■ 139 ■ 未来へ向けて Ⅰ
そうしてフレインから話を聞いたわけだけど、
「……とんでもないことになっていたのね」
アイズと顔を見合わせて思わず唸ってしまう。
マジか、この国にもあったのかよ王国魔法陣。ってか白竜べらべら喋りすぎ! プレシアの注目度が嫌でも上がっちゃうじゃん!
「それ、リトリーにも情報流れてるのよね?」
「は、間諜がいた場合はこれの対処を優先、とのことでしたので。国内よりは国外の間諜を優先すべきと判断しました」
あーうん。それな。私が出立前にフレインにお願いしたのはさほど多くないし。ってかモン・サン・ブランに魔族がいるなんて思ってもいなかったし!
だからフレインへの指示も大雑把で、「最優先は全員の生存、もし敵や間諜がいたらその処分がその次、竜の血は最後でいいわ」
という優先順位をつけておいたわけで、オウランの間諜と魔王国の間諜ならフレインも魔王国の間諜の処分を優先するし、そうするべきではあろう。
つまりフレインは忠実に私の命令に従ったわけだけど……白竜喋りすぎぃ! これじゃプレシアが聖女だってバレちゃうじゃん!
ま、拙いぞ。ルイセントが知らなかったとはいえ王家の記録には真なる王と聖剣の勇者の記録は残っているはずだ。完全に失伝していたら逆に笑うわ。
ということはルイセントやヴィンセントが調べれば、プレシアはアルヴィオス初代王と同等の資質持ちだって分かってしまうわけで。
「もしや私は判断を誤ったでしょうか」
フレインが心配そうに尋ねてくるが、んなワケがあるか。
まさか白竜がプレシアを聖女認定するなんて予想外だったし、プレシアが聖女であることとその重要性をフレインに伝えていなかったのは私の責任だ。
「馬鹿を言いなさい。貴方はキチンと役目を果たしてくれたわ」
間諜対策優先にしたって、どう考えても国外の間諜を処分する方が国内間諜の処分より先だ。フレインは何も間違っちゃいない。
というかよくリスがリトリーの間諜だって分かったわね。私そんなことフレインに言われるまで想像すらしなかったわよ。マジでコイツどういう性能してんだ? 並の人間にできる範囲を易々と超えてるよ。
「よく全員を生還させてくれました。ありがとう、フレイン」
「ありがたきお言葉にございます」
さておき、白竜がべらべら喋ってくれたお陰で私としても発言を注意しないと皆に怪しまれるわね。
そもそもプレシア自身からすら「何故自分をここまで助けてくれるのか」って何度も尋ねられてるし。シーラや成長したお姉様なら私がプレシアについて何か知っていたのではと考えてもおかしくはない。
王子であるルイセントすら知らない真なる王についてどうして私が知っているのか、いやはや怪しさ満点だわ。
「プレシア様はつまりディアブロスにおける魔王に相当する存在、ということでしょうか、姉さん」
そしてディアブロス王国の仕組みを学んだアイズもその知識からプレシアの正体に迫ることができて――まあ、これは身内には周知しておいていい範囲だろう。
「その仮説がもっともしっくりくるわね。フレイン、これは私たちがディアブロス王国で知ったことだけど――」
そうして王国魔法陣と魔王の仕組みを説明すると、フレインもまた重々しい顔で頷いた。
「成程、国土全体に広がる魔法陣と、その魔法陣が若者から無作為に選定する強力な神のご加護持ちですか」
「ええ。ディアブロスは未だにその加護持ちを魔王と崇めているわ。つまり真なる王が統治する社会を維持しているってことだと思う」
ううむ。一応フレインは股肱だから一足先に摺り合わせを、と思ったけどここまで話が広がってるならもう同じね。
「フレイン、このままだと二度手間になるし、ここにミスティ陣営を呼んでしまいましょう。お願いしていい?」
「畏まりました」
そうしてフレインとクラムにミスティ陣営(国家騎士を除く)を集めて貰い、さすがに
流石にこの面々にダートを容れて国家騎士を省くのは忠誠心やら体面やらでNGになるので、ダートにはあとで個人的に説明するつもりだ。あいつももうミスティ陣営(ということにした)だからね。逃がしはせんよ。
