第78話 鶏が先か卵が先か

「や、俺は残りの人生は平穏に過ごしたいのでそんな追われる身ないし討伐されるのを待つ仕事はごめんですね。 いつ来るのか分からないのに毎日勇者にいつ討伐されるのかを待つというのはストレスで禿げそうですし……」

「何だ? 男の癖につまらん奴だなっ!!」


 というよりも斎藤博士の方が異常なんですよ、と言いかけた所でグッと堪えて飲み込む事ができた俺を誰か褒めて欲しい。


「とりあえずこの話はおいおい話すとして──」

「ずっと置いておいてください。 ついでに金庫に仕舞って鍵を掛けて倉庫の見つけにくい奥の隅にでも置いておいてください」

「──魔術行使用媒体を使わずに魔術をどうやって行使したかというのが本題だっ!! これさえ分かれば我々は世界を取れるぞっ!!」

「あ、スルーですか」


 そして斎藤博士は俺の言葉をスルーし、そう鼻息荒く喋ると、まるで悪の組織のボスのごとく両手を広げて胸をそり高笑いを始める。


 その姿を見た俺や中島助手はドン引きし、麗華は何故か頬を赤く染めてキラキラした目で斎藤博士を見つめていた。


 ……え? 麗華? 嘘だよな……? …………見なかった事にしよう。


 というか俺の中の麗華という人物像がここ最近でぶっ壊され続けてもう壊れないだろうという所から更にぶっ壊れたのだが……気にしたら負けな気がするというか、当初思っていた氷室麗華という人物像がどこまで壊れていくのか興味を持ってしまったら戻って来れなくなってしまう気がする(実際に第六感がけたたましく警告音を鳴らしている)のでこの件に関しては関わらないというのが正解だろう。


 深淵を覗いている時、深淵もまたこちらを覗いているのだ。


「何ですか、その悪の組織のトップみたいなノリは……」

「すまんな、私の知らない知識をこれから吸収できるのだとしたらつい……。 東條君もそんな時は興奮して笑いたくなるだろう?」

「いやまぁそうですね、ソシャゲで無料で貰った有料ガチャチケットで欲しいキャラクターを一発で当てたりしたときはそうなるかも知れませんけど、流石にTPOは弁えますよ……」


 なんだろうか? 何かを極めるというのは何かを失うという事なのだろうか? それとも元から何かが欠けている者が何かを極める事ができるという事なのだろうか?


 鶏が先か卵が先か……。


 とりあえずまだ片手の指で数えられる程度しか会っていないのだが、もうこの時点で斎藤博士は人として何か大切な物を失っているのだろうなと察する事ができた。


「さすがにこのままだと本題へと戻らない気がするので本題へ戻しますけど、俺が魔術を使えるようになったのは異世界へ行っていたからですね。 そこで女神の祝福を受けたからこそ魔術行使用媒体を使わずに魔術を行使する事ができるようになった訳です。 まぁ、とはいっても俺レベルに無詠唱であそこまでの威力の魔術を行使できる者は稀なので結局向こうでも魔術師は魔杖を使わないとまともに戦えないんですけどね……」

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