前のエピソード――2023/06/15 事件の余波

　かなり気持ちが落ち着いたので、もう取り乱したりはしていない。しかし、鬱の症状は悪化した。苦しくて頭が痛いし、理由もないのに絶望するし、動くのがとても億劫だ。加えて生理痛まで襲ってきたものだから、気分は最悪である。どうしてこんなひどいコラボレーションに見舞われなければならないのか。今日は出かける予定があるのに、全く気が乗らない。

　そういえば、今日は暑いな、と思った。

　ずっと前に買った半袖の服を着てみようか。

　私は三月に単身タイへ旅行に行った際、自分へのお土産としてブラウスを買っていた。タイは常夏の国であるし、三月四月辺りは殊更に暑いということで、当然涼しげな服しか売っていなかった。そしていざお土産を持って帰ると、日本はまだ寒く、家ではまだストーブを焚いている有様だった。故にブラウスを着る機会が今までに一度も訪れなかったのだ。だが、今日くらいの気候ならむしろ丁度良いだろう。

　ブラウスは全体がベージュ色で、二重構造になっている。内側は普通のシャツ。外側には刺繍レースが被さっている。刺繍の模様は花や葉や円形などの優美な形で、隙間もたっぷり取ってあるのがお洒落である。

　着てみると、シルエットも非常に綺麗だった。半袖の部分と胸元の部分はゆったりとしていて、ウエストの部分はきゅっと絞られている。こういう形の服は、少なくとも私は日本では見たことがない。これは良い買い物をした。

　お気に入りの服を着ると気分が上がるという話は前にもしたが、今日も例に漏れず少し気分が上向いた。とはいえ鬱症状と生理痛が消えるわけでもないので、私はつらさでほとんど半泣きになりながら目的地まで向かった。素敵な服を着ていなかったら冗談抜きに泣いていたかもしれない。

　因みに用事自体は楽しかった。

　そして用事が終わったらまた絶望感が襲ってきた。

　何なんだ……。