第31話 東條様だけではないのですよ


「……それもそうですね。 では、氷室さんさえ良ければですが斎藤博士のお言葉に甘えさせていただくことにします」


 少し悩んだのだが、結局俺に渡された『おもちゃ』で遊んでみたいと思ってしまうあたり、俺はやっぱり男の子なんだなって、再確認してしまう。


 男子たるものいくつになっても心には少年が住んでいるものである。


「ありがとう。 私も早速君のデータを取れるようで嬉しいよっ!! それで、東條君もこう言っているだけれど、麗華ちゃんはどうする」

「当然、東條さまの練習相手をさせてもらうわ……っ」

「では決まりねっ!! 早速地下修練場まで行こうではないかっ!!」





「準備は良いかしら?」


 そして俺たちはあの後斎藤博士に半ば強引に地下修練場へと連れていかれ、お互いに魔術行使用媒体を手にして修練場中央で向かい合っていた。


「あぁ、いつでも」

「…………以前の私であればそんなだらけきってやる気のないような態度で、男性からそんな事を言われると間違いなく切り刻んでいたわね……」

「物騒な……。 それで、今はどうなんだ?」

「今は……あの日の東條様を見てしまったからというのもあるのだけれども、隙だらけに見える筈なのに一歩も動くことが出来ないわね。 それこそ、一歩でも動いた瞬間やられる想像しかできないわ……っ」


 麗華は、どうやらしっかりと俺の実力を感じ取っているようである。


 その事が、ただ対峙しているだけで麗華の額に汗が浮き出ている事からも窺えて来る。


 それだけ集中しているという事だろうし、その分体力や精神力消耗しているのだろう。


 そして以前の、男性を舐め腐った麗華であれば気付けなかった俺との実力の差でもあろう。


 まぁ、おれも麗華が分かりやすいように殺気を飛ばしているのだけれども。


 これで、最低限レベルの模擬戦はできるだろう。


「まぁ、初手は麗華に譲るよ。 いつでも攻撃してきていいぞ」

「まさか、男性から手加減されると分かる立ち合い、しかも初手を譲られるような事がこようとは……人生どうなるか分からないものね。 では、東條様の胸を借りるつもりで行かせていただきます」


 麗華はそう言うと、瞳を閉じて集中し始める。


『目覚めよ、白菊一式』


 次の瞬間麗華は魔術師ランクA級以上の魔術師に与えられる麗華専用の魔術行使用媒体を発動させ、麗華の身長よりも長く大きな白銀に輝く刀へ白いキューブ型の魔術行使用媒体を変形させる。


「あ、言い忘れたのだけれども東條様」

「何だよ?」

「実はデータを集めているのは東條様だけではないのですよ。 『世界を白く染める力を。 おいで、白菊二式』」

 

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