第20話 お前の方がおかしいだろうっ!






 ったく、気が付いたら助けに行っている自分が恨めしい。


 なんだかんだ言っても『助けられた筈なのに助けに行かなかった』というのは、言い方を変えれば『見殺しにした』とも言えるわけで、そしてもしあの場で俺は彼女たちを助けに行かずに、翌日あの竜型のスレットによって破壊された町や死亡した人たちの名前をニュースで聞いてしまった場合、間違いなく一生見殺しにした事を咎めながら生きていく事が容易に想像できる。


 結局のところ、どれだけ強い力を持とうが、異世界で魔王を倒そうが、心は依然と変わらず人並みであり、そんな心では『助けられた筈なのに見殺しにしてしまった』というストレスは耐えられるわけが無かったのだ。


 それは、その後様々な面倒事が起こりうるかもしれないというデメリットを差し引いても俺は『現実の平穏よりも心の平穏』を天秤にかけて心の平穏を選んだのである。


「それに、心が平穏でなければ現実の平穏もありえないしな……」


 ずっと後悔していきるというのは思っている以上に辛いものがあり、そして俺はもうこれ以上そういう思いをしたくないのである。


 そんな事を思い、自分を心の中で肯定しながら今日も今日とて東京魔術学園へと通学する為に通学路を歩いていく。


 結局、現実も心も平穏が一番であり、こうした日常を再び過ごせるのであればあの時俺が助けに入った事は間違いでは無かったのだろう。


 あの時助けに行かなければ間違いなくこの町は壊滅状態だっただろうし、こうして何事も無かったかのように学園へ登校する事は無かっただろうしな。 


「…………ちょ、ちょっとそこのあなたっ!」


 うん。 俺の判断は間違ってなかったのである。


「無視とはいい度胸ですね……」


 あぁ、今日も良い天気だぜ……。 まさに登校日より、なんちって。


「なるほど、あくまでも無視を貫くという事かしら? 良いでしょう、そっちがそのつもりならば私にも考えがあります」


 そういうと氷室麗華は魔術行使用媒体を抜き、俺へ攻撃魔術を行使してくるではないか。


「はぁっ!? ちょっ!! いきなりなにすんだよっ!? 下手したら死んでいたぞっ!! てか、街中で緊急事態でもない通常時に魔術行使用媒体を行使するのは違法なんだがっ!?」

「あなたが無視を貫くからでしょう? 嫌ならば初めから無視をしなければ良かったのでは?」

「いやいやいや、普段から関わって来るなってうるさい癖にいきなり刀型の魔術行使用媒体を行使して切り付けてくるってどう考えてもお前の方がおかしいだろうっ!! なんで俺の方がおかしいみたいな感じに言われているんですかねっ!?」

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