正門前

 警鐘が王都中に響き渡り、王城の周辺に常駐していた兵士や騎士達、第一区画の北や西の監獄から離れた場所にいた者達は、急いで大通りに駆けつける。


 ところが、第二区画の住居から避難してきた民間人が、全ての門に押し寄せて、我先にと避難をしている最中であった。

 この避難する民間人が、障害物となり、王都にいた二万の兵を機能停止に追い込んでいた。


 第一区画の大正門は開きっぱなしにして、オリイルと部下たちは待機。

 馬は行商人が使っていた者や殺した騎士のものを奪い、リースが来るのを待っている。


「隊長」

「……なに」

「良かったんですか」


 オリイルは遠くにある門を見つめ、冷静に周囲へ目を配る。


「紗枝さん。……死にますよ」

「分からないでしょう」


 部下は悪気があって言っているわけではない。

 現在は、紗枝が打ち出した作戦が機能し、家屋や民間人、火の手などのあらゆる障害のおかげで、大勢の兵士達が混乱している。


 とはいえ、二万人もの兵数がいて、王城や区画の隅には、巻き添えを食っていない兵士達が山ほどいるのだ。


 囲まれたら、いくら紗枝と言えども、命がないだろうという事は火を見るより明らかだ。


 オリイルは悩ましげに俯き、「仕方ないでしょう」と嘆息する。


「同じ女として。……覚悟を無下にできないもの」


 再び、元の位置に目を向けると、大きな門の扉が僅かに動き、大勢の民衆が散り散りになって漏れてきた。兵士は誘導して、外へ出るように障害物を減らそうとしている。


「早く……きなさいよ……」


 空を飛ぶ魔族の女に目を移し、オリイルは呟いた。

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