようやく夏美も諦めたのか、小さく息を吐く音が後ろで聞こえてきた。
「むー。私ってそんなに魅力ないかな?」
そんな夏美の声に反応するように振り向くと、夏美が胸の所に手を当ててぶすっとしていた。俺とぱちりと目が合うと、微かに胸の所に置いてある手を動かしたようだった。
ただ妹の胸が少し揺れただけ。微かに揉んだようにして沈んだ夏美の手を見せられて、そんな何でもない動きに俺は反応してしまっていた。
「あ、顔赤くなった」
「な、なってないが!」
「……逆に、いつか襲ってあげようか?」
「なっ?!」
「えへへっ、逆に襲ってくれてもいいからね!」
夏美はそう言うと、赤くなった顔で無邪気な笑顔を見せてきた。
火照ったような夏美の顔を見せられて、今さらながら自分がした行動がいき過ぎていたことに気がついた。しかし、そんなことを表情に出すとこちらを見つめている夏美に悟られそうで、必死に冷静を装った。
そんな俺の表情をも読み取ろうとする夏美の瞳を前に、俺は静かに視線を逸らすことしかできないでいた。
「べ、ベッドがびちゃびちゃなのは、お兄ちゃんが悪いんだからね」
「……分かったよ」
「ふふっ。……お預けかぁ」
「そんなんじゃないからな、本当だぞ?」
兄に迫られてお股をぐちゅぐちゅにして、ベッドのシーツまで濡らしてしまう妹。そして、俺に襲われることを期待しているような妹。そんな妹を前にしても、俺は何も思わなかった。
当たり前だ、俺はお兄ちゃんだからな。
迫られて全てを受け入れるかのように目を閉じる妹を前にしても、何も思わないのだ。
……思ってはならないだろ。お兄ちゃんだからな。
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