第23話 俺もクラスメイトに続いて廊下へ。期末試験の結果を確認する。
手越さんが病院へ行ったその翌日。俺と朱音が並んで登校するその道すがら。
「朱音ちゃん。おはよー」
「あ! 手越先輩。おはようございます」
校門に立つのはテニス部の手越さん。どうやらわざわざ朱音を待っていたようで。
「あのね! 昨日、薬師寺先生に病院へ連れて行ってもらったんだけど、私の足。何ともなかったんだ!」
「え?! そうなんですか! 良かったですね!」
「うん! でも薬師寺先生。絶対におかしいって。先生の見立てでは絶対に捻挫で全治三ケ月だったのにって車の中でぶつぶつ言ってちょっと怖かったよ……もう失礼だよね」
というわけでやはり俺の癒し魔法。ここ現代日本でも、魔力を持たない現代人を相手にも効果は
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夏休みも目前に迫るある日の昼休み。
「おーい。期末試験の結果が廊下に張り出されたぜ」
「マジかよ。今時プライバシーとかないの? この学校」
「学生のうちから競争に慣れさせるって方針らしいぜ」
俺もクラスメイトに続いて廊下へ。期末試験の結果を確認する。
「それで1年生の成績1位は誰だ?」
「
「あー。あいつ頭良いよな。なんかこっちの心を読む感じ?」
「あれはもう頭が良いっつーより怖いけどな」
東堂さん。勉強が出来るとは思っていたが、まさか1位とは……
「それで2位は誰や?」
「
「マジかよ? あいつ頭良かったんか?」
「2留野郎と馬鹿にしてたけど、考えをあらためなアカンな」
頭が良いのも当然。異世界で2年を過ごした結果、LVアップにより俺のステータスは、知能指数は上昇。1位も狙えると思っていたのだから俺としては不本意な成績となる。それでも世間一般の俺への評価。大幅に向上したのではないだろうか?
「せやけどあいつ2歳も年上やろ? よく考えたら卑怯やない?」
「高校3年生が1年生のテストを受けてイキってるようなもんか」
「それやったら俺でも2位を取れるわ。なんや感心して損したわ」
マジかよ……だが、言われてみれば確かにそのとおり。2位という結果ではまだイキれない。まだまだ慎ましく生きていくしかないのであった。
「いやいや先輩凄いっすよ! 高校3年生が1年生のテスト受けたからって、普通は2位なんて無理っすから!」
そう言って俺をおだてるのはクラスメイトの松田さん。そう言う松田さんの順位はどこだろうと探す俺の目線を察してか。
「ボクは68位っす」
1年生は200人。平均よりも上というわけで、なかなか良い順位である。
「ふふんっす。一般大衆を導く役目にあるのがマスコミっすよ? この位は勉強できないと務まらないっす」
ちなみに朱音は123位。まあドンマイといった順位である。
そんな順位表を見つめる俺たちの近くで、悲壮感もたっぷり落ち込む生徒が3人。
「マジー? うちらの順位低すぎ」
「これって……うちらヤバくね?」
「補習で夏休みがピンチって感じ?」
予想どおりというか何というか、頭を抱えるのは同じクラスのギャル3人組。成績下位の者には追試があり、そこで良い点数を取れなければ夏休みの間、みっちり補習があるという。
「そこに見えるは学年2位の平良っち!」
「愚かなうちらを助けると思って」
「うちらに勉強を教えてくれー!」
俺を目掛けてタックル。しがみつくギャル3人組。俺を逃がさないというのだろうが、その身体は柔らかい。となれば、やれやれではあるが手助けするしかないのであった。
授業の終わる放課後。ガラリ。ドアを開けてリラク部の部室にやって来た俺であるが。
「遅いですね……それで後ろの3人はどなたです?」
「うえーい。うちら平良っちのクラスメイトだぜー」
「ってかマジー? 氷姫が居るじゃーん?」
「成績1位と2位から勉強教わるってヤバすぎっしょ?」
先に来ていた東堂さん。俺に続いて部室に入るギャル3人組を見つめる。
