第14話 そういえば東堂さん。理事長先生のところへ行けと言っていたな……
授業も終わり放課後。俺はあらためて職員室の前まで来ていた。
新クラブの設立に必要なメンバー3人の署名は集まったものの、昨日の話では予算の都合上、理事会の審査を通るのは難しいと。このまま担任の先生の所へ行ったとして、新クラブ設立が認められるかどうかは微妙である。
そういえば東堂さん。理事長先生の所へ行けと言っていたな……
どういう理屈で言ったかは知らないが、ダメ元で行ってみるか。ダメだったなら担任の先生のところへ行けば良いだけと、俺は理事長室のドアをノックする。
コンコン
「すみません。理事長先生いらっしゃいますでしょうか?」
「入りたまえ」
どうやら在室のもよう。こうなったら腹をくくるだけである。
「すみません失礼します。1年生の平良 比呂です。理事長先生におかれましては本日はお日柄も良く……」
「新クラブ設立の件じゃな? 書類は用意しておる。持って行け」
……え? ……は?
「何をしておる? ワシも暇ではないのじゃぞ?」
「あ、はい。すみません。ありがとうございます」
マホガニー製だろうか? 豪華な机に置かれた封筒を手にとる。
「2年振りの学生生活。周囲との
「え? あ、はい」
理事長先生の言わんとすることはいまいち不明であるが、苦虫をかみ潰したようなその顔に、俺はそそくさ理事長室を後にする。
いったいなんだったのか? 東堂さんが話を通してくれたのだろうか?
受け取った封筒を開けると、中には新規クラブ設立の申請用紙。すでに俺、朱音、東堂さんの名前と理事長先生、校長先生の印鑑が押されていた。
それと……これは部室の場所を記した地図か?
すでに部室の用意もされているとは至れり尽くせり。さっそく部室へ行ってみようと俺は地図を片手に移動する。
部室棟の3階。書類によるとこの部屋だが……第3資料室? 鍵を試す前にドアが開いてないか手をかけたところ、ドアはすんなり開いた。
「どうやら無事にクラブを設立できたようですね」
「おにい。遅いわよ」
室内には椅子に腰かける東堂さんと朱音の姿があった。
「は? 2人ともなんでここに?」
「なんでも何もここがリラク部の部室ですから」
「おにいが遅いから適当に片づけておいたわよ」
室内の壁際には何らかの資料が詰め込まれた本棚やロッカーが立ち並び、その中央に長机と椅子が置かれていた。
「元々は資料室ですが、たいした資料もないということで部室としての許可がおりました」
「他に空いてる部屋なかったんだってさ。まあ狭いけど静かで良いんじゃない?」
棚の資料を適当に見てみれば文化祭の資料や卒業アルバムなどなど。過去に在籍していた生徒たちがの資料が保管されている。
「捨てるに捨てられず特に使い道もない資料というところか……というか、それよりもだ」
室内を軽く見まわした俺は2人に向き直る。
「リラク部の件。東堂さんが理事長先生に話しを通してくれたのか?」
「ええ」
「そうか。ありがとう。にしてもどうやったのだ? 随分スムーズに話が進んで驚いたのだが……」
「父から電話してもらっただけです」
「確か東堂さんの父親は市議会議員。ということは、もしかして……」
議員といえば政治家。政治家といえば賄賂に裏工作。つまりは真っ当ではない手段を用いて理事長先生に働きかけたというわけだ。
「……どうりで理事長先生が不機嫌なわけだ」
自分の管轄する学校に外部から、議員からちょっかいが入って愉快なはずはない。
「失礼なことを考えていますね。別に私は賄賂も裏工作も頼んでいません。現在のお兄さんの境遇。クラスからハブられている状況を放置しては万が一の事故もありえるのではないか? そう父から電話してもらっただけです」
行方不明事件から2年ぶりの生還。2年ぶりの学生生活を2留として始めたのが俺である。となれば周囲の関心は俺がクラスに馴染めるかどうかにある。
それがクラスからハブられている状況。それを苦に自殺などしようものならマスコミにとって格好の餌食。理事長の責任問題となることは間違いない。
それを回避するため。そしていざそうなった場合も学校側は最大限の便宜を図ったと言い訳するためのクラブ設立というわけだ。
「べつに俺はハブられていない……と思う。なんといっても松田さんが相手してくれるわけなのだが?」
「はあ? あんなマスコミ女。おにいのスキャンダルに興味があって寄って来てるだけじゃない」
……はい。
「だが……そう、ギャルだ。ガングロギャル3人も俺をからかって遊んでくれるぞ?」
「はあ? からかって遊んでるって自分で言ってるじゃん?」
……まあ、とにかく。経緯はともかく無事にリラクゼーション研究部は設立した。となれば、さっそく活動開始である。
「いえ。残念ですが、期末試験が終わるまでクラブ活動は禁止です」
はい。
「でも氷香。この部室。試験勉強するのに丁度いいんじゃない?」
適度な広さのある部室。言われてみればそのとおりである。
「そうですね。部室で勉強する分には先生方にとがめられることもないでしょうが……」
「じゃさ。期末試験までの間、放課後はこの部室で一緒に勉強しない?」
「ですが……お2人は一緒に自宅で勉強する方が落ち着くのではないですか?」
そう言ってチラリ俺たちを伺う東堂さん。
いや、別に俺と朱音は一緒に勉強しているわけではないのだが……
「いやー。それが自分の部屋だとどうしても甘えが出るというか、遊んでしまうというか……ね? おにい」
ね? などと同意を求められても困るという。俺は場所がどこだろうが勉強するに問題はない。だが、俺に向けて何やら合図する朱音の姿。
中学時代、氷姫(笑)という異名で呼ばれた東堂さん。つまりはいくら格好良く言おうがボッチであり、友達といえるのは朱音だけ。
期末試験を間近にクラスメイトたちが教室や図書室で集まり勉強する中、唯一の友達である朱音が自宅で俺と勉強したのでは東堂さんは再びボッチとなるわけだ。
「そうだな。じゃあ試験までの間、部室で3人で勉強するか」
同類相哀れむ。同じクラスボッチである俺としても見捨てるわけにはいかないというわけだ。
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