第79話 面倒事が起きるとしか思えない


「…………はい? 異世界?」

「そうですね、異世界です」

「私を騙そうとか、本当は話したくないからはぐらかそうとしているのではなくて?」

「えぇ、真面目な話ですね。 嘘偽りのない、俺がこの世界で唯一無詠唱で魔術を行使できる理由ですね。 あと、それは俺がこの世界の男性としてありえない程の魔力量を持っている事にもつながります」

「そ、そうか……ふむ、実に興味深い話だな……」


 俺がそう話すと斎藤博士は『ふむふむ』と顎に手をのせて興味深げに何やら思考を巡らせ始める。


「俺の話を疑わないんですか? 自分で言ってはなんですが自分でもいきなり異世界と言われても信じられないと思うんですが……」

「いや、確かに急に異世界へ行った結果とんでもない魔力量を保有し無詠唱で魔術を行使できるようになったと言われたら嘘だと疑うかも知れないのだが、私は実際にこの目で東條君のこの世界のトップレベルの魔術師たちよりも多い魔力保有量に見たことない魔術の数々にその威力、挙句の果てには無詠唱でその魔術を行使したところを見てしまっているわけだからな……。 そんな私から言わせてもらうと、むしろ『別の世界から来た異世界人です』と言われた方が納得がいくもんだ。 なので東條が『異世界へ行った結果です』と言われても何とも不思議とも思わないな。 むしろ私の中の疑問が全て吹き飛んだよ」


 そう斎藤博士は言うと『ははははっ』と気分よく笑う。


「しかし、新しい謎がまた産まれたのも事実なわけで、それはそれで私の中の探求心がくすぐられるというものだよっ!! 例えばどうやって異世界へ行ったのか、私たちが異世界に行けたとしても東條君と同じように魔力保有量が増え、無詠唱で魔術を行使できるようになるのか、など現時点で解明したい謎ばかりだっ!!」

「それにしても異世界ですか……興味深いですね」

「次行くときは私も一緒に連れて行ってほしいわね……。 異世界に現地妻が居たらちょっと話し合わなければならないので……」


 そして俺はもし万が一異世界にもう一度いけるようになったとしても氷室麗華だけは連れて行くまいと心に誓う。


 現地妻はいなかったが、同じパーティーで生き残った中にエルフの女性魔術師がいたからな……。 変に誤解されても面倒事が増えるだけだ。 ……というか面倒事が起きるとしか思えない……。


 まぁ、異世界へ行く方法など分からないので行けないんだけどな。


「しかしながら、無詠唱で魔術を行使できるという事は今東條君に渡している魔術行使用媒体を更に改良しないといけないな……っ!! あぁ、腕が鳴る……ではなくて下半身が疼くなぁっ!!」

「何で最低な方へ言い換えたんですかっ!? 腕が鳴るで良いじゃないですかっ!!」

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