第17話 αの悩み

 ーーお前は強いし、優秀だからひとりでも平気だよな。そもそも、βの俺がαのお前に釣り合うわけがなかったんだ。


 私は何回もそうやって振られてきた。

 何度も何度も、αであることを恨んだ。

 そして。

 辛くなるからと恋愛からはなれていた。

 そのはずだった。


 ひとりが平気なわけなんかないのに、どうして私は平気だと言われてしまうのだろう。


 私は結のキスを受け入れながら、このまま時間が止まってしまえばいいと願っている。

“好き”という感情はすり減っていく。

 だから、このままがいい。


「千夏、わたしのこと好き?」

「……好きになりかけなんだと思う」

「好きになりたくないって聞こえるよ?」

「……私はうまく恋愛できないから。いつもαだからってダメになるの。αになんかに産まれたくなかった。αなんか大嫌い」


 結といると少しずつ自分を守っている鎧がなくなっていく。

 笑顔が泣き顔になっていく。


「……じゃあさ、千夏のものにしてよ。うなじ、噛んでよ。そうすればずっと一緒だよ?」


 泣きながら私は首を横に振る。

 ぎゅっと結が私を抱き締めてくれる。


「……少し、落ち着いた?」

「取り乱してごめんね」

「わたしのフェロモンのせいだと思うから気にしないで」


 詳しい話はしないまま、カメラを選んでいく。

 私はそれぞれのカメラの特徴を丁寧に説明する。


「……スマホのカメラじゃダメかな?」

「ダメではないけど、どうしてスマホなの?」


 返事の前に結が私のことを撮る。


「わたしはこういう“日常”を撮りたい。一瞬一瞬色を変える千夏を撮りたい」


 結の言葉に私はまた赤くなってしまう。

 どうしよう。嬉しくて仕方ない。


「綺麗だね、千夏は」


 結は優しく笑っていた。

 どうしよう。

 自分が思うより、私は彼女のことが好きかもしれない。


 ☆


「……あれ?んー?」

「どうしたの?」

「いつの間にか主導権が移ってた気が……」

「いいじゃない」


 ボクは釈然としない顔をしていたら、双葉は笑っていた。


「あ、そうそう。お母さんと病院に行ってきたんだ」

「なんの病院?」

「精神科。生理が来たからさ、性同一性障害かどうか診てもらったんだ」

「どうだったの?」

「性同一性障害だった。まだどっちの性にするかは決めてない」

「迷ってるの?」

「うん。ボクは親がくれた身体に無理矢理手を加えたくないんだ。だから、どっちつかずの今が1番ボクにはあってる気がするから」

「そうだね。私も今のままがいいと思う」


 ボクは双葉のその言葉に嬉しく思う。


「どっちのボクも好きでいてね?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る