第43話 その声で俺は思い出した
それでも麗華の不安が消え去った訳ではないので、精神的年齢で見れば俺の方がだいぶ年上であり、実際にそれだけの年数を生きてきた人生の先輩としてもう少しだけ付き合ってやることにする。
甘いのかもしれないが、子供相手はそのくらいが丁度いいだろう。
そんな事を思いながら俺は麗華の頭をくしゃくしゃと少し乱暴に撫でる。
「ちょ、ちょっとっ!? 髪の毛がぐしゃぐしゃになってしまったじゃないのよっ!!」
「まぁ、最悪俺が助けてやるからそんな暗い表情をすんなよ」
「…………本当かしら?」
「多分……?」
「多分って……、そこで言い切ればカッコ良かったのに、言い切れないあたり話はシマらないし絶妙にダサいわね」
そして、なんだかんだで麗華は楽しそうに俺へツッコミを入れてくるので、とりあえず今はもう大丈夫であるとみて良いだろう。
「…………へぇーーーー意外だな。 まさか氷室麗華と東條圭介がなぁ」
その声で俺は思い出した。
担任である月上先生がまだ教室にいる事を。
そりゃ担任だから請け負ったクラスの生徒が全員避難先へ移動したかどうかの確認をする為に最後の一人が教室を出ていくのを教室で見届けるだろうし、俺だってそうする。
そもそも俺たちの会話を聞かれないように配慮していたのだが、何故聞かれないように話していたのかという事をすっかり忘れ、麗華の頭を撫でたりなんだりと第三者から見れば『イチャイチャしてる』と勘違いされかねない行為をしてしまっていた事に今になって気付く。
できるのならば時間を巻き戻したいのに、時間を巻き戻す魔術は無いので使えないとしか言いようがない。
「……何ですか?」
「いや、何でもない。 しかしながら意外な組み合わせだな……と。 そう怖い顔をするなよ。 何も貴様らの恋路を邪魔するわけじゃない。」
あ、これどの角度から見ても勘違いをしているパターンじゃん……。
どうしたもんかと麗華をみると何故かなんか少し嬉しそうだし……。
少し前までの麗華に、こんな最低な勘違いをされれば、その相手が担任教師であろうとも容赦なくブちぎれ、担任へ訂正させた上で俺に
「いや、そういうのではないんで」
「分かった分かった。 そういう事にしておいてやるから。 そこらへんは先生はちゃんと分かる人だからなっ」
そして俺はすかさず否定するのだが、月上先生は俺の話を聞いていたのかいないのか、生温かい視線を送ってくるのであった。
◆
「ちっ、こんな時にスレットなんか来やがって……っ。 運が悪いにも程があるだろっ!」
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