「……なるほど。ギャルの色香に負けて勉強を教えるというわけですか」
俺が何も言わずとも察してくれるのは楽で良いが。
「クラスメイトが困っているなら助けるのは当然というものだ」
俺が勉強を教えるのとギャルの色香。何の関係もないのだから、あらぬ勘違いは止めていただきたい。
「つーか!」
「この部屋、クーラー効いてんじゃーん!」
「マジー? 教室より涼しいってこれー!」
何せ顧問が理事長先生なのだから部費は潤沢。クーラーをガンガンに効かせるなど朝飯前というわけで。
「俄然やる気でてきたっしょ」
「うちら頑張るぜーい」
「目指せ一等賞って感じー?」
ギャル3人組が取り出すテストの答案。俺がそれぞれの間違いについて解説するその傍ら、自分は無関係とばかりスマホをいじる東堂さん。
「……何ですか?」
まあ実際に無関係といえば無関係であるわけだが……教える先生が2人になれば効率もアップするというわけで。
「いや。暇なら学年1位の実力。少し活用してはどうかと思ったわけだが……」
「いえ。見てのとおり暇ではありませんので」
まあスマホをいじるのも大切。仕方がないといえば仕方がないわけだが……
「そもそもですね。そんな試験勉強に何の意味があるのです?」
あろうことか東堂さん。追試に備えて必死にテスト問題を暗記するギャルたちの姿を見て言った。
「例えばこの問題。平安京へ都を移したのは何年か? スマホで調べれば良いですよね?」
まあ、言わんとすることは分からないでもないが……
古来より試験勉強とはそういうものであり、鳴くよウグイス平安京。暗記することもまた勉強であるからして無駄なことにグチグチ言って余計な脳みそを使うより大人しく暗記するのが一番手っ取り早いというわけで……
「まるで無駄な努力。私はいっさい暗記していません」
いや。そのようなことを自慢されても困るというか、そんなへそ曲がりだから氷姫などという厨二感満載のあだ名で呼ばれるわけで……
そもそもが期末試験の成績1位。誰よりも暗記問題に正答したのが東堂さん。鳴くよウグイス平安京すら知らぬ身で、いったいどうやって1位を取ったのか? まさか……
「まさかも何もそういう能力ですから。能力は使わないと意味がありませんよね?」
クラス40人。PSYアナライズで思考を読み取るなら、暗記など必要ないというわけで……おのれ。どおりで俺が2位となるわけだ。
これではまるでカンニング。そのように卑怯で卑劣な手法での1位、当方は許可しない! ……と言いたいところであるが、卑怯だろうが卑劣だろうが結果が全てとなるのが実社会。
無論、カンニングなどといった卑怯な方法が判明してはただの犯罪者。周囲から袋叩きの末に刑務所行きとなるが、判明しないならそれは犯罪ではないというわけで……
さすがは議員の娘としか言いようのない東堂さん。
「お兄さんが議員にどういうイメージを持っているかは分かりました。それで? 何か言いたいことでもあります?」
「いや。何も」
俺自身が癒し魔法というチートパワーでお金を稼ごうと考えるのだから、同じ穴のムジナ。真面目に医者やセラピストを目指して勉強する者から見るなら卑怯極まりない存在が俺なのだから、何も言う資格はない。
だが、それだけに──
「えーと。いい国作ろう鎌倉幕府。だっけ?」
「えー? それって昭和の参考書じゃね?」
「今は、いい箱作ろう鎌倉幕府だぜー」
などと愚直に暗記を頑張るギャル3人組の姿が、尊く美しく見えるもの。
実社会に出れば鎌倉幕府を暗記するなど何の意味もなくなるかもしれないが……頑張って勉強したと。努力したという事実は確かに残り、その積み重ねこそが自分の成長へとつながる糧となる。
チート魔法を有する俺の失った純粋な輝きが努力であり、俺がギャル3人組の勉強を手伝うのもそれが理由。結果が全ての実社会とは異なり、努力が認められるのが学生時代なのだから。