なおルイセントはもう白竜の前で王子であると名乗ってるそうなので今更隠す必要もないね。当然呼びつけるよ。
そんなわけでミスティ陣営を集め、リトリー操る小動物が居ないのを確認した上で私たちが得た情報として、
・魔王国の立地と闘士制度
・四人種による元老院政治
・王国魔法陣と魔王の関係
・魔王不在によるディアブロス王国の焦りと食糧不足、人口拡大限界
・それによる此度の北方侯爵家襲撃
を開示すると、一部には断片的な情報が繋がった喜びも散見されるものの、総体としての空気はやはり重めである。
まぁな。どう考えたって学生の一派閥だけが知っている情報としてはあまりにも重大すぎるからね。
「……情報過多で頭が追いつかないけど、アーチェからの情報と摺り合わせることで私にも色々見えてきたわ。魔王国はまだ真なる王による統治を続けているということなのね」
頭を抑えながらそう言うお姉様に然りと頷いてみせる。
「ええ。ディアブロス王国の存続には火山活動を抑える魔王の存在が不可欠ですから。あの国としては真なる王を蔑ろにはできなかったんでしょう」
「覚悟はしていたけど……自分たちが形式だけの王家だと改めて示されるのは心苦しいな」
ルイセントが苦虫を噛み締めたような顔でそう漏らすけど、そうかぁ?
「そう自虐する必要はないと思いますよ? 殿下」
「何故だい? アンティマスク伯爵令嬢」
ルイセントが軽い気休めは御免だ、みたいな浮かない顔をしているけど馬鹿め、私がそんな優しい事言う女に見えるか?
「だってアルヴィオスは神の力に因らずして国を維持することに成功したんですから。神頼みじゃなきゃ国を維持できないよりよほど優れているじゃないですか」
そう告げると何故か皆が目を見開いてしまうものの、
「あぁーアーチェ様は神様頼りの生き方大嫌いですもんね」
プレシアだけは納得したようにうんうんと頷いている。
「当然よ、私たちは神の奴隷でも玩具でもないわ。私はアルヴィオス王国の現在の在り方を誇らしく思う。農作物を改良し、土壌を改良し、聖属性の賦活に頼らなくともアルヴィオスは人が自給自足で生きていける国を作り上げた。これ程誇らしい話などないでしょう?」
「そう……いう考え方も、ある……のか」
ルイセントが目を瞬くけど、当たり前だ。
「神の力を借りられるから神聖な国だ。神に見捨てられたから卑賤な国だ。そんな考え方は所詮『他者の強大な権威がなければ自らを肯定することもできない』、言わば力の奴隷に過ぎません。アルヴィオスは神の奴隷であることを止め、人の世を切り開いたのです」
実際に神による奇跡が存在するから仕方ないっちゃ仕方ないけど、この国の人間は神様をありがたがりすぎるんだよ。
「誇って下さいルイセント殿下、御身はお姉様が闇属性だからお姉様を伴侶に選んだのですか? 御身がお姉様に愛されているのは自分が王子だから、とお考えで?」
そう問い詰めるとハッとしたルイセントが一度私を見、お姉様を見、
「そうか、これらは同じことなんだね。私はご加護に関係なくミスティとともに歩みたいと思った。それを誇れるなら――栄えた国を維持できている限りは、形式の王であることをまた恥じる必要もないと」
救われたような表情でホッと吐息を零す。
「左様にございます。人の生き方が神のご加護によって左右されてよいはずがないのです。これはヴィンセント殿下も同じでしょう? ウィンティ様が風神だからヴィンセント殿下は彼女を選んだわけではないでしょうに」
私も、シーラも、お姉様も外れ加護だ。そしてそれはいわゆるザマァ系と違って、実はハズレが素晴らしい能力だったという逆転を成し得ない。外れ属性は私たちの完全な瑕疵、弱点にして欠点だ。
だがそれが本当に致命的な問題なら、私たちは今貴族人生を送れていない。だけど私たちは未だ貴族としてこの国に在れている。
私たちが外れのまま貴族をやれている。それこそがアルヴィオス王国の立派な長所なのだ。
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