第46話 やりたい事


「あぁ、私の王子様はいったいどこにいるのかなぁ……?」


 そして氷室麗華のパーティーであるもう一人、大槌千里に至っては件の男性に陶酔しているであろう事が見ただけで分かるくらいには使い物にならなくなっている。


 もう、このパーティーは駄目だろう。


「あら、私が最後みたいね……」


 そんな事を思っていると、やけに血色のいい氷室麗華が待機室へと入ってくるではないか。


 緊張感のかけらもないその表情は、まるで遊びに行くかのようにすら見える。


 確かに私はこないだの麗華たちのようにたかがスレット一匹相手に後れを取るような失態をしない自信があるし、そもそもスレット如きが何匹束になろうとも負ける事を想像すらできない。

 

 そういう面では私も緊張はしていないのだが、もし増援に選ばれたメンバーはスレットを倒すという任務の他に、その討伐方法が上からの評価対象にそのまま繋がるのである為、その部分では私も少なからず毎回適度に緊張しているし、その適度な緊張感を利用して集中力を高めている。


 であればこそ前回の一件は麗華たちにとって致命的な一戦であった事は間違いなく、そして上からの評価も一気に下がった事であろう。


 だというのにこの緊張感の無さは何だ?


 これではまるで国家魔術師になる事を諦めたかのように見えるではないか。


 こないだの一戦で落ち込むのならば分かるのだが、麗華ほどの魔術の使い手が国家魔術師を諦めるなどあり得ないと思ってしまう。


「……そのだらけきった表情は何かしら? 国家魔術師を目指すのを止めたのかと思いましたわ」

「えぇ、そうね。 私は国家魔術師を目指すの止めたわ。 他にやりたい事ができたもの」


 そして私はその事を麗華に冗談めいて言ってみる。


 どうせいつものように突っかかってくると思っていたのだが、わたしの予想は外れていたようで、実際に氷室麗華の口から出た言葉は『他にやりたいことが出来た』であった。


「…………はい? 今なんと?」


 流石に私は氷室麗華からでた言葉を信用できなかった為、聞き間違いの可能性があると思って聞き直す。


「まったく、流石に聞こえているでしょう? 何度も同じことを言わせないでちょうだい。 国家魔術師に入る事よりも優先順位が上の、私がこれからやりたい事ができたって言っているの。 そう、私はこれをする為に今まで魔術の技術を磨いて来たのだと思えるほどのモノと出会ってしまったの」


 そして麗華は私の問いにやはり『国家魔術師よりも他にやりたいことができたから』と答えるのだが、私はこの麗華の答えにふつふつと怒りが湧いてくるのが自分でも分かる。

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