第66話 残念でしたわね、的場依鶴さん
どうして魔術行使用媒体が使えないのかは分からない上に、男性たちが急に私たちを攻撃してきた時は少しだけパニックになって頭が真っ白になってしまったのは確かなのだが、それと同時に私は気づいてしまった。
大抵こういう場合、物語のヒロインを助ける為に主人公が颯爽と現れると敵を倒してしまうのだ。
その事に気付いた私は、この現状に恐怖を感じるどころか『良くぞやってくれたっ!!』と心の底から感謝してしまう程であった。
どうして私は『私の王子様がこのピンチに颯爽と現れて助けてくれるっ!!』と信じて疑わない理由の一つに『今まで私がピンチじゃない時には一度たりとも助けに来てくれた事が無かった』というのがある。
もし『私がピンチの時にだけ現れる』というのではなく『その人の気分で助っ人として現れる』というのであればピンチじゃない時にも表れていていないとおかしいからである。
ということはだ。
逆に考えると『あの時は私が死にかけたから助けに来てくれた』という方程式が出来上がる訳である。
そして、私の少し離れた所で私と同じように魔術行使用媒体を行使できずに男性から一方的に攻められている的場依鶴も、私とだいたい同じことを考えているであろう事が、どう考えてもスレットのスタンピードを対処する為に魔力を使い、更に何故か魔術行使用媒体を行使する事ができないというピンチな状況にも関わらず緩み切っているその表情を見れば、的場依鶴の考えている事など丸わかりである。
しかし。 しかしである。
的場依鶴は真実から目を背けて自分に都合のいい誤った答えを導き出しているのだろう。
でなければあんなにも緩み切った表情をする筈がないのだ。
それは少し考えれば分かる事なのだが、その『すこし考える』というのを止めたのであろう。
あぁ、なんと可哀そうな的場依鶴さん。
そこで考える事を止めたという事は、本当は心の奥底では真実に気付いているのだけれども知らないふりをして自分に都合のいい答えに縋ってしまったという事でもある。
そう思うと、的場依鶴さんに対して申し訳ない気持ちを抱いてしまう。
そして何故私はあの王子様が私がピンチの時に助けに来てくれたのだと断言できるかというと、あの時『死にかけていたのは私一人だけ』であったのである。
それは言い換える『私が死にかけたから王子様は助けに来た』という何よりもの証拠であろう。
残念でしたわね、的場依鶴さん。
「くそっ!! 無駄に粘りやがってよぉ~っ!! うぜぇんだよっ!!」
「きゃぁっ!?」
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