第3話 告白って

「いけなくなんてないよ?泣きたいときは、泣かなきゃ」


「…」


「それに、るるる、理由、せんせに説明できる?」


「え?」


「だって、なんで泣いたか、るるるも分かってないでしょ?」


「………千里眼があるのは…鍋島君の方…みたい…」


「うん。僕、るるるのことなら、なんでも分かるよ」


「…そんなこと…簡単に言わないでよ…。私の考えてることなんて…きっと…99%は分かってないよ。たまたま、1%が当たっただけ」


「そうかもね。でも、るるる、これだけは言わせて?」


鍋島君は、小指だけだった握った指を、薬指まで絡ませて、告げた。


「僕、るるるのこと、からかってないからね」


その瞳に、嘘がないことくらいは、私にも分かった。こんな、自分を卑下してばかりの私でも、こんな、みんなに騙されてる…なんて被害妄想たらたらの私でも…。


「教えてよ…鍋島君…」


「なぁに?」


「私のこと、すきなの?」


「すきだよ」


「何処が?」


「ぜんぶ」


「じゃあ…すきじゃないんだね…」


「…なんで?」


「そんな、曖昧な言葉が…欲しかったと…思う?」


「じゃあ、言うよ?ぜーんぶ、聴いてくれる?」


「…?」


「中1、5月6日。僕、誰からもらった手紙…多分、ラブレター捨てた。それ、るるるが、拾って言った。『そういうの、さいてーだよ』って。中1、10月19日。僕、他のクラスの男子に、『お前、キモイ』って言われた。そしたら、『キモイって言うやつのキモさが1番キモイと思うけど』って、るるる、通りすがりに言って行った。多分、僕の顔、見てなかった。中2、8月1日。クラスで秋祭りに行こうって言う話になったの、憶えてる?」


「…うん」


「僕、男子に言われた。『お前、女子全部かっさらうから、来るな』そしたら、るるる言った。『それ、女子かっさわれるあんたたちに魅力がないからでしょ?もっと自分磨きしないよ』って…。どんなに、反省したか、どんなに、嬉しかったか、どんなに救われたか、るるる、分かる?」


「…」


瑠祢は、それを言われるまで、全く、覚えてなかった。でも、言われてみれば、そんなようなこと、したし、言った。


「もう…そんなのが積み重なって、気が付いたら、るるるがすきですきで、仕方なかった。今の女子は、みんな一緒のセミロングの髪型して、前髪薄めで、内巻きで、リップ、ピンクきらきらで…。でも、るるる、ボブで、前髪厚くて、ぼさぼさで、リップクリームさえつけてなくて…」


「それって、嫌いになる理由だよね?」


「ううん。磨いてあげようって思った。僕のるるるにしたいって、想っちゃった」


「…告白まで…あざといな…。普通に…出来ないの?告白」


「じゃあ、るるるは、どんな告白なら嬉しいの?」


「告白なんて、されたことないからわからない。あ…でも…」


「でも?」


「壁ドンだけは、辞めて欲しい。鍋島君、絶対しそう…。それやられたら、完全に、泣いた理由、自分が思ってた通りだったんだな…って思っちゃいそう…」


「そんなこと、しないし…。るるるの中で、僕のイメージどんななの?」


ちょっとげんなりして、鍋島君が肩を落とす。


「うーん…。あざとい弟系?甘えんぼ弟系?とりあえず、弟」


「それは、心外だな。僕は、別にしたくてしてる訳じゃないよ?この性格。…るるるの前では、したくてしてたかもしれないけど、それが逆効果だったんだね…。残念」


「残念。鍋島君の性格は、生まれつきなんだから、私とは…世界が違ったってことだよ…。私は…この性格を変えられない。鍋島君も、その性格を変えられない。だから、もう、終わりにしよう?」








「そんな風に、泣きながら、言わないでよ…」


「…私、からかわれてると思ってたんだよ。私、騙されてると思ってたんだよ。私、信じてなかったんだよ。…鍋島君のこと…。こんな私に、鍋島君と付き合う資格ない。釣り合わない。告白なんて、出来ない。させる訳…いかない…」


「…瑠祢は、なんで、そんなに自分に自信が無いの?僕が、こんなにすきなのに…。100人になーんとなくすかれるより、1人に、うんとすかれる方がよくない?僕、100人分くらい、瑠祢のこと、すきなんだけど。ダメ?」


「…それすら、疑ってる…。こんな私、すきにならない方が良い」


「それ、瑠祢が決めることじゃない。僕がきめること」


階段の上段。見つめ合う2人。いつの間にか、片手だけ握られてたはずの、瑠祢の小指と薬指だけ握られてたはずの、その手が、両手になって、10本指になって、すんごい力で握られて、痛いくらいで…。


その瑠祢の両手が航大の片手に収められ、静かに時間が過ぎる。



航大の左手が、瑠祢の髪を触る。


瑠祢の頬を触る。


瑠祢の肩を触る。


瑠祢の脈を触る。


瑠祢の涙を拭う。





瑠祢のくちびるを触る。


荒れてる。皮、剥けてる。でも、関係ない。航大は、少しずつ、顔を瑠祢に近づけて行く。


瑠祢の手が、頬が、肩が、くちびるが、震える。





航大、瑠祢、2人の、ファーストキス―――…。




「1つ、お願いがあるんだけど…」


瑠祢が、震えるくちびるで言った。


「何?瑠祢」


るるる、とは、呼ばない。






「嫌いに…ならないで…」


「また、泣く…。瑠祢の泣き虫。実は、僕のこと、相当好きだったね?」


「うん」


「………」


なんの、躊躇いのない、一瞬の間も無い、瑠祢の返事に、航大は、危うく、泣くところ…だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

君の声が甘ったるいから @m-amiya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