「そうですね。女子高生が薄着の夏服で勉強する姿。尊く美しいですからね」
あくまで俺は駄目なスポーツチームを応援するような、その成長を見守るようなそんな気分。決して鼻の下を伸ばしているわけでも下心でもないのだから、そんな俺の心の奥深く。読み取るものではない。
「それでお兄さんの応援する3人。すでに駄目そうですが……?」
そう言う東堂さんが指さす先。
「ぷはー。うちらむっちゃ勉強したんちゃう?」
「鎌倉幕府も覚えたしもう追試も楽勝っしょ?」
「だべだべ。休憩すっべー」
言ったが早いか3人は鏡を取り出しメイクをパタパタ。ジュースをゴクゴク飲み干し、スマホを取り出しカチャカチャ。クーラーの冷気の下、ダラダラだらけるギャル3人の姿。
うーむ。まだ勉強を開始して20分だというのに……
「彼女たちが成績下位なのには理由があるということです」
同じ試験を受けて入学したのだからギャル3人の頭が特別に悪いはずはない。どうにも集中力が続かないのがギャル3人の弱点で、それが試験結果に表れたというわけだ。
つまりは高校入学時にあったはずのやる気と集中力をギャル3人が取り戻したなら、俺が勉強を教えるまでもない。追試だろうが何だろうがどうにでもなるというわけで……
俺は鞄をゴソゴソ。リラク部の活動開始にともない、部費を使い購入した機器を取り出した。
「何ですかそれは?」
「アロマディフューザーだ」
自宅でアロマセラピーを楽しむための機器であり、今回、俺が購入したのは水とアロマオイルを超音波でミストとして噴霧するタイプ。
「つまりは48のリラクゼーションの1つ。アロマセラピーでギャル3人組の勉強を手助けする」
植物の香りを使って精神や肉体を健康にするアロマセラピー。使うアロマオイルの種類によって、リラックス効果。免疫強化。食欲増進。睡眠の質向上。美肌効果。などなど。様々な効能が期待できるという。
「聞いたことがありますね。それでどのようなアロアオイルを使うのですか?」
それは当然。
「俺特性。癒しのヒーリングオイルだ」
俺はアロマディフューザーを手に部室を出ると近くの水道へ。蛇口をひねりタンクに水を注ぎ入れる。その後、水にアロマオイルを数滴垂らすのが本来なのだが……
「癒せ。神の奇跡。メジャーヒーリング」
俺はアロマオイルの代わりに、癒しの魔力を加える。
その後、部室に戻った俺がアロマディフューザーのスイッチをONにするなら、超音波により噴霧されるは癒しの魔力を帯びたヒーリングミスト。
「くんくん。えー何この香り?!」
「くんくん。むっちゃ良い匂いがする感じ?」
「くんくん。何か勉強やる気が湧いて来た!」
癒しのヒーリングミストを浴びたギャル3人。スマホを投げ捨てると、テスト用紙に向き合い猛烈な勢いで勉強を開始する。
鼻孔から吸い込むミストは脳へと至り活性化。皮膚呼吸から取り込むミストは全身の体調を整える。直接触れての揉みほぐしには劣るものの、十分な癒し効果といえるだろう。
となればこの癒しのヒーリングミスト。うまくやれば商売になるのではないだろうか?
必要となるのは、市販のアロマディフューザー。
そして、俺が魔力を込めた癒しの魔力水。
この2つが揃うなら誰もが手軽に癒しのヒーリングミストを体験できるのだから、評判が評判を呼んでバカ売れ間違いなし。
問題となるのは癒しの魔力水をどう用意するかだが……
それはリラク部の活動を通じて詰めていけば良いだろう。
何せリラク部には学年1位の頭脳の持ち主。東堂さんもいることだから、良いアイデアも出るだろう。そんな期待を込めて視線を向ける先。
「んほー。このヒーリングミスト。たまんねえー」
まるで酔っぱらったかのように、ぐでんとした醜態を見せる東堂さん。
うーむ。ギャル3人組は集中力が上がるだけだというのに、いったいどうしてこれ程に妙な効き目がでるのか? 謎である。
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